FF9に「ここほれ!チョコボ」というミニゲームが存在している事は多くのFF9プレイヤーの知る所と思う。いわゆる所の「お宝探し」であるこのミニゲームは、1プレイ60ギルというお手軽さもあってか、ついついはまり込んでしまった者も多かった様だ。
しかし、手軽であるが故に、このミニゲームにはとある謎が浮上する事となった。些細で、小さく、ともすると無視してもよかったかもしれない謎が。
ところが、その謎に思いを巡らせ、その理由を突き詰めて考えるに連れ、いつしかそれは些細と形容する事の許されない、重大な事実を浮き彫りにしたのである。
ゲーム中では、絶対に語られる事のないもう一つのFF9。ここに、その物語を語ろう。


まず、初めに浮上した「謎」とは何だったのか。それを説明するべく、「ここほれ!チョコボ」の基本情報をおさらいしておきたい。
このミニゲームを取り仕切っているのは、ある1匹のモーグリである。名をメネというそのモーグリは、この「ここほれ!チョコボ」を生業として生活している様で、初めて会った人間に対して積極的にゲームへの参加を勧めている。
実際にお宝探しを担当するのは、1匹のチョコボである。その名はチョコ。彼は持ち前の「地中にあるお宝を探知し、掘り当てる能力」により、1プレイにつき1分間、プレイヤーの指示に従ってお宝探しに奮闘する。
ゲームのルールについても触れておこう。ルールは簡単である。舞台となるのはチョコボの森(後にチョコボの入り江とチョコボの空中庭園が追加される)で、地中にアイテムが埋められているので、1分間の制限時間内で出来るだけ多くのアイテムを掘り当てるというものだ。見事発見出来たアイテムについてはプレイヤーの物となり、また掘り当てたアイテムの種類等、幾つかの要素によってポイントが別に算出され、繰り返しプレイする事によりそのポイントを貯めていくと、それと引き換えに貴重なアイテムを入手する事も出来る。
さて、この中の一体何が問題となったのか。それは、メネの発した次のセリフにより顕在化する。

これ以上見つけられたら商売あがったりクポ!
オイラにも生活があるクポ!


制限時間内に8個のお宝を掘り当てた時、メネはこう言って、残り時間が幾らであるかに拘らずプレイを強制終了させる。そしてこのセリフからは、「ここほれ!チョコボ」を商売とするにあたり、少なからず何らかの支出がかかっているという事が推測出来る。
ではその「支出」とは具体的に言うと何なのか。それを考えてまず思い付くのは、埋められている数々のアイテムを調達する費用だろうか。商売とは直接関係が無いが、「オイラにも生活ある」という事はつまり「食べていけるかどうか」という事であり、ここから文字通り食費の点も加味しなければならないかもしれない。
ここから更に、「何にどの位のギルがかかっているのか」を考えたい。まずは食費についてだが、考えるに、これにかかる費用は我々人間が一般に必要とする額と比べると、無いに等しいものとなるのではなかろうかと察せられる。何故か。それは、チョコについてはその主食がギサールの野菜と仮定するなら、それはメネが多量に所持している(=ジタン達に幾らでも売ってくれる)上、お宝として埋められてもいる事からアイテム調達費を兼ねる事となるし、一方でメネの方は妖精という特殊な生態上、一応は(マダイン・サリでのモーグリ達がそうだった様に)普通の食事もしない訳ではないものの、特に何も食べないとしても問題がないと仮定するなら、その食費は限り無く0に近付く事になるからだ。無論、この考えには二つもの確証の無い仮定が含まれてしまっている為に説得力は無いが、実はこの問題がどうであるにせよ「ここほれ!チョコボ」から浮上した謎には一切の影響を与えない。次に述べる「アイテム調達費用」に比べると、一匹のモーグリに一匹のチョコボの食費等というものは事実、無いに等しいものとなってしまうからだ。
本当に重要なのは、アイテムの調達費用である。無尽蔵とも思える程に多くのアイテムがあれら地中には埋まっている訳だが、果たしてそれらのアイテムを用意するのには如何程のギルがかかっていたのだろう。
実際に埋まっているアイテムの一例を挙げてみよう。例えば、最も発掘し易い部類に分類されるアイテムを見ると、ポーション、毒消し、目薬といったものがあるが、最も発掘し易い=最も安価であるこれらのアイテムですら、普通のショップで購入すると実は1個50ギルもする。これで「ここほれ!チョコボ」1回分の収入が60ギルではどう考えても元が取れる筈はないだろう。無論、お宝の中にはフェニックスの羽等の非売品や、入手するなら通常は材料費と合成費が必要となるアクセサリ類も含まれている事、更には前述の通り獲得したポイントに応じて貴重なアイテムすら貰う事が出来る事を加味すれば、それはより明白だろう。
これが本当に「商売」であるのなら、損得勘定で言えば間違いなく大損だ。なのにも拘らずメネは、プレイヤーがアイテムを8個掘り出した段階でようやく「これ以上見つけられたら商売あがったり」と止めに入る。このセリフからすると、「8個までならかろうじて商売になる」という風に聞こえるのだが…
つまりこうだ。「メネは『ここほれ!チョコボ』を如何にして、『商売』として成立させているのか」 この謎が浮上したのである。


先にポーションの単価が50ギル、と述べたが、そこはメネもれっきとした商売人である。多量のアイテム調達に世間一般のショップを利用している訳はないだろう。少なからず、定価よりも安価でアイテムを仕入れる事の出来る様ないわゆる卸を利用している筈だ。
しかし、実際の話はそんなに簡単なものではない。例えポーションについて考えたとしても、8個掘り出して利益を出すには1個当たり7ギルを切る程の破格の値で仕入れなければ話にならない事になるからだ。それからすると、メネが普通の卸売市場を利用してアイテムを調達しているとは考えられないと言えよう。
その上で、メネの扱っているアイテムがポーションの様に一般的に広く流通しているアイテムのみならず、非売品も数多く存在している事を考えると、最早彼が正規の流通ルートを介してアイテムを調達しているとはとてもじゃないが思えない。つまり、何らかの裏ルートが存在しているのではないか、私はそう考えたのだ。
市場に出回っている物だけでなく、希少な物までも極めて安価で入手する事の出来る裏ルート。果たしてこのガイアにそんなものは存在するのか? いや、一応あれだけの文明が栄えていれば、一部にそういった裏の顔があっても何らおかしい事ではないが、無論ゲーム内にはっきりとその存在が示されている訳ではない為、その実態を突き止めるのはかなりの難題だと思われよう。
しかし、調査を重ねた結果、私は上述した条件を満たす裏ルートが確かに存在する事を突き止めた。かくの如き裏ルートは実在する。それを突き止めてしまったのだ。そこで、その裏ルートが如何なるものであるのかを述べていこう。

貴方はFF9にヴァイス、及びマジックヴァイスというモンスターが登場する事をご存知だろうか。前者は霧の下のリンドブルム嶺に、後者はブルメシアに登場し、相手の所持するアイテムを盗んだ次のターンに逃走するモンスターである。
過去のFFシリーズでも同様のモンスターは何種類か存在していたので、これまでは特に何を気にするでもなく戦っていた相手である。しかし、もし奴等の盗んだ数々のアイテムが実は裏ルートに流れており、それがメネの手に渡っていると考えるとどうだろう。そう考えるのならば、裏ルートへ流すアイテムの調達に一切のギルが発生しない事になる為、ポーション1個7ギル以下という破格の値段も成立し得るという事になるのである。
ヴァイスやマジックヴァイスによって形成される裏ルートの詳細や、ただのモーグリであるメネがこの裏ルートの事をどうやって知ったのか等、疑問とされる点は依然多いが、これをして一応は「どうやって『商売』として成立させているのか」という謎の説明にはなりそうだ。しかしここで私は、本当にその様な裏ルートが存在するのか、否、「本当にその様な裏ルートが存在出来るのか」という疑問を投げかけざるを得なくなる。
ヴァイスやマジックヴァイスが冒険者から盗んだアイテムを流通させる裏ルートというのは、考え方としては十分有り得る話かもしれない。このガイアにはびこるヴァイス、マジックヴァイスの数たるやかなりのものがある事からしても、それは相当大きな流れとなっているのでは、とする考え方は確かに間違っていないだろう。ただ、それはアイテムの調達元であるヴァイス及びマジックヴァイスが十分に機能すればこその事だ。私はここに、裏ルートが存在する上において絶対に避けられない2つの障害を、疑問として提言したい。

まず1つは、本当に奴等が、裏ルートを形成するに足りるだけのアイテムを調達可能なのかという点だ。ゲーム中で実際に戦ってみると分かる事だが、奴等はいずれもシナリオ全編を通してかなり序盤に登場するモンスターであり、さほど強い訳ではない。一般人にとってみればそれでも十分な強さだとは思うが、街中に現れる事が決してない彼等の相手はあくまでもフィールド上を闊歩する冒険者が殆どである。フィールド上、それも霧の下を移動する以上それなりの実力はあるであろう冒険者を相手取って、言ってしまえばひ弱な奴等が果たしてあれだけ大量の(少なくともメネがチョコボの森に埋める分だけの)アイテムを調達出来るのか。これはかなりの難題だと言えよう。
そしてもう1つ。そもそもポーションから数々のアクセサリ類まで、かなり多岐に渡るあれらアイテムをどうやって手に入れたのかという点。当然これは、命懸けで冒険者から盗んだものだろうと思う人がいるかもしれないが、実はそれは違う。ポーションはともかくとしても、ヴァイスやマジックヴァイスが冒険者からアクセサリ類を入手するという事は絶対に起きない。
何故か。それは、奴等が相手から盗むアイテムに実は限りがあるからだ。具体的には、ヴァイスはポーションのみしか盗まず、マジックヴァイスもポーション、ハイポーション、エーテル、エリクサーの4種類しか盗みの対象としない。アイテムを盗む人員は膨大なのにも拘らず、奴等が調達するアイテムは僅か4種類にしか過ぎないのである。勿論、それらアイテムがどれだけ裏ルートに出回っているとしても、それだけでは「ここほれ!チョコボ」を運営する事は出来やしない。例外的にもし奴等が、戦った相手を全滅に追いやったとすれば、その冒険者の所持していた物は何から何までかっさらえ、普段は絶対に見かけない様なアイテムも裏ルートに出回る可能性があるかもしれないが、それは先に述べた通りさほど強くない奴等にとっては無理難題と言わざるを得ないだろう。
以上の2点により、ヴァイス、マジックヴァイスによる裏ルートはその存在自体が疑問視されてしまうのである。
ただ、ここで改めて考えたい。ヴァイス達によって成される裏ルート無しに、「ここほれ!チョコボ」が商売として成立し得るのだろうかと。ポーション1個7ギル以下とは言ったが、もっと高価なアイテムもゴロゴロ埋まっている事を加味すれば、実は7ギルでも高過ぎる。あのルールの下、本気で利益を追求しようとするなら、もっと安価で、タダに近い値でアイテムを仕入れなければならなくなるのだから、それを担うのに、単なる裏ルートでは不十分だ。やはりそれを成立させる事が出来るのは、「盗品のみ」によって形成されるこの裏ルートを除いては考えられないのである。よってそれは確かに存在しているものの筈なのだ。

それを踏まえ、先に挙げられた2つの疑問を考察しよう。
数々のアイテムをタダに近い値で調達出来る場がこの裏ルートのみに限られているという事は、当該流通網は「メネが『ここほれ!チョコボ』を運営出来る程の規模」という条件を満たしているべきである。それを考えると、より厄介なのは後者の疑問の方だと思われるかもしれないが、そうではない。実はこちらの方は容易に答えが見えてくるのだ。
鍵はマジックヴァイスにある。バトル相手からアイテムを盗み、そして逃げるという行動を取る以上、「アイテムを盗む」事を目的として活動している事が明らかである彼等だが、では何故彼等は、冒険者があまり訪れる事もないであろうブルメシア城にいるのか。ここがポイントだ。彼等はわざわざ盗みの対象がいない地域に足を運んだ訳だが、その目的があくまでも「盗み」にある以上、そこで行う事は1つである。そう、彼等は、ブルメシアにあったお宝を盗んでいたのだ。
ゲーム中でジタン達が同地を訪れた時にはもう既に見る影も無いが、霧の大陸三国の内の一国として栄えたブルメシアの事である。そこには住人達の持っていた数々の物品から、国の家宝に当たる様な貴重なものまで、それは多岐に渡る、かつ膨大な数のお宝、アイテムがあった事だろう。恐らく彼等マジックヴァイス達は、このお宝の獲得を目当てにブルメシアへやって来たものと考えられるのだ。そしてそうとなれば、裏ルートにポーション、ハイポーション、エーテル、エリクサー以外のアイテムが流通していた事も納得がいくだろう。
ただそうであるからと言って、即「メネがブルメシアから流れたアイテムを手にしていた」と考えるのは尚早だ。実際、メネが「ここほれ!チョコボ」という商売を始めるに当たりブルメシアにあったお宝を利用していた可能性は極めて少ない。何故ならばメネがジタンと出会ったのは、プレイヤーがいつチョコボの森に立ち寄るかにも左右されるが最速ではブルメシアが黒魔道士集団に襲撃された翌日の事だからだ。もし、マジックヴァイス達によって盗まれたブルメシアのアイテムがその日の内に裏ルートへ流されたとしても、そしてそれらのアイテムがその日の内にメネの元へ渡っていたと考えても、更にそれらをたった一日で地中に埋めるのは不可能というものだろう。後々になってからの事は分からないが、少なくともメネとジタンが初めて会った日の時点においては、あの地中にブルメシアからの盗品は無いものと思われるのである。
だとすれば一体どういう事なのか。チョコボの森に埋まっている数々のアイテムは一体何なのか。一見問題が振り出しに戻ったかの様だが、そうではない。ここで改めてブルメシアへやって来たマジックヴァイスの行動を振り返る事で、答えは見えてくるのである。
ジタンがブルメシアへ到着したのは同地が襲撃されてから二日後の事だが、そこには既にマジックヴァイスの姿があった。考えてもみれば、これはかなり早い仕事と言える。ブルメシアが壊滅状態にあるという情報を聞き付けるや、すぐさま大量のマジックヴァイス達がそこへ乗り込み、迷う事無く金品強奪を始める。これ程の手際の良さは、およそ一朝一夕に成せるものではないだろう。即ち、彼等がモンスターという存在である事、そして彼等の組織規模がとてつもなく膨大なものである事を加味すれば、恐らく彼等は何百年も前から、もしかしたら霧の影響でガイアにモンスターが現れ始めた千年程も昔から、こういった盗賊活動を行っていたと考えられるのだ。霧の大陸では霧が発生して以降絶える事のなかった争いの中で、幾つもの小国が誕生しては滅ぶという事が繰り返されていたのだから、彼等はその度に滅んだ国からありったけの金品を強奪してきたのだろう。
つまり、ヴァイス達が調達したアイテムを流通させる裏ルートには今日、常に様々なアイテムが存在しており、メネはそれらアイテムを「ここほれ!チョコボ」の為に利用していたという訳だ。

では、前者の謎についてはどうだろうか。一切のリスク無しで、大量のアイテムを滅んだ国家から調達可能である事が既に明らかになった今となっては、彼等の弱さによって生じるアイテム調達の問題についてはもう無くなった様なものだが、ただ本当にそうならば、ヴァイスがリンドブルム嶺を徘徊している意味が無くなってしまう。およそ冒険者からアイテムを盗む見込みがないのだとしたら、彼等ヴァイス達もマジックヴァイスと同様ブルメシアまで行った方が幾らも効率が良いであろう。それなのに彼等が敢えてフィールドを拠点にしているのには、何か理由がある筈だ。
私はここで、ある事に気が付いた。先に、私はヴァイスについて「過去のFFでも同様のモンスターは存在していたので、何も気にせず戦っていた」と述べたが、これは実は間違っていた。これはヴァイスのみならずマジックヴァイスにも言える事なのだが、奴等には過去の盗賊系モンスターにはない、ある独自の特長を持っているのだ。
「盗んだものは取り返せない」がそれである。ヴァイス達に盗まれたアイテムは、その後まんまと逃げられてしまった場合は勿論の事、逃げられる前に倒せたとしても手元に戻って来る事はない。これは、盗みを目的とする者にとってみれば極めて大きな強みと言えるだろう。首尾良くアイテムを盗めたからと言って、倒されてしまっては何かと問題になりそうなものだが、奴等の組織力は我々の想像で補完出来るものでは到底ない。数勝負なら奴等の勝ちというものである。言わばアイテムを盗めたのなら、倒されてしまってもいいという事なのではないだろうか。
結局の所、その特長によりバトル相手からアイテムを盗める確率が格段に高まったとは言え、わざわざフィールド上を徘徊して冒険者を襲っていても「盗む」で得られるアイテムはポーションのみなのであり、質的に言えばマジックヴァイスと共にブルメシアで強奪活動をしていた方が明らかに上なのだが、これについては、恐らく他アイテムに比べてポーションの需要が高いという事ではないかと考えられる。最も気軽に傷を癒す事が出来るアイテムである事から、闇の世界に生きる者達の間では何かと要りようだという事の様だ。

以上により、どうやらヴァイス、マジックヴァイス達の活動によって、少なからずメネが「ここほれ!チョコボ」を運営するだけのアイテムを収集するのは可能な事の様であり、裏ルートは確かに存在する様だ。これにて、ようやく冒頭の「メネは『ここほれ!チョコボ』を如何にして、『商売』として成立させているのか」という謎が解けるに至った。
しかし、ここにおいて新たに1つの疑問が浮上する。裏ルートの存在は明らかとなった。その裏ルートを介し、メネが「ここほれ!チョコボ」運営の為に数多くのアイテムをほぼ無料に近い値段で入手していた事も分かった。ただそうとなると次の疑問は、裏ルートへ流すアイテムの調達人、ヴァイス達へ向けられる事となる。
彼等が調達するアイテムはことごとく盗品である事から、幾らそれが貴重品であろうともその調達にかかる費用は確かに発生しない。ただ、だからと言ってそれを無料に近い値で取引していて、彼等に如何程の収益があるのだろう。先に述べている通り彼等の組織規模は我々の想像に及ぶものではない。それだけ多くの人員がいるにも拘らず殆ど利益の出ない活動をしていて、メネじゃないが「商売あがったり」という事にはならないのだろうか。彼等にだって彼等なりの生活があるのではないのだろうか。
そもそも、ポーション等の一般的アイテムを破格の値で取引している点はまだしも、一般には流通していない希少なアイテムまでそれと同レベルの扱いをしている事が疑問だ。一般に扱われていないアイテムをも手に入れられる事が裏ルートの一番の特長であるのだから、本来ならヴァイス達はそれら希少アイテムを高値で取引したっていい筈なのだ。なのに、メネはそういったアイテムまでも格安の値で手に入れている。それは一体何故なのだろう。
ここで、1つの仮説が立つ。ヴァイス達の調達したアイテム全てが格安で取引されていては彼等の生活が成り立たなくなる事は明らかなので、恐らく彼等は本来なら、希少なアイテムをその様な値段で売ってはいないのだろう。だとすれば、メネが彼等にとって特別なのではないか。メネとヴァイス達は単なる取引相手なのではなく、互いにもっと深く関わり合っているのではないか。
実は、メネがヴァイス達にとって特別な存在たる所以はある。ヴァイス達が冒険者からアイテムを盗むに当たって、メネの存在が必要不可欠だったと考えられるのだ。
無論、実際に冒険者からアイテムを盗むのはヴァイス達の役目であり、普通に「盗み」という行為に出る限りにおいて、メネの存在は何ら重要なものではない。ただ、思い出して欲しい。ヴァイス達の行う強奪行為には、決して「普通」でない、ある特長があった事を。奴等に盗まれたアイテムは、逃げられる前に奴等を倒しても手元に戻って来ないという事を。そもそも、何故この様な現象が起こるのか、それは疑問に思うべき点であり、そしてこここそに、メネが必要な存在として介入していたのである。

かなり不可解である様に見えるこの現象だが、ここは一つ単純に考えてみてはどうか。「盗まれたアイテムは、奴等を倒す時点において奴等の手元にはもう無かった」と。ただ、ゲーム画面を見る限りでは奴等が何らかの細工をしている様には見受けられない事から、そのアイテムは第三者によって回収されていると考えるのが妥当だ。
「何を馬鹿な」 貴方はそう思うかもしれない。そんな事が起こり得る筈はないと。しかし、そこで登場するのがメネだ。私は唯一メネならば、不可能かと思われたそれを可能とし得るのではないかと考えている。
それは何故か。その理由は、メネが発した次のセリフに見え隠れしている。

そろそろ見つけそうな気がしてこっそりついてきたクポ!

これはジタン達が初めてチョコボの桃源郷を訪れた時、ジタン達に気付かれない様に後を追ってきたメネが、ジタンの「メネ!? いつのまに!!」という言葉を受けて言ったものであるが、ここで考えたい。果たしてそんな事が、そんな偶然が、そんな奇跡が起こり得るだろうか。しれっと喋ってはいたが、言ってしまえばそれは尾行である。否、本当に重要なのはメネがジタン達を尾行していたという点ではなく、「ジタン達に気付かれず尾行していた」という点だ。チョコボの桃源郷の場所をそれまで知らなかったジタン達はまだ見ぬ地を求めて少なからず迷走したと思われる訳だが、その最中常時ジタン達に姿を見せない様に動いていたメネの行為には怪しさが付きまとう。何も必ずしも隠密に行動しなければならなかった訳ではなく、見付かったなら見付かったで共に桃源郷の場所を探せばよかったのだから。
メネについての不審点はそれだけではない。これは多くの人が疑問に思った事だと思われるが、「ここほれ!チョコボ」をプレイ出来る、チョコボの森、チョコボの入り江、チョコボの桃源郷の3地点には、そのいずれにもメネの姿が見て取れるのである。どんなタイミングで、どの場所へ訪れようとも、必ずやジタン達より先にその場所へ到着しているメネ。この事実は、メネが実は桃源郷発見時のみならず、常にジタン達の事を尾行していた事を示すものだが、ここからは更に重要な次の事実を窺い知る事が出来る。

「メネは極めて高スピードで飛行が可能」

桃源郷を探すジタン達を尾行する事は、気付かれない為のテクニックが必要であるとは言え、そのテクニックさえあれば後は特に問題ではなかった。何故ならば、あの時のジタン達の移動手段は空チョコボによるものであったからだ。しかし、常に尾行するとなると話は違う。特にシナリオが進むに連れ、移動には飛空挺が用いられる事が多くなってくるからである。その尾行にどれだけの飛行能力が必要か、最早それは説明するまでもないだろう。厳密には尾行でなく、ジタン達が向かう目的地へ先回りしていなければならず、なおかつ「気付かれない様に」との事なのだから、難度は更に激増する事になる。そしてメネは、実際にそれを現実のものとしているのだ。
これだけの卓越した飛行能力を持つメネならば、もしかしたら「ヴァイス達の盗んだアイテムを、ジタン達に気付かれない内に回収する」事も可能なのではないだろうか。何しろ彼の飛行スピードは、人類の英知を結集して製造された飛空挺をも上回るのだから。返して言えば、メネのみがそんな現実離れした行為を可能とするからこそ、彼がヴァイス達にとって特別な存在たり得たという訳だ。

ただ、この考えをして疑問が完全に晴れる訳ではない。これまでに何度か述べた通り、これだけの措置を取っておきながら、彼等の得られるアイテムはポーションのみである。幾らポーションが他のアイテムに比べて需要があるらしいとは言っても、わざわざヴァイス達が、種族すら違うメネに依頼してまでそれを盗む必要性はあるのだろうか?
たかがポーション如きの為に、という至極もっともなものとして浮上する1つの疑問。そしてここにおいて、

「メネはヴァイス達にとって一般客とは違う特別扱いの存在」
「モーグリという別種族のメネに依頼する程の事であるかどうかは疑問」

この2つの考えが出揃った時、遂に私はこの考えに辿り着く事となった。

「メネこそが、ヴァイス達を率いているのでは」

そうなのである。裏ルートを形成するヴァイス達に、メネが単なる客として接触しているのではなく、メネ自身が、何らかの意図によりヴァイス達を動かし、盗賊行為を行わせているのではないか、そう考えられるのである。そしてもしそうであるならば、メネにとってあらゆるアイテムの調達費用は完全に0となる為、アイテム調達に関する疑問は余す所無く解ける事となろう。
単に裏のアイテム流通ルートと関わりを持っていただけではなく、実は多数のヴァイスを擁する盗賊団を影で操っていたメネ。いよいよ、ゲーム中からは全く見て取れなかった、メネの黒い顔が露呈してきた様だ。


以上が、「メネは『ここほれ!チョコボ』を如何にして、『商売』として成立させているのか」 の謎に対する答えである。
ただし、私はこれで話を終わらせてはならないと思っている。メネが、ヴァイス達を動かして多数のアイテムを得、それを「ここほれ!チョコボ」運営に利用してた事が明らかになった事で、別の疑問が浮上する事になったからだ。
別の疑問。それこそ、「メネの目的とは何なのか」である。前述の通り、彼は「ここほれ!チョコボ」運営に関し「生活がかかっている」等の多分に商売を意識した発言をしている事から、単純に金儲けの為だと考える人もいるかもしれないが、それは恐らく違う。何故なら、幾らアイテム調達費が0ギルであろうとも、それらアイテムを1分間60ギルぽっちの対価でプレイヤーの物とするのが破格の安値である事に変わりはないからだ。本当にメネが金儲けを目的としてこんな事を続けているのであれば、これ程までに要領の悪いやり方はない。この様な手段を取るのであれば、それこそ裏のアイテム流通ルートを形成して誰かに売りさばいた方が圧倒的に高額のギルを得られるだろう。
この事実は誰が考えても自明な事であり、勿論メネも知る所にあった筈だ。にも拘らず「ここほれ!チョコボ」にこだわるメネ。その目的は、どうやらただの金儲けではない。

不可解な行動に出るメネの思惑とは何か。ここからはそれを語っていこう。


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