FF8のラスボスと言えばアルティミシアだが、このアルティミシアはラスボス戦中に「お前の思う、最も強いもの」を召喚し、スコール達と戦わせる。
ここで言う「お前」とは、本人が健在であるか否かや、バトルに参加しているか否かは全く関係無くスコールの事である様で、この場面では彼が日頃身に付けている指輪にもその姿があしらわれている伝説の獣、ライオンが姿を現わす事となる。
その名はグリーヴァ。グリーヴァ、とは言うもののこの名はゲーム中で変更する機会が存在する為、後々ラスボスとして立ちはだかろうとは思いもしないプレイヤーが何の気なしに、ともすれば安直に、或いは適当に、もしかしたら面白半分で変更した結果、当該場面で何らかの衝撃を受けた方も少なくないらしいのだが、ここでは初期設定名に従い「グリーヴァ」として話を進めていく。
さてそのグリーヴァだが、ゲーム中で指輪に関する話があった時や、アルティミシアが「お前の思う、最も強いもの」として召喚した事から分かる様に、スコールの中では「最強」たる存在だったという事が分かる。しかしそれ故に、大きな謎を提起する切っ掛けともなったのだ。
確かにグリーヴァは、その時点でFF8に登場していた全てのモンスターと比べた時、「最強」と呼んでいい強さを誇っていた。さながらそれはスコールからすれば、心の中で憧れとして膨らみ続けた強さの象徴としての偶像が、あるがままに具現化された瞬間と言える。当時の彼の心境はどんなものがあっただろう。最強の存在を目の前にした事による恐怖心があっただろうか。それとも、僅かながらにでも憧れの存在を前にした事による悪くない想いというのも去来していただろうか。
しかし、グリーヴァの持つ「最強」の称号は、とある一匹の生命体によって揺るがされる事になるのだ。
その生命体の名はオメガウェポン。その「究極兵器」の名に恥じない戦い振りは誰が見ても「最強」の座に相応しいと言えよう。
ただ、同時にその凶悪振りは、人類の英知の素晴らしさ、輝かしさを再認識するに至らせる事がある。これまでに無かった程の壁が敵として眼前に迫ったその時、必ずやそれを超越する存在がいつかは現れるからだ。それはオメガウェポンという名の壁とて例外ではない。これまでに多くの猛者達がこの壁を乗り越え、最強の証を己が物にした事だろう。そしてその時、伝説はより誇大化する。即ちスコールの中のグリーヴァは、オメガウェポンよりも強いという認識に改められるのだ。
ではその、最強の称号である「オメガのあかし」を手に、大いなる自信を胸にアルティミシアの元へと行こう。そして彼女と相見え、バトルが始まり、いよいよスコールの思う「最も強いもの」を召喚する段となった時、伝説と共に、これまで隠されていた謎も具現化されたのだ。
確かにスコールの中のグリーヴァは、オメガウェポンを倒した瞬間にそれ以上の存在に成り上がった筈だ。なのに、今しがた眼前に現れたグリーヴァの体たらくと言ったら何だ。オメガウェポンを破っている彼等からすれば、お世辞にもその力を「最強」と呼ばわる事等出来はしない。そう、あくまでもオメガウェポンと比べればだが、しかし確かに弱いのだ。哀しい事に弱いのだ。絶望的に弱いのだ。唖然とする程弱いのだ。さあ泣け何せ弱いのだ。
さてだ、そもそもオメガウェポンに勝利済みのスコールの中で、グリーヴァが「最強」たり得た所以とは何か。それは一重にグリーヴァが「伝説」だったからに他ならない。実体として現れ、その力を直に感じる事の出来るオメガウェポンと、伝説であるが故に憧れと妄想が誇大していくばかりのグリーヴァとでは、オメガウェポンに勝ち目は無いというもの。だからこそラスボス戦でも、信念の曲がらなかったスコールの心を反映する形でグリーヴァが召喚されたのであり、その点に疑問は無い。
しかし何故弱いのか? 「お前の思う、最も強いもの」を召喚したのだから、その力は優にオメガウェポンを凌いでいてしかるべきではないのか?
ここで、私は一つの仮説を立てた。「アルティミシアは何も、特定の人間の心中にある偶像を具現化している訳ではないのではないか?」
ラスボス戦で召喚されたグリーヴァと、オメガウェポン間での実力の差は白昼である。そしてそうである以上、あのグリーヴァはスコールが思い描いていたものを実体化した訳ではないと考えるのが自然というものだろう。
となればどういう事か。考えられる事は一つしかない。もしかしたらアルティミシアは、「実在するライオン」を召喚したのではないだろうか。
それは実際に実在していたライオンそのものだったのかもしれないし、実際に実在していたライオンのG.F.という事だったかもしれない。いずれにせよ、アルティミシアが参考にしたスコールの思念は「ライオン」というキーワードだけで、召喚したのは実在したライオンだったのである。だからこそ、スコールの想像とは幾分かけ離れた力しか持っていないライオンが現れてしまったのではないだろうか。
そう考えると、「最強」と謳われて禍々しく登場したライオンさんが不憫である。何せスコール達が事前にオメガウェポンに勝ってしまっていた事で、本来ならばあり得ない程の実力を理不尽かつ身勝手に想像されていたのだから。
ちなみに、「伝説」たるライオンが本当に実在していたのかどうかだが、あの時世界は時間圧縮されていたので、遥か昔に存在していたとすれば、それを呼び寄せる事は容易だっただろう。別に過去に限らなくとも、遥か未来に存在していたとしても問題ではない。
さて、そうなると一つ気にせずにはいられなくなる事が発生する。
アルティミシアが、スコールの思う「最も強いもの」を召喚するに当たり、実際に存在していたものを呼んでいたとするなら、もしもあの世界に、過去から未来まで全て含めてライオンが存在していなかった場合、どうなっていたのだろうか。別にライオンに限らなくとも、全くその存在を認められない生物を「最強」だと、まるで何かの宗教であるかの如く思い込んでいたらどうなっていたのだろうか。やはりその場合召喚が失敗すると考えるのが妥当なのだろうか。
いや、気になるのはこの限りではない。もしもスコールが、実在する他の存在を「最強」と認識していたとしたら?
例を挙げてみよう。例えばバラムガーデン、及びその周辺に生息する恐竜、アルケオダイノスだとしたらどうか。ガーデンにて苦労させられたあの日の思い出はそう易々と払拭出来るものではなかろう。つまりこういう場合があり得た事は否定出来ないのだ。しかしそういったイメージとは別にして、ラスボス戦まで辿り着いた彼等にとって既にアルケオダイノスが単なるザコ敵と化しているであろう事は事実。となるとこの場合は、グリーヴァの場合以上にラスボス戦が緊張感に著しく欠けた、しょうもない感じになってしまうのだろうか。
ただ、アルケオダイノスの様に戦おうと思えばいつでも戦えるモンスターよりも、グリーヴァ同様あまり実態が知れない存在である方が、得体の知れないという意味で「最強」というイメージを持たせ得るかもしれない。だとすれば、もしかしたらスコールはコヨコヨこそ「最強」だと思ってしまっていたかもしれない。あのクリクリクルクルした瞳が訴えかけるその力たるやもう説明するまでもないであろう。よってこれも無いとは決め付けられないのだ。で、その場合はHP僅か10の生命体が現れる事になる。エリクサーをねだる可愛い生命体が貴方の敵として立ちはだかる事になる。そんな状況に立たされた時、貴方は思うのだ。自分は何と無力なのだろうか、と。そう、純粋に、ただひたすらに「エリクサー、ちょうだい!」と訴え続けるコヨコヨを前に、貴方は何も出来ないのだ。ただ心配には及ばない。どうしても貴方が目の前のコヨコヨを手にかけられないとあれば、おもむろにエリクサーを五個、コヨコヨにあげればいいのだ。それだけで貴方は、今後ずっと背負い続ける事になりかねない自責の念から逃れる事が出来るだろう。ちなみに、その後にはコヨコヨをジャンクションしたアルティミシ
アとの戦いが待っている訳だが、一体その時どうなっているのか、一体何が起こるのか、見てみたい気はする。
或いは更に別の可能性も考えられる。もしもスコールが、永遠のライバルであるサイファーこそ「最強」であると思っていたらどうなるのか。何せかのオーディンを「斬鉄剣返し」で真っ二つにした経験を持っているのだ。やはりあり得ない事だといい切れはしまい。いや待て、そのサイファーは程無くしてギルガメッシュにあっさりと敗れ去った上に「ぎにゃあああ!!」という断末魔の叫びを残したんだったか。失礼、前言を撤回しよう。
随分と話が外れてしまったが、結果としてグリーヴァは残念な事に「最強」とは呼べない力しか持ち合わせていなかった。さながらそれは、少しは期待感があったかもしれないスコールの、その僅かな期待が呆気無く、無情にも打ち砕かれた瞬間と言える。当時の彼の心境はどんなものがあっただろう。もう完全に愛想を尽かせてしまっただろうか?
…いや、ラストバトルを終え、エンディングを迎えて尚その手にあの指輪がはめられていたとすれば或いは…
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