「三闘神の復活だー!!」

あの時私達は、「三闘神」が一体何の事であるかを知らなかった。ただ漠然と、どうしても止めなければならない何かを、奴は仕出かそうとしている――それだけは強く感じ取る事が出来たのだ。
しかし、目下の問題は眼前のケフカに非ず。今自分達はティナを救う為に、ラムウの仲間を求めてこの魔導研究所へ乗り込んだのだ。しかも場所は帝国首都の真っ只中。ここで要らぬ騒ぎを起こす事が即命取りになってしまいかねない事は明らかだった。例えナルシェの一件で、ケフカとは互角以上の戦いが出来る事が分かっていたとしてもだ。
幸いケフカは何処か自分の言葉に陶酔している様にも見え、こちらの存在に気付いている訳ではないらしい。ならば何とか気付かれず、この場をやり過ごす事も可能な筈だ。彼等は殊更に慎重になってその場を動いた。
そして気付くのだった。確かに、今しがたまで五歩程の近距離にいた筈のケフカが忽然と姿を消している事に。右を見ても、左を見ても、まるで煙と化したかの様に奴の姿は見て取れない。そればかりか、気配すらも感じ取る事は出来ないのであった。
我々の目の前で前触れもなく雲散霧消してみせたケフカ。一体あの時彼は何処へ行ったというのだろうか。今回のテーマはこれだ。

まず始めに、本当にあのシーンにおいて、ケフカがロック達に出くわさず場を去れる手段がなかったのかどうか、本当に彼がまるで霧の様に消失していたと言えるのかどうか、それを検証したい。
ケフカが立っていたあの場所から他地点への移動に際し候補として挙げられるルートは全部で三つある。ここではそのそれぞれについて可能性を考えてみよう。
まずは、ケフカのいた位置から、画面に向かって右側にあるリフトを使うルート。このルートを使っていたとするならば、一見彼は至って自然にあの場から立ち去った様に思える。だがしかし、その可能性は全くもって考えられないと断言出来よう。何故ならばその展開を仮定した場合、その時ケフカはロック達の立ち位置を中心として表示されるゲーム画面の右下部にぎりぎりではあるがその姿を見せる事になってしまうからだ。かてて加えてロック達は当該イベントの終了後、割とすぐに移動し始められる。その上で彼等がすぐさま画面向かって下方向へと歩を進めてなおケフカの姿を認められないというタイミングを考えても、ケフカがあのシーンでリフトを利用していたとは考えられないであろう。
二つ目は、ケフカの前方にあるコンベアに乗って下層へ進んだ後、道なりに移動するというルート。コンベアとは即ち、ついさっきケフカ自身が用済みとなったイフリートとシヴァを捨てたコンベアの事である。まるでゴミ捨て場であるかの様に扱っている場所へ自ずから行くというのは何処か不自然な様にも感じられ、それは彼の性格を考慮すればいよいよ顕著になってきてしまうのだが、しかしこれはもう他に考えられるルートが存在しない為、こう考える他にないと言えよう。
さて、そのルートについてだが、やはりこれも可能性としてはあり得ないものだ。何故か。道なりに進むという事はつまり魔導研究所の最深部へ向けて移動するという事になるのだが、しかしここで、ロック達がその研究所最深部に到達した際に発生するイベントを思い出して戴きたい。シドと出会うロック達、スパイ疑惑が持ち上がるセリス、そしてそこに現れるケフカ…そう、あの時ケフカはロック達の後方から姿を見せた。ケフカがコンベアを使って下層へ降りた後、研究所最深部へ向かっていたのであればこれは不自然だ。もしそうであるなら、ロック達は何処かでケフカとすれ違っていた筈なのだから。コンベアに乗ってから研究所最深部までの道のりは、魔導工場の複雑さとは打って変わって見事なまでの一本道である。例え意識的にすれ違おうとしても隠れるだけのスペースすらない。唯一、隠れるとするならコンベアを降りた直後、向かって左側の扉を開けた先にある部屋(ゲーム中ではセーブポイントがある部屋)ならばその機能を果たせそうだが、ケフカがその部屋にいた訳でないという事は実際にロック達がそこを訪れてみる事で自明となろう。
だとすれば、残る可能性は一つだ。それは先と同様、コンベアを使って下層へ降りた後、そこにあるクレーンで上層へと戻るルート。これならば、ロック達が降りて来る前にその場を去ってしまえるだけの時間的余裕はありそうだ。また両者はその時点ですれ違う事になるのだから、研究所最深部においてケフカが後方から現れた件についても説明が付くであろう。更にこの他に取り得るルートが存在しない事を加味すれば、どうやらケフカはこうしてロック達の前からいなくなったと考えてよさそうである。彼は何も本当に消失していた訳ではなかったのだ。

しかし、そうだとすると新たに疑問が生じてしまう。何故ケフカは魔導研究所の最深部に姿を現したのだろう、それが分からなくなってしまうのだ。結局最深部まで足を運ぶのなら、一旦上層へ戻る必要は皆無ではないか。なのに何故。
ロック達とシドが会話している中、セリスにスパイ疑惑が浮上した段階であまりにタイミングよく現れた点も気になる所だ。事実として、ケフカは魔石の話が出ていた時点から話を聞いていたにも拘らずすぐに出て来てはおらず、その事からどうやら彼は登場するタイミングを見計らっていたと察せられる。またここで重要なのは彼が魔石云々という、一連の会話の流れにおける初めの段階の話から聞き耳を立てていたという事であって、これより彼が、研究所最深部にロック達が到着した直後には部屋の外でその様子をうかがっていたらしい事、つまりいつからかケフカはロック達のすぐ後をついて来ていたという事、延いてはクレーンで上層へ移動した直後には早、ロック達の後を追うかの様に研究所最深部へ向かって動き出していたらしい事が分かる。
こういったケフカの行動は一様に難解かつ不審だ。しかしここである一つの仮説を立てると、その謎はたちまちにして解を得る事となる。

「ケフカは最初から、魔導工場に侵入したロック達の存在に気付いていた」

根拠はある。それは研究所最深部においてケフカが呼んだ魔導アーマーだ。ここで改めてあの時のイベントを思い返してみよう。ケフカが登場した後、場はセリスのスパイ疑惑の話で持ち切りとなる。真実を問いただすロック、信じてくれと乞うセリス、悩み、迷い、敵前にいてうつむいてしまうロック。そしてその隙をつきケフカがロック達を皆殺しにせよと魔導アーマーをけしかけ、奇襲を喰らったロック達は気を失ってしまう。
ここで注目したいのは、ロック達が魔導アーマーの奇襲によって気を失ったという事実だ。奇襲自体は普通のバトルにおいても「バックアタック」という形で似た様な状況が起こり得るが、しかしそれによって味方メンバーが失神する事はあるだろうか。いや、ないのである。にも拘らず、あの場面においてロック達は失神してしまう。これが意味するものとは何か、それは、あの魔導アーマーが、これまで相手にしてきた魔導アーマー系モンスターとは明らかに一線を画し、特別に強力であるという事だ。
ロック達の強さが折り紙付きである事は最早言うまでもない事実だが、その彼等をたった一度の攻撃で気絶させる魔導アーマーは恐らく他には存在しないだろう。それだけ有用な兵器でありながら、ゲーム中でそれが活躍している場面はあまりに少なく(このイベント以外では、ケフカがサマサの村を襲撃した際に同タイプと思しき魔導アーマーを引き連れていた事が確認出来る程度)、この事よりその魔導アーマーは量産型でない、即ち存在個体の少ない兵器だという事がうかがい知れる。
あの時ケフカはその、「数機しか存在しない魔導アーマー」を呼んだ。人一人が隠れる程のスペースもない中にあって、やはりそれまでは何処を探しても見当たらなかったあれら魔導アーマーが元から研究所内に配置されていたとは考え難く、それ故あの二機はケフカが連れて来ていたと判断するのが妥当だろう、それは反乱者を消す為に。
つまりこうだ、研究所最深部においてケフカが魔導アーマーを呼んだ時、帝国内にもそれ程多くの数は用意されていない兵器が首尾良く現れられた筈はない。そうではなく、あれは侵入者たるロック達を排除する目的で事前にケフカが手配し、準備していたものだったのである。
あの魔導アーマーは常にケフカが引き連れているものではないのか? それは違う。もしそうならあれらアーマーはドマ城、並びにナルシェ侵攻の際にいてしかるべきだった。イフリートとシヴァを捨てたイベントの後でロック達に気付いたケフカが、その時点で魔導アーマーを手配したのではないか? それも間違いだ。何しろ幻獣の奪取がかかった、帝国側にとっては非常に重要だったと言えるナルシェ侵攻についてさえ、例の魔導アーマーが同行する事はなかったのだ。そんな状況にあって、ただ侵入者を排除する為だけに帝国最強クラスの兵器を持ち出す事が、しかも魔石の話題を聞いていたという件からさほど他の事に時間を割いていたとは考え難いと思われる中で可能だったとは思えない。
この事から、ケフカが魔導工場へ侵入したロック達の存在に初めから気付いていた、と言うよりは恐らくロック達が魔導工場に侵入する筈だと初めから予測していたであろう事、そしてその彼等を一人残らず滅するべく、予め用意出来る最強の手段を擁していた事が分かるだろう。
ちなみに、帝国内にかようにも強力な兵器が本当に存在し得るのかについてだが、一つ思い出して戴きたい、帝国には防御面で極めて優れた性能を誇る「ガーディアン」なる兵器が実在している事を。防御に突出した兵器は既に実現しているのだ、その傍らで、攻撃に秀でた兵器がいたとしても、不思議ではないだろう。

話を戻す。ケフカがイフリートとシヴァを捨てたあの段階で既に、背後にいるロック達の存在を認識していたのではないか、そう考える事で先に述べた謎はものの見事に氷解する。
結局最終的には研究所の最深部まで足を運ぶにも拘らず、何故一旦クレーンを用いて上層へ戻ったのか。それはロック達の後ろを取り、彼等をつける為だった。では何故ケフカは彼等の後を追ったのか。そう、何かと帝国の前に立ちはだかる邪魔者を消す為だったのだ。あの時ロック達は上手くケフカをやり過ごしたつもりだったのだろうが、その実全ては完全に読まれていたのである。

勿論、そうした行動に出るケフカの最終的な目的は最終的にロック達を皆殺しにする事である。だとすれば、ここでまたも疑問が生じはしないだろうか。最初から強力な魔導アーマーを準備しておいたのに、ロック達が研究所最深部に到達するまでは一切手を出さなかったという点に。ただ不意打ちを狙っていただけなら、最深部でよりも一層打って付けの状況はあっただろうに。
この事についてだが、やはり「ケフカがロック達の存在に最初から気付いていた」という事実こそが説明の鍵となるだろう。ケフカがロック達と出会うのはナルシェ侵攻の一件以来となるが、そんな彼等を見て、何はなくともまずケフカはこの事に疑問を抱いた筈である。「何故あいつらが魔法を使っているのか」
既に魔導の力は魔大戦以降失われているものであり、魔法を操る事が出来るのは自分と、自分同様人工的に魔導力を注入されたセリス、そして生まれながらにその力を持っていたティナの他にいなかった筈、等という事実に立ち返ってみるまでもなく、ナルシェで戦った時に奴等は魔法なんて使っていなかった、確かに。しかし今目の前にいる奴等はどうか。ロックが、エドガーが、或いはマッシュが、もしくはカイエンが、さもなければガウが、ファイアや、ブリザドや、サンダーや、あまつさえケアルまでもを平然と唱えている。例え唱えていなかろうとも、少なからずケフカはロック達から感じられる強力な魔力――自分達が幻獣から取り出した力を遥かに凌ぐ程の――をひしひしと感じ取っていただろう。
ケフカは思った。ナルシェでのバトルからさして長い時間が経った訳でもない、にも拘らずこの著しいまでの変貌振りは何だ。いや、細かい事はこの際どうでもいい。今重要なのは、奴等がこれだけの魔力を手にする方法を知っているという事だ。その方法さえ分かれば…
そしてケフカはロック達を、魔導に深く精通したとある人物、シド博士に引き合わせる。そうする事で、奴等の持つ魔力の謎について何か少しでも分かるかもしれないと、そして奴等を殺すのはそれからでも遅くはないだろうと、そう考えたのだ。だから彼は、ロック達をしばらく「泳がせた」のである。

一見ロック達の魔導研究所侵入作戦は、最後の最後になって惜しくも失敗した様に映る。しかしどうか、その実態は、何から何までケフカの思惑通りに進められていたものだった。あまりに巧妙で、あまりに出来た奴の作戦。これにはただただ脱帽させられざるを得ないというものか。
その言動だけに着目する限りケフカは、「秩序」とは対極の位置にある滅茶苦茶な人間の様に見える。あまり深い思考を持たず、殆ど思いのままに動いている印象を受ける。しかし、もしここで述べた事が真実であるなら、我々は彼を見くびっていたという事になろう。
ガストラ帝国一の魔導士ケフカ=パラッツォ。まるで支離滅裂に見えるこの男だが、その陰には優れた策士の一面がうかがえる。


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