あの時スコールは決断した。リノアを、独りでアルティミシアの手の届かない場所へなんて行かせないと。リノアをアルティミシアの下から消すのではなく、アルティミシアという存在を消すのだと。
遥か未来の魔女、アルティミシアを倒す為に―スコール達の取れる手段はあまりにも限られていた。
「時間圧縮」だ。アルティミシアと相見える為にはそれしかない。一旦相手の土俵に立たなければならない。方法はそれしか無かったのだから。

かくして「愛と友情、勇気の大作戦」は動き出した。
大作戦の概要はこうだ。まずエルオーネ、そしてアデルのいるルナティックパンドラへ攻め込み、アデルを倒すと共にエルオーネを奪還する。すると、時間圧縮を行う為に、スコール達のいる時代よりも更に過去へと遡る必要のあるアルティミシアは、現代に残る最後の魔女、リノアへとその思念を送り込む。そこでエルオーネは、リノアの思念をアルティミシアごと過去へと送り、リノアのみ現代へ戻す。そうすれば、望み通り過去へと到達したアルティミシアが、程無くして時間圧縮を行うだろう、というものだ。後は過去から未来方向へ向けて順々に圧縮されている時間の中を、未来に向かって進み、アルティミシアのいる時代へ辿り着けばいい。

作戦としては完璧だった。何しろ時間圧縮を行うまでの行為は、アルティミシア自身も望むものであるからだ。彼女から予想外の妨害を受ける事はないだろう。となれば、アデルさえ倒せばいい事になるが、件のアデルは完全には復活していない。その状態のままならば、かのアデルであろうとも倒すのに苦はない筈だ。
そうだ。苦はない筈だったのだ。それが何故ああなった? サイファーが強硬手段に出たからか? いや、安易に単独で行動したリノアにも非があったかもしれない。

本題に入ろう。
何はともあれ「愛と友情、勇気の大作戦」中唯一と言っていい失敗の末、スコール達は、復活を果たし、尚リノアを取り込もうとしているアデルと戦わなくてはならなくなった。
そしてこのバトルでは、他のバトルには無い、ある特殊なルールが設けられている。
まず、アデルが今正に取り込まんとしているリノアが、敵側に出現している事。そして、味方パーティーが全滅した場合に加え、リノアのHPが0になる事でもゲームオーバーになってしまうというものだ。
必然、プレイヤーはリノアに危害が及ぶ全体攻撃の類の技を封印された形となり、更にはアデル自身がリノアのHPを吸収する事もあり、普段のバトルとは比べ物にならない位精神をすり減らす戦いとなった事だろう。
戦いの末、見事リノアのHPを保ったままでアデルを倒す事が出来れば、いよいよアルティミシアの思念がリノアに入り込み、時間圧縮へのお膳立てが全て整う事となる。
しかし、この「特殊ルール」にはある一つの例外があった。
上述の通り、原則としては、リノアのHPが0になるとその瞬間にゲームオーバーが決定する。ところが、リノアのHPが0になると同時にアデルのHPも0になるとどうか。何と、その場合は周りにいる全員があたかも何も無かったかの様な振る舞いをし、アルティミシアがあたかも何も起こらなかったかの様に憑依し、エルオーネも何一つ動じる事無く仕事をこなし、ついさっきHPが0になった筈のリノアは平然と起き上がり、まるで当然であるかの如く時間圧縮が起こるのだ。
これは何故か。何故リノアのHPがアデルと共に尽きた時のみ、ゲームオーバーを回避する事が出来るのか。

私は考えた。様々な可能性を考えた。考えたのだが、相当の期間、謎が解けないまま時は過ぎ、その内に考えている中で、こんな事を思う様になってきた。
「そもそも、何故リノアのHPが0になるとゲームオーバーとなるのか?」
これまでアデル+リノア戦での特殊ルールは道理的に正しいと思い込んでいた訳だが、よく考えてみるとこれは少なくとも普通の戦闘ではあり得ない事だ。HPが0になった時点でのリノアは単に戦闘不能状態に陥っただけであり、バトルフィールド内には一人以上の生き残りがいるのだから、そのキャラクターがレイズなりで復活させてやればいいからだ。
それが何故、即ゲームオーバーとなってしまうのか。そこにはやはり、このバトルの「特殊ルール」故の理由があるのだろう。
こうは考えられないだろうか。
今、アデルはリノアを取り込もうとしている。まずこれはライブラを使用したりする事でも確認出来る事実だ。
しかし、バトル中にどれだけ時間が経過してもアデルはリノアを取り込み切る事が出来ない。それは何故か。
もしかしたらそれは、リノアが多少なりとも抵抗しているからではないか。見た目グッタリとしているリノアだが、無意識に取り込まれまいとしているのではないか。もしそうならば、だからこそアデルが執拗にリノアのHPを吸収するのだという見方も出来る。
また、そうとなると、リノアのHPが残っている限りはアデルに取り込まれ切る事はないという事が言える。つまりそれは返して言えば、リノアのHPが尽きた時は即ちリノアの抵抗力が尽きた時と解釈出来、それ故その瞬間にリノアはアデルに完全に取り込まれてしまうという事になるのだ。
これならば、リノアのHPが0になり、戦闘不能状態になっただけでゲームオーバーが確定する理由も分かろうというものである。

ちなみに、例えリノアがアデルに取り込まれたとしても、その場合はアルティミシアがリノアを取り込んだアデルに入り込むと考えられるので、エルオーネがアデルとアルティミシアを過去へ送りさえすれば計画通りに時間圧縮が起こる事となり、一応はアルティミシアを打倒する事は出来る。それなのに何故リノアがアデルに取り込まれた時点でゲームオーバーとなるのか。
それについては普段の全滅を思い浮かべてみると分かり易いかもしれない。普段の全滅、つまり六人中誰か三人が死亡してしまった場合の事だ。
ゲーム中で全滅する事はつまり特定の三人の死亡を意味すると思われる訳だが、ここでよく考えよう。あの六人の内の三人が死んだからと言って、それはこの世界に大きな影響を与えるだろうか? 否、それは考えられない。
スコールがいなくても、リノアがいなくても、ゼルだって、キスティスだって、セルフィもアーヴァインも、実は誰一人として必要不可欠な存在ではない。この中の誰がいなかろうと、アルティミシアは時間圧縮を企てるし、エルオーネはその時間圧縮を起こす最大の鍵となる。リノアがいなければアルティミシアは最初からアデルの中へと入り込み、エルオーネはアデルとアルティミシアを過去へ送る。そして誰かが未来へ行き、アルティミシアを倒せばいいのだ。万が一、それがスコール達にしか出来ない事だったとしても、死亡者三人までなら何とかなる範囲内な筈である。
なのに何故、一人でも死亡者が出た段階でゲームオーバーとなるのか。それは、FF8という物語が破綻するからに他ならない。
つまり、ゲームオーバーの定義は「世界が救えない状態にまで陥ったから」ではない。「FF8という物語を語れなくなったから」なのだ。だからこそ、リノア一人がいなくなっただけでも、以降ストーリーが進められなくなってしまうのである。

話を戻そう。
何故、リノアのHPが0になった瞬間にゲームオーバーが確定するのか。それは、その瞬間にリノアがアデルに取り込まれ切るからだった。
この考えからすれば、最初の謎はいとも簡単に解ける事となるだろう。「何故リノアのHPがアデルと共に尽きた時のみ、ゲームオーバーを回避する事が出来るのか」
そうだ。リノアを取り込もうとしたアデルが同時に力尽きたからこそ、リノアはアデルに取り込まれずとも済んだのである。考えてもみれば、至って当然の話だったのだ。

おさらいする。
本来計画には無かったこの戦いが勃発した最大の原因はサイファーにある。しかし、リノアが勝手に単独行動した事も大きな要因の一つである事は否めない事実だ。
もし、貴方がこの事実に強く憤慨したならば、一度試してみてはどうだろう、アデルに止めを刺すと同時にリノアにも止めを刺してみる事を。少しは憂さ晴らしになるかもしれない。
もしそれに際して貴方がリノアの身を案じるのであれば、その必要は無いと言っておこう。何となれば、リノアが被るのは高々HPが0になった事による戦闘不能状態のみだ。更に程無くして劇的な復活を遂げるのだから心配等無用というものだろう。
ちなみに、自分の不注意によって起きた望まれざる戦いについて、彼女の口から謝罪の言葉が出る事は無かった。
もしも気が向けば、の話だが、最強のG.F.としてその名を轟かすエデンで一網打尽にしてみるのも、いいかもしれない。


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