オペライベントと言えばダンチョーの名を挙げる人は少ないだろうが、今回はこのダンチョーを切っ掛けとして話が始まる。オペラ公演の最後、ほぼその場しのぎといった感じでダンチョーは「パート2」の存在を匂わせた。そう、「パート2」である。果たしてこの公演に続編はあるのだろうか。これを考えてみる。
それに当たり、まずはこの公演に登場する主要人物をおさらいしてみよう。まずは、元々登場が予定されていたドラクゥとラルス、そしてハプニングで登場したロックと、「マリアをいただく」との予告通りに登場したセッツァー、そしてマリアの計五人だ。元々この演劇は、ドラクゥと、彼の婚約者だったマリアが、東西戦争により引き裂かれ、ドラクゥ率いる軍が、ラルス率いる軍に敗れた結果、ドラクゥ軍がラルス軍の配下に入ってしまい、マリアがラルスとの結婚を余儀無くされる、という完全にシリアスな内容だった。しかし、ロック達がオルトロスと共に舞台上方の通路から舞台上に落ちてきてしまった事から話は混乱を極める。明らかに舞台は失敗に終わった筈だったのだが、機転を利かせたロックが「マリアを射止めるのは、世界一の冒険家!このロックさまだァァ〜!」と言い放ってしまい、更に最後には駄目押しの如くセッツァーがマリアをさらって行っちゃったもんだからもう大変。
かくして、「パート1」にあたるこの公演では、最終的に、マリアという一人の女性を巡る四人の男達の戦いが繰り広げられる事になった訳だ。一人の女に四人の男、この人間関係設定はもう既に、およそシリアスな話は通りそうに無い程喜劇風であり、しかもおあつらえ向きな事に「パート1」の最後は、完全にドタバタ劇さ加減甚だしい。
実際「パート2」があったかどうかは不明なのだが、もしあったとするなら、それは、当然ながらロック役とセッツァー役は代役を立てた上で、前作とは比べ物にならない程喜劇タッチに仕上がるのではないだろうか。
この考えは一見何の裏付けも無いでたらめなものに見えるかもしれない。しかし、そう判断していいのではと思わせる状況証拠が実は存在するのだ。
まず、実際のオペライベントでの事を思い出してもらいたい。シーンとしては、ロックが本番を間近に控えたセリスを激励に行く場面だ。ここでロックは客席を離れ一旦ロビーに出る事となるが、そのロビーでは公演中のオペラの楽曲が僅かながら聞こえてくる。
それを踏まえ、次はオペライベント終了後のオペラ劇場を思い出してみよう。実際に劇場内に入ってみると、オペラ公演中という事で残念ながら中へは入れてもらえない。しかし、ここにこそヒントはあったのだ。よくよくその場で流れている曲を聴いてもらいたい。そこで流れているのは「Spinach Rag」という曲なのだが、オペラ開演中かつ劇場内でこの曲が聞こえてくるという事は、今正にこの曲を用いた演劇が上演されているという事を意味しているのだ。そして、実際に聴いてみるとお分かり戴ける事と思うが、この曲はシリアス調の演劇にはおよそ似つかわしくないと言えるだろう。そう、紛れも無くこの音楽が表現するのは「喜劇」なのである。
延々と、そして聴いている限り永遠に流れ続けている以上「喜劇調のシーンが演劇中にちょこっとあるだけで全体としては至ってシリアス調」であるとは考え難い。以上の事から、あのオペライベント以後の劇場では、のべつ幕無しに喜劇が上演されていると考えられるのだ。そしてそれは「パート2」でさえ例外ではないだろう。
では、元々シリアス調の演劇を企画していたダンチョー氏は何故そんな喜劇一辺倒の男になってしまったのだろうか。私は、彼をそうしてしまった原因は観客にこそあるのではと考えている。
ロック達が舞台上に落ちてきて、何もかも台無しになってしまうと思った矢先に、ロックの機転によりドタバタ化しながらも一応成功したあの日の舞台。あれが実はこれまでになく好評を博したのではないだろうか? よくよく考えてもみれば、世界情勢はお世辞にも明るいとは言えない。そんな中で大衆に求められていたのは悲劇ではなく、喜劇だったのではないか? その傾向は世界崩壊へ向けて加速度的に大きくなったであろう事は最早言うまでもない事である。
また、オペライベント発生前の劇場でも「Spinach Rag」が延々流れ続けている点を合わせて考えると、実はダンチョー氏は元々喜劇にこそ精通している方だったのではないかという考え方も出来る。
連日喜劇を上演する事で十分その名を轟かせていた中、新たな試み、新たな挑戦として悲劇を演目に挙げてみたダンチョー。しかしその挑戦は敢え無く失敗に終わってしまう。しかも「喜劇」としては申し分無く成功したというオマケ付きだ。
この事が、彼に「自分はやはり根っからの喜劇人なんだ」と思わせたのは最早自然と言えよう。もしかしたらその後彼は、本当に「パート2」を喜劇として上演し、一層名声を得たのかもしれない。
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