*「私はつくづく思うのである。DQシリーズに登場するモンスター達がゴールドを所持していてよかったなと。
DQシリーズと言えば、各地で売っている装備品の価格に対して全般的に収入が少ない傾向がある。特に終盤は単品で数万ゴールドにもなる商品がゴロゴロと出て来るというのに、戦闘による実入りはゴールデンスライムなどのお金に特化した面子でもない限り高々数百ゴールドがいい所。そうした装備をどうしても手に入れたい冒険者達は何日も何日もフィールドを歩き回っては金策に励まざるを得ないのである。
だが私はふと思ったのだ。これはある種の苦行に見えて、実はとても我々に都合のいいシステムになっているのだと。何故ならば、まずモンスターがお金を持っているという事実が奇異だ。持っていた所で使用する機会などないであろうゴールドをである。そのゴールドを、あまねく全てのモンスターが抱え込んでいる。これは今日ではまるで当たり前の事の様に認識されるが、本来は実に奇跡的な現象なのではと思うのだ。現実的に考えればモンスターが人間世界で流通している貨幣を持ち歩いている筈はないのだから。
彼等が何処からか手に入れたお金は、戦闘を介して戦利品として獲得する。この何と幸せな事か。この何と恵まれた事か。何となれば、考えてみてほしい。もし世界がもっと現実主義に満ちていて、モンスターがゴールドを持っている訳がなかったとしたら。

まず、主人公が今まで拠り所にしていた収入源の大半が消失する。これによる影響が実に甚大なものである事はお分かりだろう。モンスターからの収入が断たれただけで、彼等は新しい武器や防具どころかまともな生活を送るだけのお金を得る事すら困難になる。モンスター以外からの所得と言えば、そこらに落ちているタルの中や民家のタンスの中などから見つける数ゴールド程度のお金くらいなものだからだ。カジノで増やそうにも元手がない。当然、宿屋になんて泊まるだけの余裕もない。食事すら満足にとる事は叶わず、主人公(時に勇者だったりする)は仕方なく旅の道中にて出会う野生のモンスターを食べ、所によっては得体の知れないモンスターの肉に手を出さなくてはならなくなるのである。
しかしそんな生活、そうそう続けていられるものではない。何とかして金を稼がなければ。当座の生活費を得る為にという事であれば、モンスターを倒して手に入れるよりもずっと現実的な方法はある。冒険中に立ち寄る方々の町や村で短期的にアルバイトでもして、日銭を稼ぐのである。だが彼には、そうする事がとても困難であった。彼はとても無口で、滅多な事では他人とコミュニケーションを取ろうとしない人間だからだ。村なら勿論、町と言っても規模はさほど大きくないからそこでのアルバイトと言えばどうしても武器屋や防具屋の店員などしかない。しかし店員のあの元気溢れる掛け声や「買った武器は装備しないと」云々といった気遣いは主人公には無理だ。彼は「いらっしゃい」などの決まり決まった定型文を口に出す事すらしない。そのくせ「はい」と「いいえ」だけはやけにキッパリと口に出したりするが、到底それでは商売は成り立たないのである。何かが間違って面接を通り採用してもらったとしても間違いなく一日でクビ。彼が世間の現実に絶望するのもそう遠くない未来だろう。

貴方は知るべきである。ドラゴンクエストというゲームは、「モンスターがお金を落とす」という摩訶不思議な構造で成り立っている事を。
そして主人公は知るべきである。邪悪なる者が滅び、世界から魔物の姿が消えたその時こそ、貴方にとっての暗黒時代の訪れを示す合図なのだという事を。


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