例え「ここほれ!チョコボ」が金儲けには極めて向いていないとしても、ヴァイス大盗賊団を擁するメネが最終的に欲していたのはあくまでも金だと考えられる。何故ならメネは「盗賊達」のボスだからである。単なる盗賊風情、モンスター風情であるヴァイス等の活動目的が金にある事は明らかで、尚且つ種族すら違うメネの事をボスとして認めその指示に従うからには、メネの行おうとしている事が彼等の理念に沿っている、つまりその最終目的が多額のギルにあるという事が言えるのだ。
ただ、一口に「多額のギル」と言っても、それは単なる「多額のギル」であっては駄目だ。少なくとも「ここほれ!チョコボ」に利用した数々の貴重品を単に売り捌く場合以上の儲けがなくてはわざわざ「ここほれ!チョコボ」なんてものに手を出す意味が無かった事になるのだから。
詰まる所、メネは「ここほれ!チョコボ」を通して更なる利益を得ようとしている。しかしその「利益」が、「ここほれ!チョコボ」という商売によって直接的に得られるギルの事を指している訳ではない事はこれまで述べた事からも明らかだ。メネは、明らかに単なる金儲けでない何かを企んでいる。
ではその企みとは一体何なのか。1プレイにつき得られる60ギルという収入以外、「ここほれ!チョコボ」の何処にそんな大量のギルを手に入れられる可能性が秘められていると言うのか。ここで改めて、「ここほれ!チョコボ」の基本ルールを確かめたい。

「プレイヤーである人間がチョコボに乗り、1分間お宝を探し回り、掘り当てる」

この、基本ルール内にある要素を列挙してみよう。プレイヤー、人間、チョコボ、1分、お宝、探し回る、掘り当てる、と、こんな所だろうか。
ではこれら要素の中に、果たして大量のギルとの関連がありそうなものはあるだろうか。そう考えた時、ある1つの要素が浮上する。それは「人間」だ。
話は単純である。つまり、人間共が所持している装備品やアイテム類を奪おうとしている訳だ。人間相手の盗賊行為は普通にヴァイス達も行っている事ではあるが、前述の通り彼等が盗むのはポーション、ハイポーション、エーテル、エリクサーの4種類のみである。首尾良く相手を全滅させられればその所有物を全て持ち去る事も出来るだろうが、さほど強くない実力からしてそれは無理な相談と言うものであろう。
ならばどうすれば人間共からアイテムを強奪出来るだろうか、メネの考えはこうだ。普通に人間とヴァイスを戦わせては圧倒的に分が悪いが、こちらには手数という大きな武器がある。一挙に何十、何百という数のヴァイス達を襲わせれば全滅させる事も容易いのではないか。そして首尾良く全滅させられれば、それまで人間共にくれてやった貴重なアイテム類もそのまま手元に帰って来るだろう。
ただ、そうとは言っても、単にフィールド上にいる人間を大勢で襲うだけでは不十分だ。そもそも一人一人が弱いのだから、全体化魔法という概念のあるこの世界では例え自軍が圧倒的多数を誇っていてもそれが即勝利を決めてはくれないのである。バトル開始前から勝ちを確実なものとしておくには、更に相応の準備が必要なのだ。
その「準備」こそ、「ここほれ!チョコボ」だった。「1プレイ60ギルで埋まっているアイテムを掘り放題」と聞いて「何てお得なんだ」と思った人は多いだろう。私もそう思った。何とプレイヤーに有利なサービスだろうかと。しかし、それこそが罠である。かような極めて良心的なサービスを受け、そして「ここほれ!チョコボ」というゲームに熱中する事で、プレイヤーたる人間はその時、警戒を怠るのだ。ここが魔物の出現しないエリアであるとの先入観にとらわれ、油断してしまうのだ。その瞬間に、突如数え切れない程のヴァイスに襲われてしまえば、例え普段は悠然とフィールド上を闊歩する者達であろうが一溜まりもないだろう。場所がチョコボの森という閉鎖的な空間であるだけに、行動の自由もままならないかもしれない。逃走するなんてもってのほかなのである。
つまり「ここほれ!チョコボ」とは、欲深い人間共からアイテムを強奪する為、大勢で襲い掛かるには条件の良いチョコボの森へとおびき寄せる為の罠だったという訳だ。ジタン達は、そして我々は、まんまとこのメネの策略に釣られていたのである。

しかし、これでは疑問が出て来はしまいか。何故なら、ゲーム中でどれだけ「ここほれ!チョコボ」をプレイしようと、一向に大勢のヴァイス集団に襲われる気配がないからだ。どれだけ夢の様なサービスにうつつを抜かし、油断の限りを尽くしていようと、決して盗賊団の姿を目の当たりにする事がないからだ。一体何故だろう。間違いなく、メネは人間相手にアイテムの強奪を見据えて「ここほれ!チョコボ」を勧めていた筈なのに。
勿論、これには理由がある。「ここほれ!チョコボ」というゲームを考案した時点では人間共を襲う筈だった計画は、とある理由により最終的には変更されていたのだ。何故か。それは、変更後の計画の方がより一層のギルをその手に出来るとの確信があったからに他ならない。
ではその「理由」とは何だったのだろう。これは、実際にゲーム中で「ここほれ!チョコボ」をプレイしていて出くわす事になる、1つの出来事から導き出される。


「ここほれ!チョコボ」をプレイしていると、その内「模様のある石版」という物を掘り当てる事があるだろう。このガイアのあちこちに埋められているお宝の位置を指し示しており、後に「チョコグラフ」と呼ばれる様になる石版の事である。
この石版を初めて掘り当てた時の、メネの言動を思い出して戴きたい。あの時メネは、その石版を初めて見る旨の発言をしていた。しかし、これがまず嘘なのだ。メネは「ここほれ!チョコボ」というゲームを実現させる為、多数のアイテムをチョコボの森に埋めた筈だが、その作業の際、一旦地面を掘り返すに当たって、必ずや石版の姿を見たに違いないのである。ポーション等、ランクの低いアイテムこそ地中の浅い部分に埋めてあるが、高ランクのアイテムともなるとかなり深い部分に埋められている事から、アイテムを埋める作業中に1度たりとも石版に当たらなかったとは考えられないだろう。
ただしここで、「お宝が埋められている位置を指し示す石版自体、メネが埋めたものなのではないのか」と考える人もいるかもしれない。実際、石版の示す先には一部かなりの貴重品が埋められている場合があるものの、かつてヴァイス達が滅びた国家から持ち去った貴重なお宝を利用すればそれは恐らく可能な事だ。が、可能な事ではあっても、その可能性はおよそ無い、という事を述べておこう。
そもそも、ヴァイス達が調達したアイテムをお宝としてチョコボの森に埋めたのは何故だったか。それは、森という閉鎖的な空間を利用する事で、甘い誘惑におびき寄せられた人間を襲い易くする為だった。ではその観点から考えて、世界中のありとあらゆる場所にお宝を埋める意味は、果たしてあるだろうか。チョコと、チョコを乗りこなす人間に世界中を旅させる事によって、新たにギルは発生するだろうか。いや、そんな事はない。折角森へ誘い込んだ人間を外へ出してしまっては襲撃のチャンスが失われる事になるし、チョコや人間風情が世界中を走り回る事によって、メネの懐が暖まる等という旨い話はないのだ。
つまり、数々の貴重品をわざわざ世界中に散りばめるのは全くの無駄であり、それ故メネがその様な行動に出たとは考え難いと考えられる。これより、あれら石版がメネによって埋められたものだとは考えられないのである。

では、アイテムを地中に埋める作業中に、元々そこに埋まっていた石版を掘り当てたメネはどうしたか。恐らくは、その石版が指し示す場所にあるお宝を探しに行き、そしてそれを発見したのではないだろうか。勿論、メネが元からあれら石版の存在、そしてその意味を知っていたとは考え難い。しかし、何処かの風景と分かる程度の絵が描かれている点からそれが単なる自然物でない事はすぐに分かった事だろうし、その風景もやけにはっきりと描かれている為、「これはあの場所だ」という事をメネが気付いたとしてもおかしくはないのだ。
同様の事は、「もしメネが掘り当てた石版を不必要な物だと判断していたらどうなっていたか」を考えても言える。プレイヤーが「ここほれ!チョコボ」に没頭し、油断した所を襲撃する予定ならば、プレイを繰り返し続々とアイテムを掘り当てる内に上々になっていくその気分をぶち壊しかねない様な、「まるで用途の分からない不必要なアイテム」を一緒に埋めておくべきではないだろう。つまり、もしメネが石版の意味を、その価値を見出せなかったなら、彼はわざわざそれを森に埋めなおしはしなかったと思われるのだ。なのにも拘らず、ゲーム中から分かる通り「ここほれ!チョコボ」の準備を終えた段階で石版は地中に埋められている。これこそ、メネが埋められていた石版の意味に気付いていた事を示しているのである。
そしてこの事は同時に、「石版に描かれている風景はあの場所である」事に気付いたメネが、果てにその場所に埋められていたお宝を発見したという事実も明らかにする。もしメネが大地に埋まっているお宝の存在に気付かなかったとすれば、メネの中で石版という存在は単に「ガイアの何処かにある風景が描いてあるだけの石版」であるに過ぎなかった訳で、その場合彼にとってそれは依然「不必要な物」でしかないからだ。
石版に描かれていた風景画のみから、それがガイアの何処かにある風景である事、更にはその場所の地中にお宝が埋まっている事を突き止めたメネの物事に対する洞察力はどうやらかなり並外れたものの様だ。
さて、思いがけず新たなお宝を発見する事となったメネがその時考えた事は1つである。そう、それらアイテムを森に埋めるなり、ポイントと交換出来る賞品とするなりして、「ここほれ!チョコボ」運営に役立てるのだ。この時点ではまだ人間襲撃計画にこれと言った変更はなく、石版によって入手したアイテムを同じ場所に埋め直す等という選択肢はメネの中にない。しかし、引き続きアイテムを埋める作業を行い、先に発見した物と同様の石版が次々と見付かるに連れ、状況は一変する事となる。
既に「石版に描かれている場所の地中にはお宝がある」事が明らかとなっている以上、新たな石版を発見したメネは片っ端からお宝を掘りに行った筈である。川のほとりに、山の狭間に、そして未開の地に眠るお宝を。そうする内、メネはある不思議な宝箱を開けたのだ。
お宝が入っている訳ではなく、開けた者を夢に誘う宝箱。一体これは何なのか、ゲーム中で「チョコボのお宝探し」の為に世界中を奔走した事のある人ならお分かりだろう。これはチョコが開ける事で、チョコ自身がデブチョコボなる者から進化の恩恵を授かる事の出来る宝箱である。この宝箱を開け、しばし夢を見る事となったメネ。その夢の中で果たして何があったのか、それは定かではない。しかしメネはこの出来事を通じてある1つの事実を知る事になった。

「このガイアには、チョコボ達の暮らす集落、チョコボの桃源郷が存在する」

ずばりメネが、それまで準備していた人間襲撃計画を最終的に変更した「理由」とはこれだ。メネはそのチョコボの桃源郷にあるであろう金目の物を、ブルメシアの時と同じく根こそぎ奪い取ろうと考えたのである。この世界にそんな場所がある事なんてこれまで全くもって知らなかったし、話にも聞いた事がないのだから、突如盗賊に襲撃されて滅びたとしても世界に与える影響は皆無に等しいだろう、その上、チョコボしか住んでいないのなら襲撃の役目はヴァイス達でも十分に務まるだろう、そう考えての事だった。
ただ、勿論計画が変更されたからと言って、チョコボの森に埋めておき、その後「ここほれ!チョコボ」のプレイによって人間が掘り出したアイテムの数々を、自身をチョコボの桃源郷に導いてくれた事の謝礼宜しくそのままその人間にくれてやる訳にはいかない。桃源郷襲撃、そしてお宝強奪の後には、それまでチョコの乗り手として世界中を走り回った人間をヴァイス達に襲わせようとしていたのである。あまりにも冷酷無慈悲な計画。ここに、その概要が固まった。

さて、ここで話は少し脱線するが、メネがチョコボの桃源郷を襲撃し、そこにあるお宝を強奪しようと考えているという事から、どうやらチョコはメネの共謀者ではないという事が言えそうだ。次から次にあくどい顔が明らかになっているメネとは対照的に、これまで殆ど委細不明だったチョコだが、彼はメネの企てた金儲けの為に良い様に使われていただけだったのである。またその事実は、以下の事からも察せられるだろう。
メネがチョコボの桃源郷の存在を知った宝箱が元々チョコを進化させる為の物であるという事は、もしメネがこの宝箱をチョコと共に発見していたとすれば、チョコは少なくとも浅瀬チョコボに進化した状態でゲーム中におけるジタンとの出会いを迎えた筈である。しかし実際の所チョコはジタンと出会った段階で一切進化していない。つまりメネは、その宝箱をチョコのいない状況で地中から掘り出し、そして開けたのである。チョコに掘り出させれば遥かに楽に事が運ぶにも拘らず。恐らくこれは、チョコと共にフィールド上を移動している最中に、偶然ヴァイスと鉢合わせてしまう危険性を回避しようと思っての事だろうと考えられる。自分がヴァイス大盗賊団のボスである事を知られてしまっては、明らかにその後の計画に支障をきたしてしまうからだ。
ちなみに、チョコボの桃源郷でチョコという飛行移動手段を失ってしまったジタンをメネが持ち上げて帰ろうと試みるものの敢え無く失敗する件から、メネにはあまり腕力や体力が無い事が分かる。そうとなると恐らくメネは単独で、どの辺りに埋まっているか正確には分からない宝箱を掘り出す事が出来なかったのではと思われるが、考えるにこの時彼は多数のヴァイスを現場に同行させ、宝箱を掘り出させていたのだろう。
また「あまり力が無い」という事実から同様にして「どうやってメネはチョコボの森や入り江、空中庭園にアイテムを埋めたのか」という疑問が浮上する事になるが、これも特に問題ではない。日中こそ、その作業はメネが単独で行う必要があったかもしれないが、深夜になりチョコが寝静まってしまえば、その間にヴァイス達の手で大幅に作業を進められるからだ。入り江と空中庭園については、普段からその場所にはチョコがいない為、現地にヴァイス達を派遣させておきさえすれば後は誰かの目を気にする必要すらない。

話を戻そう。ここまでで、元々は裏ルートに流していた多数のお宝を用いた、更なる金儲け計画の大筋は固まった。
ただ、実はこの計画にはとある問題点が存在する。上述した流れによれば、メネは桃源郷襲撃の後にチョコ乗り手の人間をヴァイス達に襲わせるとしているが、これが可能であるかどうかが怪しいのだ。と言うのも、チョコボの桃源郷を襲撃した時点でチョコが死んでしまう可能性があり、そうなると以降「ここほれ!チョコボ」が運営出来なくなってしまうからだ。もし無事に生き残れたとしても、その先チョコがメネの言う事を聞き、その思い通りに動いてくれる筈はなくなる事から、やはりその場合も「ここほれ!チョコボ」存続の道は絶たれてしまう。それによってチョコの乗り手だった人間をチョコボの森に誘い込めなくなってしまうので、人間襲撃が再び困難なものとなる事が予想されたのである。勿論、事前にヴァイス達へ「くれぐれもチョコには手を出すな」とさえ伝えておけば、後は生き残ったチョコに「ヴァイスの襲撃は自分が手引きして起こった事」だと思わせない様にするだけでいいかもしれない。が、ただでさえ桃源郷の存在を知っている外部の者は極めて少ないのだから、その数少ない「外部の者」である自分に少なからず疑惑の目が向けられてしまうのは必至であると言えよう。
この事態を避ける為、メネは「桃源郷襲撃→人間襲撃」という流れを「人間襲撃→桃源郷襲撃」に変更する必要があった。チョコボの森で人間達の持ち物を全て奪った後に、用済みとなったチョコを片付ける意味も兼ねて桃源郷を襲撃する、という流れで事を進められればいいのだ。
そこでメネは考えた。無事チョコボの桃源郷へ辿り着いた後、すぐにそこを襲わせるのではなく、しばらく時間を置く為に、ある程度の期間桃源郷に住めないだろうかと。これは、単に桃源郷襲撃のタイミングを遅らせる為だけに取る手段ではない。桃源郷に到達してすぐに襲撃に踏み切らないのなら無事に帰郷出来たチョコがその場に留まってしまうという問題が発生し得るが、もし首尾良く、桃源郷の主らしいあのデブチョコボとやらに自身の定住が許可されれば、チョコと共に暮らす中で彼を説得し、桃源郷の外へ連れ出す事が幾らでも可能であると考えられたからだ。こうする事で、チョコが桃源郷に永住してしまう事による「ここほれ!チョコボ」存続の危機を回避出来るのである。
ただ、勿論の事ではあるが、モーグリである自分がチョコボの桃源郷への定住を許されない可能性は十分にあり、その場合の対策も講じておかなくてはならない。とは言え、メネには確信があったのではないか。チョコは、もし自分が桃源郷への定住を許可されなかったとしても、群れからはぐれた後唯一の親友であった自分と別れる様な事はしないだろうという確信が。桃源郷へ帰る事はいつでも出来るのだ。ならば、チョコは必ずや桃源郷を後にする自分を追って付いて来る筈。メネは、それをも計算していたのかもしれない。

遂に計画は固まった。後は、なるべく速やかに「ここほれ!チョコボ」の準備を進め、計画始動の時を待つだけである。計画始動の時、そう、それはチョコボの森に、チョコの乗り手となる人間が訪れる日の事だ。
そして、その時は来た。「ここほれ!チョコボ」の準備が整ってから、一体どれだけ待ったのか、それは定かでないが、ジタンという人間が満を持してチョコボの森にやって来たのだ。
やって来たジタンの事を、極度の人見知りだというチョコが気に入り、すかさずメネが「ここほれ!チョコボ」の話を持ちかけたその瞬間、この壮大な計画は動き出したのである。そしてメネは、後にジタン達を襲撃する事を見据え、彼等の実力調査の意味で以後密かにジタン達を尾行する事になる。

さて、基本的にこの計画はチョコの乗り手と、そしてチョコとの頑張りによって進められていくものである為、ジタン達がチョコボの桃源郷に辿り着くまでの間、これと言って特にメネが動かなければならない場面というものはない。ジタン達が勝手に世界中を駆け回り、そしてチョコが進化していく様を見ているだけでいいのだ。その間のメネの行動はと言えば、常時ジタン達を尾行する事の他には、桃源郷到着を前にして「ここほれ!チョコボ」に飽きられてしまわない様、渾身のサービスを提供する事位なものだっただろう。無論、ジタン達の尾行だけでかなりの行動量にはなるのだが。
計画の始動からしばらくして無事ジタン達がチョコボの桃源郷の場所を突き止めるに至ると、彼等がそこへ向かうのと同じくしていよいよメネも同地へ乗り込む事になる。とは言え、ここまでは「ジタンが『ここほれ!チョコボ』に熱を上げ続けさえしてくれれば、自身の桃源郷到達は確実だ」というメネの事前の読み通りである。本番はここからなのだ。
あの日夢で見たデブチョコボと対面するメネ。無事故郷へ帰って来たチョコに関するひとしきりの会話があった後、彼はデブチョコボに対しそれとなく定住の意思を表明する。が、敢え無く断られてしまった事は、当該シーンを見た事のある人であればお分かりだろう。何回か食い下がるものの、返答は「駄目だ」の一点張り。駄目押しの様にして最後に「ダメ?」と聞いてみるも、返ってくる答えは変わらず、結局メネは桃源郷への定住を諦める事となる。
ただ、定住を断られる事自体は、計画を立てた段階である程度予想していた事だ。まさか桃源郷の主があんなにも頭の固い奴だったとは、と多少は思ったのかもしれないが、まだこれは計算の内なのである。定住を断念せざるを得ないのならば、チョコと共に桃源郷を出るまでだ。メネは、普通にその場を去っても後からチョコが付いて来るだろうとの確信を抱いていながら、殊更に強くチョコとの別れを名残惜しそうにし、チョコの感情に訴え掛ける様にしてデブチョコボの前から姿を消した。
しかしこの直後、メネにとって本当の誤算となる出来事が起こる。何と、桃源郷を後にしようとする自分の後をすぐにでも追って来ると踏んでいたチョコがそうする気配を見せなかったのだ。今すぐにチョコが追いかけて来なかった事は、計画全体を遂行するに当たって特に問題となる事ではない。すぐには来なかったとしても、しばらくすればまたチョコボの森に姿を現すであろう事は確実だからだ。チョコの事を最もよく知るメネならではの確信である。そして、ジタン達の襲撃はそれからであっても遅くはないだろう。今問題となっているのはそこではないのだ。
真の問題は、ジタン達がこの島を出る手段を無くしてしまった事である。チョコがすぐには自分の後を追って来ない可能性があったなら当然これも予期出来た事であった筈だが、恐らくメネはこの様な展開になった場合、桃源郷の主なり誰なりが何らかの救済措置を講じるだろうと思っていたのだろう。しかしどうだ、主のデブチョコボを始め、誰一人としてチョコの代わりとなる移動手段を用意してくれる気配を見せる者はいないではないか。メネにとっての誤算とはチョコがすぐに後を追って来なかった事よりも、むしろ桃源郷にいたチョコボ達の、かような無責任さの方にこそあったのである。
無論、自分自身が一人でこの島を出るのは容易い事だ。しかし、ジタン達にはこの先少なくとも1回以上、ヴァイス達に襲わせる為にチョコボの森へ来てもらわないとならない為、ここで彼等を見捨てる訳にはいかないのである。メネは悩んだ。ジタンに言われた通り彼等を持ち上げて帰ろうと試みるが、それでは数メートル飛行するのがやっとであり、絶海の孤島であるこの島から大陸の方までなんて無事に飛び続けられそうにない。誰か他の者の力が必要だとは言え、まさかこの場にヴァイス達を呼び寄せられよう筈もない。
その時だった、一旦はメネとの別れを受け入れ、桃源郷に留まる事を決意したチョコがメネの後を追って来たのは。メネが「こうなったら、リンドブルムかアレクサンドリアに救援を要請しようか…船を1隻手配出来れば何とかなるのではないか」と考えていたそのタイミングで、ようやくチョコが自分の下へと戻って来たのである。
かくしてメネは、外部のものに対してはひたすらに冷たい態度を取る桃源郷のチョコボ達のせいで1度は計画が狂わされそうになってはしまったが、一応は予定通り、チョコと共にチョコボの森へ帰る事になった。

さて、ここで1つの疑問が生じる。計画によれば、次にメネが行うのは「チョコボの森でヴァイス達にジタン達を襲わせ、アイテムを強奪する事」である。しかしどうだろう、ゲーム中で確認出来る事だが、チョコボの桃源郷到達後に「ここほれ!チョコボ」をプレイしていて、ジタン達がヴァイスに襲われるなんて事が起こるだろうか。答えは明白だ。そんな事はゲーム中では起こりはしない。一体これはどういう事か。「人間襲撃」は、いつだってこの計画内において最重要な要素であった筈なのに。
実はこの事実の影では、メネの思惑に無かったとある事が影響を及ぼしていた。時は少し戻り、メネがジタン達を尾行している時の話である。四六時中、常にその動向を監視しているとなれば、当然メネは尾行する中で最も知りたかった事である「バトル中の様子」を目の当たりにもしたであろう。しかし、実際ジタン達の戦う姿を見たメネは感じたのである。「こいつ等は他の冒険者共とは違って、桁外れに強い」と。
言ってしまえばそれは、例え人間達が相手でもチョコボの森にさえおびき寄せてしまえば、後は数勝負で何とでもなると思っていたメネの誤算だった。ジタン達の実力は、事前に想定していた力量を遥かに上回るものだったのである。それも当然か。ジタン達はこのガイアを、そしてこの宇宙を救う事の出来る唯一かもしれない者達だったのだから。
そんな者達を相手にして、ヴァイスやマジックヴァイス達に何が出来ようか。確かに数的には圧倒的有利なのだろう。しかし、ヴァイス達の繰り出す一発一発の攻撃によって奴等に与えられるダメージは、奴等からしてみれば皆無に等しいのだ。かような実力差では、数云々は関係なく100%勝ち目が無いのである。数が多いなら多いで、召喚獣でも呼び出されてしまえばその瞬間に勝負がついてしまうのである。つまりメネはこの段階において、人間襲撃計画を断念せざるを得なくなっていたのだ。
既にジタン達は相当量のアイテムを掘り出し、我が物としてしまっている事から、この時点で「世界各地から掘り出したアイテムを単に売り払った場合以上の利益を上げる」という計画目的は最早達成不可能となってしまっているのだが、悲劇はこれだけでは終わらなかった。更なる追い討ちがメネを襲ったのである。
それは本来なら人間襲撃計画後、行動に移す予定だった「桃源郷襲撃計画」に関する事態だった。この計画は勿論ながら「チョコボの桃源郷には多数のお宝がある」という目算の上に成り立っていたものだったのだが、では実際の所、チョコボの桃源郷の実態とはどういうものであっただろうか。
メネは、桃源郷に初めて足を踏み入れた際、こんな事を言っていた。

いいところクポね〜

しかし、その心中はどうだったろう。完全なギル目当てでやって来たと言うのに、ただただ目の前に広がるのは緑と水と岩とチョコボ…そう、どう見ても、金目の物がありそうにはなかったのだ。もしかしたらメネは、口でこそ「いいところクポね〜」と言いながら、一目その光景を見た段階で既に見切りを付けていたかもしれない。

かくして、あんなにも綿密に練り上げられた筈の計画は、元々手中にあったお宝の幾らかをジタン達に持って行かれるという、メネにとって最悪の形で幕を下ろす事となった。ここで気になるのは、計画が既に失敗に終わっているにも拘らず「ここほれ!チョコボ」を存続させている事についてだが、恐らくこれはメネが次なる標的を狙っている事を意味しているのだろう。今回計画が失敗してしまったのは、あくまでも桁外れの実力を持ったパーティーが罠にかかってしまった事によるものなのだから、もしももっと一般的な人間を相手に出来れば、思惑通りに事が運ぶ筈なのである。またメネにとっても、多大な損失を出し完全に失敗してしまった状態のままこの計画を終えてしまう事に何かしら思う所があったのではないだろうか。
「ここほれ!チョコボ」を続けていくという事は、これから先もジタン達にアイテムを掘り出されてしまうという事になる。ただ、勿論メネがそんな行為を見す見す容認する訳はない。思うに、メネは何もジタン達からのアイテム強奪を完全に諦め切った訳ではないのだろう。計画失敗後も引き続き彼等の尾行を行い、その中で虎視眈々と襲撃の機会をうかがっているのではないだろうか。

以上が、メネによって密かに企てられた計画の全貌である。最終的にその計画自体は失敗に終わってしまったものの、ゲーム中からそんな事を考えていたとは一切見て取れない辺り、メネのその周到さを、私は恐ろしく思うばかりである。


と、ここで私は思った。曲がりなりにも、メネはモーグリである。一般的には率先して戦いに身を置く事はない、モーグリである。なのに、一体何故メネはこんなにもギルに執着し、平然と悪事を働く様になってしまったのだろう。
そこまで性格が捻くれるには、幼少時代に何か重大な事件が起こったのではないだろうか。そう考えた私は、メネの誕生から幼少期の頃の事を少し推察してみた。

まず、FF9のモーグリは子供を生む事が出来る。これは、ギザマルークの洞窟にいる新婚のモグタとモグミが、シナリオの進行に応じて最終的には3人の子供を授かっている事実から明らかな事だ。
という事は当然メネにも両親がいた筈だが、もしかしたら、この両親が死別か離婚か、何らかの理由によってメネと別れてしまっていたのではないだろうか。それが影響して、結果的に大きく道を踏み外してしまったと考える事は出来るだろう。
メネが両親と別れてしまっていたのではとする仮説については根拠もある。「メネ」という名前がそれだ。見ての通り彼の名前には、その他多くのモーグリの名前に見られる特徴が無い。この事実に、後々メネがヴァイス盗賊団のボスに上り詰めた事を加味すると、生み捨てに近い状態だった彼を盗賊団が拾い、「メネ」と名付けて育てた可能性が大きいのではと考えられるのである。
果たしてどの様な経緯があってメネがヴァイス盗賊団のボスにまで上り詰めたのか、その時期の詳細は不明だが、少なくともボスに上り詰めて以降は、緊迫感の増す霧の大陸の中で崩壊に追いやられる国家が現れないだろうかと思いつつ盗賊団を指揮して冒険者からアイテムを巻き上げ、それらを売り払って金を儲ける日々だったのではないだろうか。そう、「地中からアイテムを掘り出す」という能力を持つチョコと出会い、「このチョコボを利用して何か一儲け出来ないか」と考え、その結果として「ここほれ!チョコボ」を考案するに至るその日までは。

以上が、私の推測するメネの真実である。
では最後に、ここまでで明らかにした事実を、時間を追ってまとめておこう。

…計画失敗の果てに、次なる標的を探し始めたメネ。確かに彼は、己の私利私欲の為だけに、罪もない人間を、そして罪もないチョコボをその手にかけようとしていた。しかし私は貴方達に、こうして表面化した彼の黒い一面だけを見てほしくはない。彼の、心の内に隠されたその人生を知ってほしいのだ。親の顔も殆ど知らず、物心付いた時から闇の世界に生きる事を強制された一匹のモーグリの、悲しき物語を知ってほしいのだ。
FF9のエンディングにメネは登場しないので、ジタン達がこの宇宙を救った後どうなったか、どうしているかは定かではない。だが私はメネが、例え今は悪しき心に満たされているとしても、純粋なる心を持つチョコとの暮らしの中でこれまで頑なに封印してきた有意義な感情を見出し、一日も早く今の世界から足を洗う日が来る事を願って止まないのである。


第一章 「『商売』の真相」へ  戻る  トップページへ


ラシックス