一歩街を飛び出せば、そこに果てし無く広がる大地。一歩足を踏み出せば、その度に現れる新たな景色。それは貴方の冒険心をくすぐるだろう。この広き大地を隅々まで踏破したいと思わされる事だろう。
しかし、その広い世界は時に人をためらわせる。心の底から冒険の旅に出てみたいと感じている一方で、己の足だけでは心許ないと思わざるを得ないのも事実なのだ。
もし貴方がこの世界を冒険せんとする時に、そんな不安感がどうしても拭えないのなら、その時は「鈴」の音を響かせてみてはどうか。かような大地を颯爽と駆ける一匹の豹を呼びし「バウムレンの鈴」を。その鈴の音に呼び寄せられた一匹のキラーパンサーは、必ずや貴方の冒険心を満たす足となってくれるだろう。
しかしだ、本当に我々はただ何も考えず、このキラーパンサーを乗り回していていいのか。確かに貴方の旅の友は、鈴を鳴らしさえすればすぐにでも駆け付けてくれる。ただ、だからこそ私はそこにある謎に着目せずにいられないのだ。

例えば貴方が今、草原にて鈴を使ったとしよう。すると、いつもの様に一匹のキラーパンサーが咆哮と共に現れた事と思う。そして、ここに謎は介在していない。
では例えば貴方が今、砂漠の真っ只中で鈴を使ったとしよう。そこが熱砂に覆われた地であろうが、キラーパンサーはいつもと変わらず貴方の下へ参上する事だろう。しかし、ここには無視出来ない謎が存在している。鈴を鳴らした直後、今正にキラーパンサーがやって来ているその時の場面を思い出して戴きたい。確かに鈴を鳴らしたのは砂漠の中の筈だったのだが、このキラーパンサーは砂漠とは似ても似付かぬ、緑が生い茂った場所を駆けているのである。
それだけではない。例えば主人公が雪原のど真ん中にいる時に鈴を鳴らした時も、このキラーパンサーは雪とは無縁と思しき場所を走った上で、主人公の下にやって来るのだ。
一体これは何故か? 何故「バウムレンの鈴」を使用した場所に関係無く、走り来るキラーパンサーの背景が固定なのか? 今回の主題はこれだ。

さて、これを題材とするに当たっては、確認としてまずこの事を述べておきたい。鈴を鳴らすとやって来るキラーパンサーは、普段緑の生い茂る何処かの地に居座っていて、鈴の音が聞こえた時にのみ移動するから背景がいつも同じだという訳では決してない事を。そうだとすると勿論、鈴を使った地点とキラーパンサーのいる地点とが極めて遠方にある場合も想定される事や、場合によっては海を越えなければならない場合も考えられる点で疑問を感じざるを得ないのもそうだが、そもそも設定として鈴を鳴らした時にやって来るキラーパンサーは、その近辺にいた個体だという事が明言されているのだ。つまり、東の大陸で鳴らしたなら東の大陸にいたキラーパンサーが、西の大陸で鳴らしたなら西の大陸にいたキラーパンサーがやって来るのであり、雪国でならしたなら雪国にいた個体が、聖地ゴルドで鳴らしたなら、あの島にいた個体がやって来るという訳である。同様に、鈴を鳴らしてもキラーパンサーがやって来なかった場合は、近辺にキラーパンサーが一匹もいなかったという事が言える。隔絶された台地や闇の世界においてキラーパンサーがやって来ないのは、そこにキラーパンサーがいなかったからという事だ。そして、この事を踏まえれば先の謎は紛う方なき謎として眼前に立ちはだかる事になるだろう。

例えばここでは鈴を雪原で鳴らしたとしよう。この時、直後に現れたキラーパンサーは、その鈴の音が聞こえる程度の近辺にいたのだから、彼は雪原の中を駆けてやって来たと考えられる。にも拘らず、鈴を鳴らしてからキラーパンサーが主人公の下へ到着するまでの間に画面上に現れるキラーパンサーは緑の中を走っているという矛盾。
まずここから、「実際に主人公の所へやって来たキラーパンサーと、その直前に画面に現れていたキラーパンサーとは別物である」という事が言えそうだ。何故鈴の鳴った場所へ向かっている訳ではないらしい一匹のキラーパンサーが、何処とも知れない場所を走り回っているのかは取り敢えずおいておくとしても。
そうとなると、件のキラーパンサーは時にかなりの遠方に位置している事になる様だ。が、それだとやはり次の疑問が浮上するのは避けられない。「そんな遠方にいて、本当に鈴の音が聞こえているのか」
更に、よくよく考える事によりこんな謎も浮上してしまう。このキラーパンサーは、鈴を鳴らした者の近辺にキラーパンサーがいた場合(=キラーパンサーがやって来れる場所で鈴を鳴らした場合)に、何処かの地で走り回っている一方、そうでない場合は微動だにしないのだが、オークニス周辺で鈴を鳴らすというケースと隔絶された台地で鈴を鳴らすというケースを比べると、「何処か遠くから鈴の音が聞こえた」という点では一致してる筈なのに双方でリアクションを違えるのである。つまり、単に極めて耳が良いというだけでなく、鈴を鳴らした者の状況が手に取る様に分かっているのではないか、という事だ。
地獄耳に千里眼、そのどちらをとってもにわかには信じられない事だ。と言うよりも、闇の世界で使った場合ですらリアクションを返す事も加味すれば、これを成すのは不可能だと判断した方が妥当だろう。
更に疑問はこれだけに留まらない。どうやらこのキラーパンサー、鈴の音に敏感に反応する割には、実際に主人公達を乗せて走る事がない様なのだ。彼は常に何処か特定の一ヶ所にいる筈である事から、その場所付近で鈴を鳴らせば、その時こそ彼に登場してもらえると思う人もいるかもしれないが、それはあり得ない。例えば、もし件のキラーパンサーに乗る事が出来たと仮定して、そのキラーパンサーに乗って短くない距離を移動した上で降りたとする。その直後、すかさず「バウムレンの鈴」を鳴らすとどうなるだろうか。そう、今さっき帰っていったばかりの彼が元いた場所で走り回っている光景を目の当たりにする事になるのだ。地獄耳と千里眼の時点で「不可能」と判断するべきなのに、加えて瞬間移動も可能とするとなれば、最早そこに現実性は一切認められないというものだ。
そしてこれからすると、何処か特定の地に居座っている筈の彼には、世界中何処の地点で鈴を鳴らそうが実際に乗って移動する事は叶わない事になり、こうもなるといよいよその存在すら疑問視される様になってしまうのである。

その存在が認められるには、地獄耳と千里眼と瞬間移動を成す以外の道は無し…しかし、この内のどの一つすらも現実のものとするには無理があり過ぎる事を考えると、どうやら今回問題となったキラーパンサーの登場する映像は、一つの注意書きを必要としそうだ。全ては幻想。そう、「※この映像はイメージです」と。
とは言え、地獄耳に、千里眼に、瞬間移動という超能力を持つキラーパンサーの存在は、例え幻想であったとて人々の心を振るわせるだろう。
願わくば、いつかそんなキラーパンサーが人々の英雄として、本当に現れる事を…


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