第17回 存在自体消滅寸前
これまでは基本的にある一つの作品に対しての不満をみみっちくも愚痴として吐き出していた訳だが、FFもシリーズ物として全体が括られるだけあって複数の作品に共通の要素が登場するケースが少なくない。ならば、特定の作品を軸に話を展開するのではなく、特定の要素を軸に複数作品にまたがる様な形で粗探しするのもアリではないか。
という事で、今回のテーマはバニシュである。
テーマがバニシュであるというだけで既にして今回の話の流れがお分かりになった方もおられようが、構わず語る事とする。
バニシュの初登場はご存知、FF6での事であった。シナリオ上では、魔導研究所で手に入る魔石ファントムが修得する魔法の一つとして登場した。大体にここでは、直前の魔導工場のイフリート、シヴァを含め計八つの魔石が手に入る為にどうしても一つ一つの魔石の存在感は薄くなってしまう事が避けられない中、地味なデビューを果たした訳だ。必然、プレイヤーから大きく期待される様な事もなかったであろう。勘の良いプレイヤーならば、そのバニシュという魔法名から英単語banish(=追放する)を連想し、そこから更に「ああ、DQのニフラム的なもんかな」と思ったかもしれないが、だからと言ってじゃあ「これは使えそうだなあ」となるかと言えばそんな事もないのだ。だがこの、本当の効果が「対象を透明状態にする」というものであった地味魔法バニシュは程なくして、全国のFF6プレイヤーにその名と効果を認知される存在へと変貌を遂げる事になる。
バニシュ+デス。FF6はおろかFFシリーズを通しても一、二を争うであろう強力コンボ。物理攻撃に対しては無敵になれるが魔法攻撃を100%喰らってしまうという透明状態の弱点を突いた凶悪に過ぎる攻撃である。
このコンボの凶悪たる所以は、これが多くのボス敵にさえ効いてしまう事にある。何しろ、バニシュが効く相手ならば通常時にデスが効く相手であろうがあるまいが誰彼構わず即死させてしまえる。そして透明状態自体は有利なステータス異常である為に大抵のモンスターはこれを防ぐなんて事、端から頭にある筈もない。結果このコンボを用いればあの八竜の面々やデスゲイズですら僅かに二手で葬り去ってしまえるのだ。
MPがたった53もあれば他に特別なテクニックや知識を要さないお手軽技が呼んだ波紋はそれは大きなものであった。流石に卑怯だとすら感じるからか、自ずから禁じ手としたプレイヤーも多かった事だろう。
明らかに製作者サイドも想定していなかったであろう事態。「物理攻撃には強くなれるが魔法攻撃には弱くなる」とした所までは良かったかもしれないのに、ボス敵にバニシュ耐性を持たせていなかった詰めの甘さ。今冬発売のFF6アドバンスにおいてこの点が修正されているのかどうかにもよるが、このゲームバランスを完全に崩す仕様を作り上げた事は十分糾弾させられるに足る罪であったかもしれない。
だが、私はこの件をあげつらってとやかく述べるつもりはないのだ。普段バグ技は使わないが仕様の範囲内であれば基本的にはどんな卑怯な手段もいとわない私ですらバニシュ+デスに手を出す事は殆どなかったけれども、それでもこの件についてくどくどと不満を言うつもりはないし、この技を多用するプレイヤーを卑怯だと切り捨てる事もしない(卑怯だと全く思わない訳ではないが)。何故ならば、「卑怯だ」「邪道である」と思うのなら、単にバニシュ+デス乃至はバニシュそのものをそもそも使用しなければそれだけで済む話であるからだ。そういう意味では私は、「FF6はバニシュ+デスで殆どのボスが片付いちゃうから簡単過ぎてつまらない」とかいう人の方こそ非難したい。丁度、「ナイツオブラウンド強過ぎ」とか言っているのと同じ具合だ。それを行使する事によってつまらなくなるのなら、ただ使わなければいいではないか。何も簡単過ぎるからと言って、低レベル攻略でもしろと言っている訳ではないのだ。低レベル攻略は色々と計画を練ったり、バトルを制限したりという注意も必要で面倒臭いかもしれないが、特定の行動をしないだけの制限攻略なんて難しい事でも何でもないぞ。まあ、この事は今回の本題から随分とずれてしまっているからこれ以上言わないけれども。
ともかくバニシュはFF7では早くも姿を消す事となった。やはり「あんまり」だったからか。FF9で青魔法として待望の復活を果たしたが、ターゲットが味方に限られていた点にも何らかの作意を感じずにはいられない。
FF9以降はまた長きにわたる不遇の扱いを受ける事となったバニシュ。そんなバニシュが今年、満を持して我々の前に帰って来た。「FINAL FANTASY 12」だ。FF6から六年の月日を経てFF9に蘇ったバニシュが、更に六年をかけて現代に蘇るというスクウェア陣の憎い演出。これには、奇跡とも言えたボキャル復活に似た感慨を覚えた者もいるとかいないとか。
だが、変わり果てた姿で帰って来た七英雄という訳ではないが、帰って来たバニシュの体たらくたるや惨憺たるものがあった。いや、これは結構真面目に、デスが効くとか効かないとか、敵をターゲットに出来るとか出来ないとかいう話とはまるで比べ物にならない位の酷さであった。
まずは、FF12版バニシュの効果をおさらいしておきたい。「相手1体を透明状態にする」 これだけを見る限りでは、FF6のそれともFF9のそれとも変わらないものである様に思える。だが問題は肝心の透明状態にあった。
FF12における透明状態の効果は物理攻撃を避けられる様になるというものではない。魔法攻撃は普通に喰らってしまうが、ただ物理攻撃も普通に喰らう。FF12開発スタッフに言わせれば、「それもそうだ、だって見えなくなっているだけで実体までなくなってる訳じゃねーじゃん」といった所なのだろうか。
ではバニシュもとい透明状態の効果とは? 簡単である。「見えなくなるだけ」なのだ。いやいや、ふざけているでもなんでもなく、ただ「見えなくなるだけ」なのだ。もう少し具体的に言うなら、「モンスターに視覚で感知されなくなる」というものである。
FF12のモンスターは、大きく三つの方法で敵対者の存在を察知している。目で相手を捉える視覚探知、耳で相手を探る聴覚探知、(一部の種族に限られるが)HPが残り40%未満の敵対者を感知する生命探知。この他にも、エレメントタイプのモンスターは魔法を使用する敵対者を感知する魔法探知の能力を持つ。そしてここが肝なのであるが、先に透明状態の効果を「見えなくなるだけ」と書いた通り、透明状態になる事で掻い潜る事の可能なモンスターの探知能力は、この内視覚探知のみに限られるのだ。つまりこれは、いくら透明状態になっていて相手の目に見えていなくとも、相手の聴覚で感知される範囲内に入ってしまえば武器を手に取ったり移動したりする際の音でいとも簡単にこちらの存在を知らせてしまう事を意味するのである。
この事実を知った時に私は愕然としたものだ。折角見えなくなったって移動すれば殆どバレてしまう様なものである以上正直言って透明状態、延いてはバニシュの存在意義は限りなくなくなったのではないかと言わざるを得ないのだ。姿を消すだけで音まで消し去る事が出来ないというのが理に適っているのは理解出来ないではないが、だとすれば、他の感知能力に対する対策魔法が存在しているべきではないのか。目が利くモンスターの回避にはバニシュ、耳の利くモンスターの回避にはその為の魔法、或いはそれらの併用、といった戦略を練ってこそ、「ただ見えなくなるだけ」のバニシュに意味を見出せるというものではないのか。
FF6のバニシュ仕様が仮に製作者の意図したものではなかったとしても、私はそれを不問に付そう。何故なら使わなければいいだけの話だから。だが強力過ぎるから使わないのではなく、最初から使えたもんじゃないとなると話は違うだろう。
もう一度考えてみて欲しい。実に六年振りにもなる復活でこんなにも評判を下げてしまったバニシュの事を。満を持しての復活に合わせて用意した上位魔法バニシガの存在が、こうして見るとあまりに哀れではないか。でもそれは、バニシュが悪いんじゃない。勿論バニシガが悪い訳でもない。全てはそれら魔法がもたらす透明状態の役立たなさと、透明状態をその様に仕立て上げたFF12開発スタッフに非があるのだ。
だが事実、今回の件でバニシュは「役立たず魔法」のレッテルを貼られる事となった。この分では、次回登場がまた六年後という事にもなりかねない。それどころか、今回を最後に今後の出演はご遠慮戴けると…という結末を辿らないとも限らないだろう。
開発陣のミスによって華々しいデビューを飾り、そして開発陣のミス同然の失敗によってよもや晩節を汚す事になったかもしれない悲劇の魔法バニシュ。これで更に後発のFF6アドバンスでバニシュ+デスが使えなくなっていて、「あーあ、これで本当に役立たずになったよなー」なんて言われたらと思うともう私は不憫で仕方がない。いわんや初登場で早々に酷評されたバニシガにおいてをや。
FF6アドバンスについてはもうどうなるか決まっちゃってるだろうからどうにもならないと思うが、スクウェアさん、この何とも浮かばれないバニシュという魔法に華を持たせてやってくれないかなあ。このままフェードアウトじゃあまりに可哀想でしょう。ちゃんとした、それでいてバニシュ+デスみたいに裏技紛いではない華を。ね、物言わぬバニシュは本当は影で泣いてるぞ。嘘だけど。
ちなみに六年振りとか言っといてFF11には「対象に光属性のダメージを与える」という効果のバニシュなる魔法があるが、そいつの事は無視する方向で。よく知らんし。