第16回 回復貧乏

第13回「マニュアルターゲット機能」に続く、FF1不満足仕様断罪シリーズの第二弾である。ちなみに、三回シリーズである。

さて早速本題に入ろう。今回のテーマは、とにかく回復手段について色々と不備があるんじゃねーか、という話である。
例えば、これだ。対象の戦闘不能状態を解除する白魔法レイズ、アレイズ、それから対象の石化状態を解除する白魔法ストナ、そして対象の石化状態を解除するアイテム「きんのはり」が移動中にしか使用出来ない。端的に言えば、戦闘不能と石化の二つのステータス異常が、バトル中に解除出来ないという事だ。この事実が生む問題点が静観するには過酷なものである事はお分かりだろう。
普通にHPを0にさせられて戦闘不能に陥る分には、実はさして問題になるという訳でもない。その程度の事を対処出来ずして、如何な方法で高難度として悪名高いあのFF1をクリア出来ようか。だが、この仕様は即死効果付きの攻撃を繰り出してくるモンスターと対峙した時、突然にその牙を剥くのである。
普通にFF1をプレイしていれば、即死攻撃の脅威に最初に気付かされるのは、ダークエルフ王アストスとの戦いにおいてであろう。シナリオ的にはまだ外海にも出ていない、まだどのクリスタルにも光を取り戻していない序盤での事である。なのに、手加減というものを知らないのか奴めはデスなどを平然と唱えてくるのだ。仮にバトル開始間も無く主力キャラが倒されてしまった場合、我々は早くも勝機を失う事になる。こちとらまだ高々レベル3の魔法までしか扱えないってのに、どの面下げてレベル6の魔法を唱えてやがるんだ。
無論、ゲーム進行度に相応の魔法を使用していれば問題はないのかと言われれば、そうは問屋が降ろさないのがFF1のFF1たる所以である。仮にアストス戦を突破出来たとしても、プレイヤーには次に「FF1の最難所」としても有名な氷の洞窟の前に、絶望を味わう事になるのである。
氷の洞窟、ここは酷い。何が酷いって、まずダークウィザードが酷い。ザコ敵であるにも拘らず先のアストスが使用したデスを唱えるのだが、こんなものは奴にとっては序の口である。何しろ奴はデスに加え、敵全体に即死効果のクラウダを頻繁に使用する。運良くデスやクラウダを使われなかったとしても、単体麻痺魔法のスタンでこちらの戦力をいやらしく削り、ファイガやサンガーでHPを大幅に削ってくるという凶悪さ。それが、アストスとは違って複数体がまとまって出現するのである。数体も現れられてしまってはまともに相手する事すら不可能であろう。我々に許されたのは逃げの一手である。が、やたらと素早い奴等の先制攻撃を前に、逃げの一手すら通用しない事も珍しくはない。
そして、マインドフレイアがこれまた酷い。マインドフレイアと言えば麻痺効果の「マインドブラスト」が有名であるが、FF1時分はこれが全体攻撃であった。そして何故か即死効果の通常攻撃。「マインドブラスト」で身動きが取れなくなった所へ、即死攻撃によって一人ずつ倒されていく恐怖の光景が目に浮かぶ様である。
洞窟内攻略中はただただこいつらが出現しない事を祈るしかない。もし出て来られてしまえば、戦うにしろ逃げるにしろある程度の運を必要としてしまう理不尽さ。何故、エンカウントの度に「まさかあいつらなのでは」という緊張感に苛まれなければならんのだ。物語はまだ中盤。どうしてこんな凶悪なダンジョンの存在が許されてしまったのか、それを今もって疑問視してしまう。
そして、即死攻撃の極め付けは誰あろう、ラスボスであるカオスの特殊攻撃「じしん」である。これも全体攻撃。長いダンジョンを攻略したその果てのラスボス戦に、常時一撃全滅の可能性があるという事実はあまりの恐怖であろう。
これだけの難敵を用意していて、どうして戦闘不能状態をバトル中に解除出来る様にはしなかったのか。正直ダークウィザードなぞは、回復させようとしている隙にも次々と凶悪魔法が浴びせかけられる訳だから、復活可能な仕様であったとしても「理不尽過ぎる」と言われていたんじゃないかと思うのだが。

復活のタイミングが限られている事以外にも、復活の手段が魔法に限定されている点も見逃す事は出来ない。各種魔法は1レベル毎に数回しか使用出来ない中にあって、特に氷の洞窟なんかでは戦闘不能者の発生する度に唱えていては全くもってレイズの使用可能回数が足りたものではないのだ。だからこそプレイヤーはもう殆ど「にげる」しか手立てがなくなる訳であるが、それをして無事でいられるかどうかは運頼みであるという横暴さは、先に述べた通りである。
これらの、戦闘不能状態に対する数々の問題点からすると、石化状態の方はアイテムで解除出来るから買い溜めしておけばそうそうピンチになる事もないだろうが、それにしたって「きんのはり」をもバトル中に使用出来ないというのはおかしな話である。FF1では「くすり」コマンドを選択する事で、「ポーション」乃至は「どくけし」をバトル中に使用出来るのだが、何故「きんのはり」は同じアイテムでありながら、「くすり」コマンドから外れてしまったのだろう。確かに「きんのはり」は「くすり」ではないが、まさか本当に「薬ではないから」という理由で除外されてしまったとでも言うのだろうか。何でそんなに杓子定規なんだ。
ちなみに、石化攻撃と言えばコカトリスが有名であるが、FF1におけるこいつの出現場所もまた氷の洞窟であるという事を付け加えておこう。他にもウィンターウルフとかホワイトドラゴンとか…そこら辺の調整が誰担当だったかは知らないが、何だって氷の洞窟にこれ程まで集中的に難敵を配置したんだか。何かムシャクシャしてたとかか。

さて、石化状態はまだましであるとしても、戦闘不能状態を解除出来るのが白魔術士(白魔道士)と赤魔術士の二ジョブのみであるという事も、この件に関する無視出来ない問題の一つだ。白魔術士と赤魔術師のジョブがパーティー内に二人以上いればあまり困った事にはならないかもしれないが、戦士、モンク、白魔術士、黒魔術士といったパーティー編成を常としている人にとってこれはゲーム開始からクリアに至るまで頭を悩ませられるものであるのだ(特に上記構成は王道と言える)。
何しろ「ポーション」のHP回復量が微量であり、移動中はともかくとしてもバトル中では殆ど役に立たず、故に戦闘不能状態解除を含めた回復役を白魔術士が一手に担う為、白魔術士の死亡はどうしても冒険の中断を余儀なくさせる事態となる。それが仮にダンジョンの奥深い場所であったとしたら、白魔術士が倒れる事は掛け値なしにパーティーの全滅に直結する事を意味するのだ。
例え全体即死攻撃であろうとも、クラウダや「じしん」といった攻撃の、その一撃だけによって即座に全滅させられてしまう事はまずない。だが、戦士が死ななくとも、モンクが死ななくとも、黒魔術師が死ななくとも、白魔術士が一人死ぬだけでパーティーは事実上壊滅状態と言えてしまうのだ。ダンジョンから即時脱出出来るダテレポも白魔法である。何とかして街まで帰り着こうと足掻く貴方はしかし、次々と襲い掛かるモンスター達の毒牙にじわじわと体力を削られ、その内に訪れる死を逃れる事は出来ないのである。

考えてもみれば、バトル中に戦闘不能状態を解除出来ないというのは確かに強烈であるが、もしそれが出来る様なルールであったとしても白魔術士一人が倒れてしまえばいずれにせよどうにも対処しようがなくなる点からすると、魔法でしか復活させられないって方がよっぽど強烈な仕様だよなあ。毒状態解除アイテムやバトル中使用が許されてないとは言え石化状態解除アイテムが存在する中で、何故戦闘不能状態解除アイテムだけ存在しないのか。考えれば考える程不思議だ。
まさか、元々は「フェニックスの尾」も存在していて、普通に道具屋で買えていたのだが、デバッグのバイトか誰かに「こんなの楽勝ですよ」とか言われて消しちゃったのだろうか。


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