第12回 イヴァリースのハローワーク
果たしてその意味たるや何処に、と、そこまで言ってしまうのは流石に口が過ぎるというものだろうか、しかし考えれば考える程、そう思わざるを得なくなってしまうのであった。戦士斡旋所、である。
イヴァリースにある各地の街、都市といった所には何処にだって戦士斡旋所なる施設が設けられており、ここでは幾許かの手数料を払って新たな人間ユニットを雇い入れる事が出来る様になっているのだが、しかし困った事にはそうして雇用したその新人が弱いのだ。
勿論私だって、例えば何とかドラゴンだのヒュドラだのという強敵に遭ったり、突然侍×7とかモンク×10とかいうスペシャルバトルに出くわしてしまったり、さもなければモルボルグレイトの「モルボル菌」を喰らって哀れメンバーの一員たるエイブラハム(仮名)をモルボルグレイトにさせられてしまったりしてこれまで手塩にかけて育ててきたユニットを失った、その返す刀で金だけ払って同等の戦力を得られればなんて虫のいい事は考えちゃいない。だが、だ、それにしても、だ、そこに並ぶ者達は弱過ぎるのではないかと、そう感じるのだ。
まあタイトルにもあるが、戦士斡旋所という場所は考えるに当座の生活にも困っている様な人間が雇い主を求め藁をも掴む思いで登録し、オーナーの目に留まる日を待ついわゆる「ハローワーク」的場所なのであろうから、そこにいる人々が実際に一線で活躍する戦士達に比べてパッとしない存在であるのは致し方ない事と言える。それなりに強い人間であるなら、そんな所に行かなくたって何処かのパーティーからお呼びがかかるんじゃないかと思うし、何だったら一人でだって生活するだけのギルを稼ぐ事は出来るだろうから。
ただそう考えてなお状況は酷い。何せ斡旋所に登録している普く全ての人間は「レベル1・見習い戦士」である。正直、この現状を見て私はこう思ってしまう。「お前等、本当に雇ってもらう気があるのか?」と。
今や斡旋所へ登録している人間は五万といる。悪い言い方にはなってしまうが、代わりなら幾らでもいる。その中で、如何にして他人との違いを顕示するか、如何にして雇い主に自分の売りをアピールするか、そこが重要になってくるんじゃないのか。確かに今は戦争の世だ、戦い手は数多く必要なのかもしれない。でも登録さえしておけばほぼ無条件の様にして自分を雇ってくれる人が現れるなんて事がないという現実はお前等だからこそよくよく分かってる事だろう。だったら、少しでも努力して一つでもレベルを上げておくべきじゃないのか、いつか来る戦いの日々に備えて見習い戦士を卒業しておくべきじゃないのか。そうしたほんのちょっとの努力さえあれば相手に与える印象はまるで違うものになるだろうに。
いつまでもレベル1のまま、見習い戦士のまま、ただただ雇われる日を待っている風にしか見えない彼等から、私は「これから自分は戦争に参加するんだ」という、「並居る魔物達と戦っていくんだ」という気負いを感じる事は出来ない。まあ日々のパンを得る為にこそ戦士斡旋所に駆け込んだ彼等彼女等が、そうまで本気になって「戦い」というものの事を考えたりはしないかもしれないけれど。でもそれにしたって数ある選択肢の中から戦いの中に身を置く事を決断したのだから多少なりとも、ねえ。
実際、そういったやる気なんてものはないんだろうなと思う。何しろ、ちょっと耳を傾けようものなら、彼等彼女等の口から出るのは…