「あんな人と結婚するくらいならお馬さんのままの方がよかった」とは、結婚式を投げ出した直後のミーティア姫の言葉だが、これはまこと見事にチャゴスという人間と共に暮らす事の現実を言い表したものだと言える。生まれながらに運命付けられたそれは試練か、それは苦行か。
そんな男の下へ一人娘のミーティアを送り出さなければならないトロデ王の心情も察するに余りある。この結婚が意味しているのは、ミーティア姫がまだ長かろう今後の人生を苦しみ抜いていくという事だからだ。
それが親の代に交わした国家間の約束だとは言え、それを甘んじて全面的に受け入れ、娘に苦痛を強いる親が何処にいるだろう。それが祖父の代に交わした国家間の約束だとは言え、それを甘んじて全面的に受け入れ、先の人生を無条件に全て投げ打つうら若き少女が何処にいるだろう。
チャゴス王子の人間としての至らなさ加減は勿論の事、ともすればその不安や不満の対象はサザンビーク国の王であり、チャゴス王子をあんなに育て上げたクラビウスにも向けられる事となる。即ち、非はサザンビーク国側にのみあるのだ。この点はクラビウス王も認めざるを得ない部分があるのではないか。
その理不尽さと、かねてから感じていた不満感とが重なり合い、その上でミーティア姫とトロデ王の心情が合わさった時、二人の秘めたる想いは爆発し、結果チャゴス王子との結婚の取り止めにつながる事となった。

この事について、周囲の人間はどう反応していただろうか。
まずヤンガス、ゼシカ、ククールの三人の内では、ククールがミーティア姫の結婚阻止へ向けて一際積極的になっている様に見えるが、式場突入の切っ掛けはヤンガスによって作られたものであり、いざ本格的に式をかき乱すとなった際にはゼシカもそれに加勢している事から、三人共一様に結婚阻止を良く思っていた様だ。
サザンビーク国の人間からするとどうだろう。突如として現れた平民風情によって結婚式を滅茶苦茶にされた形の当人チャゴス王子にしてみれば自分こそ被害者なのだろうが、クラビウス王は頭ごなしに遺憾の意を表明する事はなく、どちらかと言えばチャゴスの方に非があるのではないかと受け取れる発言をしている。更に決定的な事には、エルトリオの息子であると知った主人公をミーティア姫の結婚相手と認める旨の発言もしている事から、諸手を挙げて賛成、とまではいかなくとも、ミーティア姫達当人の意思を汲み取っている様だ。また、この様にクラビウス王直々の意思がある事から、国内で大きな批判が起こる事も無いのではあるまいか。何しろ王子に対する普段の、尊敬の念を多少とも感じられない評判が評判である。
一方トロデーン国の人間については、サザンビークの世情とは違いミーティア姫の好感度たるや並々ならないものがある為に、サザンビーク国以上に反対の意を訴える者は少ないと見込める。
では両国とはさして関わらない一般人はどうか。これについては、式場からミーティア姫と共に出て来た誰とも知れない男、ともすれば衛兵を気絶させて無理矢理式場へ押し入った事が記憶にも新しいかもしれない男に対し、戸惑いながらとは言え祝福の拍手が送られていた場面が、少なくとも反対一辺倒ではない世間の考えを端的に表していると言える。そもそもどちらか一国のわがままによるものであればともかく、両国王の意思が少なからずとも反映された結果の出来事である為、残念と思う人はいても、強く反対する人はそうはいない様に思える。特にチャゴス王子の人となりをよく知る人間であればあるだけその傾向は強くなっていく筈だ。

さて、それではこの騒動の主役たる主人公はこの結婚についてどう思っていたのだろう。
ククールからアルゴンリングの件をクラビウス王に持ちかけてみたらどうかと言われた時に、何やら決意めいた表情で積極的に行動に出る所からすればどうやら強く反対している様だが、サヴェッラ大聖堂に着くまでの主人公からはその意思は感じられない。どちらかと言えばその時点の主人公はミーティア姫を前に何処か素っ気無く、「悩めるミーティア姫の心情を察していない」風にすら見えるのである。
実際の所はどの様に、そしてどの位、考えていたのか、思う所があったのか。何しろゲーム中ではセリフというものが無い為に、その心の奥底が容易には計り知れない主人公だが、実はこのエンディングには、そんな主人公の心情の表れが見て取れ、かつそれを論理的に解説可能な部分が存在している。果たしてその事にどれだけのDQ8プレイヤーが気付いていただろうか。

この疑問を解き明かす鍵は呪文「トヘロス」にこそある。このトヘロス、実はエンディング中で唯一普通に使用出来る呪文である。トヘロスの効果は「主人公よりも弱いモンスターと遭遇しなくなる」というものなので、戦闘の機会が無いエンディングでは一切意味の無い呪文なのだが、ここでは実際に使ってみない事には話が進まないので物は試し、トヘロスを唱えてみよう。すると、冒険中に使用した場合と同じく「あたりから モンスターの気配が 消えた!」というメッセージが表示され、それと同時に消費MPに関するゆうきのスキル効果を得ているか否かによって2〜4のMPを消費する事になる。
これだけでいい。この事を、トロデーン城にいる内に済ませておきさえすれば、貴方は主人公が心の内に秘めていた並々ならぬ想いを目の当たりにする事になるのだ。
エンディングを進めていくと、やがて主人公達はサヴェッラ大聖堂にある宿屋で一泊する事となり、そしていよいよチャゴス王子、ミーティア姫の結婚式当日を迎える。
実は、ここで異変が起こっていた。宿屋で一泊して朝を迎えた主人公の状態をよくよく見てほしい。何かおかしな事に気付かないだろうか。何と、トヘロスを使って消費したMPが回復していないのである。
本来ならば、宿屋に泊まった事でHP、MPは例外無く完全回復する筈なのに、何故この時の主人公はそうならなかったのか。一つ考えられるのは宿屋に泊まったにも拘らず寝なかったという事だが、もしかすると主人公は「寝なかった」のではなく「眠れなかった」のではないだろうか。翌日に控える結婚式、チャゴス王子の体たらく、ミーティア姫の将来…色々な事を考えるがあまり、寝るに寝られなかったのではないか、という事である。
主人公の護衛としての役目は、ミーティア姫をサヴェッラ大聖堂に送り届けた時点で無事終わっている様であり、前日の彼に寝る暇も無かった程の忙しさは恐らく認められない。
また普段の冒険において、夜明け前に宿を取り、朝に出発するという極々短時間の休息でもしっかりとHP、MPは完全回復している状況が起こる事も想定される事から、MPが回復していなかった主人公が実はこの日一睡も出来ていなかったのでは、と類推する事が出来る。

回復しなかったMP。ここに秘められた、多くを語らない彼の切ない想いは察するに余りあろう。


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