第12回 気になる

気になる。
気になるのである。
プラボカの町で聞いた話を基にエルフの村へとやって来た光の戦士一行は、今この界隈ではエルフの王子が悪しきダークエルフの王アストスの呪いによって眠らされており、このままだとそのダークエルフの暗黒の力によって支配される危機に直面している、といった感じの概要を把握するその一方で、ある事がどうしても気になって仕方ないのであった。
エルフの村の村外れ、そこにひっそりと建つ三つの墓。その、向かって一番左の墓に、

リンク ここにねむる。

と書かれているのを目にしてからというもの、彼等はその事が頭から離れなくなってしまったのだ。
リンクとは? それは一体誰の事なのか? 今自分が思っている事が間違いでなければ、もしかしてそれはあの「ゼルダの伝説」で有名なリンクの事を言っているんじゃないのだろうか?
そう言われれば、周りのエルフ達は何となくリンクっぽく見えなくはない。だが、その名が任天堂でない社の作品中に登場するという意味とは? そのリンクが既に死んでしまっているという意味とは? 考えれば考える程に気になってしまうのだが、幾ら気にかけてみた所で答えなんて出る筈もなく、結局その疑問は晴らされぬまま胸の内にしまわれる事になるのである。

だが、人という生物の知的好奇心は偉大だ。どんなに胸の内にしまい込んでみたって気になるものはやっぱり気になる。あまり気にし過ぎるばかりに、彼等はここへとやって来た当初の目的をも忘れ、何から何まで手に付かなくなってしまうのであった。
所はエルフ城、王の部屋にて。今もって呪いに苛まれ続けているという王子の様子をうかがいに来てみれば当の王子はやけに安息感溢れる調子で眠っており、それを見ると別にこのまま眠り続けてたっていいんじゃねーかと突っ込んでみたくもなったものだが、それよりもその時は墓の事が気になってそんな事はどうでもよかった。
廃墟同然の西の城では「クラウンさえあればこの城も元通りになる」とか言う怪しいの一言に尽きる自称王様と出会ったが、取り敢えずそんな事よりも気になるのは例の墓の事であった。
クラウンの為に沼の洞窟を探索する最中にも考えるのは墓の事ばかり。
無事クラウンを入手し、西の城の自称王様に渡した時にはアストスがその正体を現したが、頭の隅で墓の事を考えていたせいか驚くにも驚けなかった。むしろアストスが正体を現したときに「だいじなもの」入手時のファンファーレが鳴った事の方にこそ少し突っ込みたくなったものだが、それすらもしなかった。あれやこれやと悩むばかりにアストス戦で全然身が入らなかったのは言うまでもない。
エルフの城の宝物のみならずマトーヤから「水晶の目」も奪っていたアストスからそれを取り返し、マトーヤの下へ返しに行った時は、無事目が見える様になったのだからもっと感謝されても良さそうな所を(目覚めの薬こそ貰えたにせよ)随分邪険に扱われたものだけれど、そんなのも勿論不問である。
ちなみに、エルフの王子が無事目覚めてからは周りが「これで妖精界にも平和が…」とか何とか騒いでいた様な気もするが、その時点の彼等にとってエルフが助かるか滅びるかなんてのは正直どちらでも構わなくなっていた事は皆には内緒だよ。

そうだ、目下の問題はエルフ達とアストスとの些細な争い等ではなく墓であり、リンクなのだ。ゲーム会社としてはまだ無名のスクウェアが、当時既にゲーム業界王手であった任天堂の一人気キャラクターを勝手に殺してしまうなんて事があっていいのだろうか。そんな事を言い始めたら、「ゼルダの伝説」の続編「リンクの冒険」に存在する、これまた某人気作品からのものではないかと思しき「勇者ロトの墓」だってかなりな問題になりそうだが。
いや、今本当に問題なのはリンク殺しがどうのという事ではなく、「ここはいわゆる所のハイラル地方なのか?」という事の方である。もしそうなのだとすれば、村にはリンクがいたのだから城にはゼルダも…? 考えてもみれば、城には王子はいたが王や王女の姿は見られなかったし、王子の兄弟関係に当たる者もいない様であった。よもや、リンクのみならずゼルダ姫すらも既に「亡き者」となっているという事なのか……しかし、まさかここがハイラルであるなんて事が現実にあり得る事だろうか。記憶の中にあるどんなハイラルの風景とも結び付かないここが。
否、ここがハイラルで、私達がハイラル地方へやって来たのではなく、「リンクが別世界へとやって来ていた」とするなら。つまりリンクが、何らかの理由によって、まるでこの世界が「夢を見る島」であるかの様に呼び寄せられてしまったのだと考えるとするなら辻褄は合うのではないか? いや待て、もしそうだとするとリンクはハイラルにおいてはある時期から行方不明扱いになっているという事になる。だが実際の「あちらの世界」においてそんな話は聞いた事はないし、そんな記録も耳にした事はない。だとすればこれもまた間違いだ。
となると、いや、にわかには信じ難い事だが…ここはハイラルで、それもリンクやゼルダの亡き、「ゼルダの伝説」から言えば相当の未来に当たるハイラルで、つまり俺達は大海原を行く内に、いつしか任天堂の世界へと迷い込んでいたという事に…? よもや、「夢を見る島」に辿り着いていたのは俺達の方だった……?

こうなったら、思い切って村の誰か、何だったら今しがた恩を売ったばかりの王子に事の真実を問いただそうかとは考えた。
だがしかし、権利関係のデリケートな問題を思えばこの世界で「リンク」という名を口に出す事がおいそれと許されたものなのかどうかも分からず、結局謎は謎のまま、戦士達はあまりに納得の行かない思いを抱くまま、旅を続けて行かざるを得ないのであった。


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