「ガノンの塔でアグニムを倒した直後にオカリナを吹いたら鳥が飛んで来たのは何故か」
以前にこの謎を解き明かすに当たり私は、ある一つの疑問点にぶつかった。「己の心の中が外見に反映される闇の世界において、何故あの鳥は光の世界での姿のままであの場へ現れられたのか」
そして更に私は、この謎が件の鳥に限らず、アグニムにもそのまま当てはまるものである事に気付き、そしてこれを明らかにする事により、結果として「何故鳥が飛んで来たのか」という謎を解き明かすに至った(その辺りの詳細はかの鳥はここに羽ばたくを参照の事)。
しかしだ、これで終わってはいけない。まだ他にもいるからだ。「ムーンパールを持たないのに、光の世界と闇の世界で同じ姿をしている者達」が。
その者達は、この謎一つを取って見れば例の鳥やアグニムと同じ立場にいると言えるだろう。なのにも拘らず、鳥やアグニムに関してのみ考えを巡らせて後の者達を無視してしまってはやはりいけない。
そこで今回は、鳥、アグニム以外に存在した、「闇の世界でも光の世界と同じ姿で存在している者達」にスポットを当てたい。

まず最初は、一足早く疑問解決となった鳥やアグニムと程近い場所に存在する面々について述べよう。その者達は、アグニムと同様にガノンの塔でリンクがやって来るのを待っていた。いずれも光の世界で戦った以来の遭遇であり、それに感慨を覚えた人も少なくなかっただろう。そう、東の神殿のボス、デグアモス、砂漠の神殿のボス、ラモネーラ、そしてヘラの塔のボス、デグテールである。アグニムと並んで光の世界にボスとして存在した彼等は、確かにその姿のままガノンの塔に存在したのだ。
ガノンの塔に現れた彼等が、光の世界で戦ったものと同一の個体であるかどうかは分からない。しかし、彼等がマスターソードの封印を守るべくして「試練」的に各ダンジョンの最終関門として立ちはだかる事を考えると、デグアモス、ラモネーラ、デグテールという生物種が一般に存在しているとは考え難いのではないだろうか。マスターソードとは、このハイラルの地に危機が訪れた時のみに、尚且つ、勇気と力と知恵を兼ね備え持つ者しかその封印を解くべきではないのだから。その為の「試練」が一般にも見られる様な珍しくないものであれば、マスターソード封印解除の鍵となる三つの紋章はさして特別な意味を持たなくなり、また多くの人々がその封印を解き得る事になってしまうだろう。
しかし、そう考える事により新たに一つの疑問が浮上する。彼等は、マスターソードの封印を守る為に侵入者を攻撃していたのだ。だとすると、そんな彼等がガノンの塔にいた事自体が既に不思議なのである。別にガノンと何かしらの関わりを持っていた訳ではない彼等が何故ガノンの塔にいたのか、という事だ。
この疑問を解決する上でヒントとなるのが、やはり彼等と同じく光の世界のボスに位置していたアグニムの存在だろう。「かの鳥はここに羽ばたく」で述べた所によれば、アグニムは己の意思ではなく、ガノンに操られている事によって自分の意思を失っており、それが原因で闇の世界でもその姿が変わらなかった。これと同様の事が、彼等にも起こっていたのではと思われるのだ。
そもそも、光の世界でリンクと熾烈なる戦いを繰り広げ、それに敗れ去った時点で死んだ筈の彼等がガノンの塔に現れたという点を考えれば、一層その考えは説得力を帯びる事になろう。アグニムを光の世界と闇の世界との橋渡し役として良い様に利用していたガノンは、光の世界にいた紋章の守り手すら野望実現の為に利用していたのだ。そして、ガノンの塔に身を置かされたそんな彼等に当時「心」があった筈もない。だからこそ、彼等の姿はいつか見たそのままの形を留めていたのだ。
こうして考えてもみれば、ガノンの塔で展開された四度のボス戦は、その全てが望まれざる戦いだったという事になる。ここに、大盗賊ガノン・ドロフの卑劣さを垣間見る事が出来よう。

さて、ここまで話題にしてきたのは鳥、アグニム、光の世界のボス達と、いずれもシナリオ中で大きな役割を持った者達であった。しかし私はここで、ストーリーの流れ上絶対に重要視される事がないとある者の存在に触れなければならない。
「ハチ」である。草を切った時に時折現れるアレだ。木に体当たりした時大量に襲ってくる事もあるアレだ。黄金に輝くそれは商人に100ルピーで買い取ってもらえるアレだ。このハチもまた、闇の世界でも姿を変えない存在だったのである。
とは言うもののハチそのものは、闇の世界で姿を見る事はない。ハチが一匹たりとも闇の世界に迷い込まなかったという事か、ここでは判然としないが、それはともかくとしても、リンク自身がハチを闇の世界に連れて行く事でそれは確認出来るのである。奴等をビンに閉じ込めたまま闇の世界に足を踏み入れる事で。
普段は一心不乱にリンクを攻撃する奴等だが、虫取り網で捕獲し、ビンに入れておけば持ち歩く事が可能になる。勿論、その状態のままで闇の世界へ行く事も出来るのだが、実際に行ってみると、普く生物がその姿を己の心を映したものに変える筈の闇の世界で、ビンの中にいるハチだけは光の世界での姿を保ち続けているのだ。
ムーンパールを所持している可能性が万に一つもない奴等が、闇の世界でも「ハチ」のままであり、更にその身を解放する事によりその姿のままでの行動も可能にし得る理由とは何なのだろうか。
闇の世界でも光の世界での姿を保てている原因として、「心」があるか無いか、つまり自我があるか無いかという点が重要だという事はこれまでの流れより明らかである。そこで、普段の奴等に自我があったかどうかを考えてみよう。
普段の奴等の、「住処を脅かした者に対する攻撃」を見るに、一見する限りでは奴等は己の意思で普通に行動している様に映る。しかし疑問が無い訳ではない。あまりに一心不乱過ぎやしないだろうか。
例えば、ハチの巣があるのであろう木にダッシュして体当たりを仕掛けると、巣から大量のハチが飛び出して来て、一斉にリンクへ向かい攻撃を開始するのだが、その動きはあまりに統率が取れ過ぎている様に感じられるのだ。巣から飛び出した大量のハチの全てが、一匹残らず敵を見据えて攻撃する等という事が、現実において考えられるだろうか。個々のハチについて考えてもそうである。奴等は攻撃対象が目に入っている限り、際限無く攻撃を繰り返すのである。相手が逃げるか、或いは死ぬまで。それはリンクがビンの中から放ったハチとて例外ではない。彼等もまた、その目に敵が映る限りにおいては、攻撃の手を休める事がないのだ。
この事を考えると、このハチ達が正常でないのは明らかな様だ。そして、何故正常でないかとなれば、やはりそこにガノンの呪いがあったから、これに他ならないだろう。例え単身であったとしても、リンクのみならず厚い鎧にその身をまとうハイラル城兵士ですら瞬く間に倒してしまうのだから、その凶暴化、凶悪化の原因にガノンの影響があったとする事は最早疑い様のない事実なのである。
だとするなら、このハチが闇の世界で姿を変えなかった事は納得がいく。高々虫取り網で捕獲しただけの事で、ガノンのかけた強い呪いが解けよう筈もあるまい。彼等もやはりガノンによって自我を奪われてしまっていたのだ。
ちなみに、虫取り網での捕獲後、ビンから解放した時には攻撃対象をリンク以外の敵へと変更する点についてだが、この辺りに高レベルの意思を持つ「人」という種との違いが表れている様だ。事実奴等は住処に危害を加えない限りリンクにすら襲ってくる事はなく、その点から「リンクを攻撃せよ」という命令は殆ど伝わっておらず、単に凶暴化していただけだったと見て取れる。

さてだ、ビンの中に入れておく事で闇の世界に連れて行けるハチの話を述べたのなら、同じくビン詰め可能な「彼女達」の事を忘れる訳にはいかない。もっとも、彼女達については何もビン詰めにしていなければ闇の世界で光の世界と姿が変わらない光景を目にする事が出来ない訳では全くもってないが。
そう、幾度となくリンクのライフを回復してくれた「妖精」達だ。ライフを完全回復してくれる大きな妖精を含め、確かに彼女達は闇の世界でも変わらない姿で、変わらない恩恵を与えてくれている。どんな時もリンクの力となってくれる時点でガノンの呪いの影響を受けているとは言えないであろう彼女達がそうでいられたのは何故だったのだろうか。
私は思うのだ。もしかしたら、彼女達こそ「心の内が外見そのもの」という存在なのではないのだろうかと。この世界を救わんとして動く者―リンクに無条件で助力となり、あの狭いビンの中に入れられて尚一切の文句をも言おうとしない程に健気な彼女達は、その内面もまた、外見と同じ美しさに満ちているのではないか、だからこそ闇の世界においてさえその姿は変化しないのではないか、ただただリンクの力となり、ただただ「妖精」として生きる彼女達を見ていると、そう思うに十分なのである。


では最後に、「何故闇の世界でも姿が変わらないのか」という論点からは逸れる事になるが、本来あるべき姿からは著しくかけ離れてしまった「ピラミッド内の女神」について述べておこう。
ご存知の方も多いだろう、この女神の絶望を。当人の為にも深くは触れない事とするが、有り体に言えば「太め」なのである。本人はその事について「ガノンの魔力のせい」との弁明をしているが、そこの所はどうなのだろうか。
そもそも「ガノンの魔力」云々以前に、闇の世界にいる事によって姿が変わってしまっているのではないのかと考えられるのだが、それは女神が妖精と同様の存在である事を考えると少々疑問が残る。ただし勿論、あの女神の心の内があんなだったからこそ、その心が外見に反映されたとも考えられるだろう。
では本人の言う「ガノンの魔力」という点はどう考えられるか。もしこれが事実だとしたら、あの女神には一切の非が無かったという事になるが、その線は薄いと言わざるを得ない。何故ならば、「ガノンの魔力」による影響が実際にあったと考えても、果たしてそこにどんな意味があったのか、その理解に苦しめられるからだ。ただ女神を肥満化させる事に如何なるメリットがあるのだろうか? 己の弱点である「銀の矢」を入手させない為の措置だと考えられなくはないが、事の重要性と比較するとそれはあまりにも抑止力の働かない措置なのである。数多くの兵士や生物を操る程の力を持つガノンが、ただ単に女神を肥満にさせる事は考えられないのだ。
結論としてこの女神は、「元々肥満だった」か、もしくは「外見こそ肥満ではなかったが、心がやや純粋ではなかった」か、そのどちらかだったという事になる。
真実がこのどちらなのか、それは残念だが分からない。しかし「ガノンの魔力」というありもしない事実を取り上げ、必死に自分の名誉を取り繕う辺り、少なからず心の内面には「女神」に似つかわしくないものを持っている様だ。
あの時ピラミッドの中で見たその光景は、果たしてその心が反映されただけのものだったのか、或いはその外見もまた「女神」に似つかわしくないものであったのか。貴方はどう考えるだろうか。


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