無の世界に突如降って湧いた飛竜。基本、無の世界とは何も無いからこそ「無」の世界である筈なのに、そんな設定をまるで無視している事甚だしい。
その理不尽さは、「無とはいったい……うごごご！！」と、焦りの中散っていきながらその十数秒後には理路整然と何かを悟っているかの様な口調で喋りつつ復活するエクスデスに匹敵する。ともすればネオエクスデス以上に宇宙の法則を乱していたかもしれない。
この飛竜は果たして何処から湧き出てきたのか？ これを考えよう。
ラスボス戦直前〜エンディング辺りのイベントをよく思い返してみれば、何も無の世界に突如現れていたのは飛竜のみに限った事ではない。そう、一旦はエクスデスによって無の世界に引きずり込まれてしまったバッツ達を奮い立たせた暁の四戦士がそうだ。エンディングではタイクーン王も登場していた。
しかし、残念ながら彼等五人と、エンディングに出没した飛竜とを同列にして扱う事は出来ない。何となればガラフ達は一様にして死者だ。ただし、死者であれば無の世界を自由に出入り出来ると安易に言うつもりはなく、恐らくはガラフ達の場合も相当特殊なケースだと思われるのだが、無の世界を脱し、現実世界に足を踏み入れたあの飛竜とは一線を画すると考えるべきだろう。
では一体どういう事なのか。そのヒントは飛竜にこそあった。
飛竜といえば、オープニングでタイクーン王が風の神殿へ向かう為に乗っていった後、北の山で発見され、それ以降乗る事が出来る様になる事は多くの方の知る所だろう。しかし、FF5において登場する飛竜がこの一匹だけではない事を忘れてはならない。第二世界のバル城にももう一匹、飛竜が存在しているのだ。
この、第二世界の飛竜は、第二世界でひとしきり活躍した後は利用する必要がなくなる為に影を潜める形となる。が、しかし、舞台を第三世界に移した後もしっかりとバル城に登場している。これは実際に現地へ行く事で容易に確認出来る事であろう。
そこで話を第一世界の飛竜に戻す。第二世界の飛竜は先に述べた様に第三世界にも登場している事が確認出来るが、ではこの第一世界の飛竜はどうなのだろうか。世界を巡る限りではその姿を確認する事は出来ないが…？
そもそも第一世界の飛竜とバッツ達とはどの段階で別れる事になったのか。それを考えると、彼がいなければならなかったのはバッツ達がウォルス方面へ行く時位で、ウォルスの塔までの移動や、或いはタイクーン城へ行ってみたりする際にも一応役立ってはくれるものの、バッツ達がカルナック方面の大陸へ隕石を通じて移動する際には否応無く置いてきぼりとなってしまう。しかもその後バッツ達が黒チョコボという移動手段を得ようものなら、最早彼の存在価値は無いも同然、見向きもされなくなってしまうのである。とどのつまり、彼はウォルス近辺で、飛空艇の乗り心地に満足し切りでもう戻ってくる事の無い主人を待ち続ける運命にあるのだ。
とはいえ、単に待ち続けてくれていたのであれば、第三世界でその姿を見る事が出来ないのは不自然である。本来なら第三世界には二匹の飛竜の姿が認められていてしかるべきというものだが…
と、ここで一つの仮定が生まれた。第一世界にはいたのに第三世界では姿を確認出来ないのは飛竜だけではないのだ。エクスデスによって無の世界に引きずり込まれた幾つかの街、そしてそれら街の人々という例がある。
もしかしたらあの飛竜は運悪くも無に飲み込まれてしまっていたのではないだろうか？ だとすれば、第三世界で幾ら探そうと見つけられなかったのは勿論ながら、エンディングにて無である筈の世界に突如として現れた事も納得のいく説明が出来るだろう。あの飛竜は無から生み出された訳ではなく、以前エクスデスによって無に飲み込まれた事で、元々あの世界に存在していただけだったのだ。
だとすれば、万が一にもあの飛竜が無に飲み込まれていなかったとしたら…という事も考えられるが、心配には及ばない。例えあの時、バッツ達を無の世界から脱出させてくれる存在がいなかったとしても、まだバッツ達にはガラフがいたからだ。
事実として、ガラフは無に取り残されたメンバーを元いた世界へ送り戻せる事を示している。ガラフさえいてくれたなら、光の戦士達が無に捕らわれ続ける事は無かった筈だ。
…そう、これは、バッツ達を元の世界に送り返すという大役をして必要とされないという、ある飛竜の哀れな物語なのだ。
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