第13回 自爆

そう言えばエルフの国の王子様、目が覚めた後も寝ている様に見えたけど…あ、なるほど、気にするな、と。元々目の細いお方だったんだ、と。あ、そう。

さて、一行は困り始めていた。海賊ビッケの好意で船を頂戴し、アルディの海を巡って旅をしていたはいいのだが、しかしこのアルディの海、実は内洋なのである。つまり、海とは言えその大部分が陸地によって囲まれているのであり、一応川らしきものでもって外洋と接してはいるものの今乗っているこの船で外海へと漕ぎ出す事が出来ないのである。この船も元々の持ち主だった海賊に似たか、肝心な時に役立たずだよなあ、本当に。
仕方がないのでこの間エルフ王子から授かった「神秘の鍵」を片手に、記憶を辿ってこれまで見た、その神秘の鍵によって封じられている扉を片っ端から開いて、中にあったお宝というお宝を手当たり次第に我が物とした。コーネリア城でいつか聞いた話によれば、これらお宝を神秘の鍵で封じたのが400年前とかいう話だったから、今のこの逼迫した事態を解決する手段となり得る物がもしやあったりするのではと期待してもみたものだが、まさかそんな都合の良い何処ぞのRPGみたいな話がある筈もなく、手に入ったのはこれと言って特別な力があるでもない武器や防具や、はたまた今後の冒険の大きな足しになるでもないギルばかり。唯一物珍しい所では「ニトロの火薬」なんつー物騒な物がコーネリアにあったけど、武器として使えるのかなと思いきやそういう訳でもなさそうだしね。
いよいよ詰みか。途方に暮れかけたその時、ふと、エルフの城で誰かが言っていたこんな話を思い出した。

アルディの海の西の端の洞窟には
ドワーフ達が住んでいるんだ。
あいつら良い奴ばかりだよ!

今「良い奴」に会った所で、それでどうなる訳でもなかろうけど、じゃあ何処へ行くんだと言われても返す言葉のない現実。一行は西へと向かった。
だがしかし、ドワーフの洞窟に着いた一行を待ち受けていたのは、やはりと言うか何と言うか、はっきり言ってしまえば彼等にとってはどうでもいい事やどうでもいい物の数々であった。現地にいたドワーフ達の言葉を幾つか例に挙げてみよう。

ラリホーっと!

挨拶だけか。それ人間の言葉に訳したら「こんにちは」とかしか言ってないって事じゃないか。せめて「ここはドワーフの洞窟だ」位の事を付け加えたらどうだ。この世界の常識からすれば他人行儀にも程がある。

ドワーフは暗闇でも見えるんだぞ!

そうか。だがそれがどうした。洞窟の中にいても明かりなしで十分だって事を言いたいのか。でもそれだったら、沼の洞窟とかを明かりなしで探索した「ただの人間の」一行と変わらんわな。自慢っぽく言ってるけど、実は人間とそんなに変わらない視力なんじゃねーか?

水晶の目があれば目が見えなくても
物を見る事が出来るんだよ。
ダークエルフのアストスが、魔女のマトーヤから
盗み取ったらしいよ。

それ、もう終わった。

腕輪は鎧の代わりになるんだ。
身を守る事が出来るんだよ。

知ってるよ。

洞窟の奥の方にはこれまた神秘の鍵で閉ざされた扉もあったが、中身はと言えば「ミスリルナイフ」に「ミスリルメイル」、「コテージ」「テント」にギル幾許…代わり映えもない顔触れ。
結局目新しい情報もなく、来てみただけ損だったか…失意の中洞窟を去ろうとする戦士達。だがその時彼等の前に、一人のドワーフが救世主となって現れる。

後一歩の所で岩が邪魔しとる。
このままじゃ運河が掘れん。
ニトロの火薬さえあればなあ……

男の名はネリク。多くのドワーフから慕われる、この集落の長老的存在。このご老人が、運河を掘る為に「ニトロの火薬」を欲していると言う。
何と言うRPG特有のご都合主義「ニトロの火薬」があれば運河が開通する。運河が開通すれば、船で外洋へ出て行ける。何故にドワーフ達が運河を必要としているのかはよく分からないが、利害は一致した。元より何の役にも立ちそうになかったそれを手放す事も、微塵の惜しさすら感じない。戦士達は、快く「ニトロの火薬」をネリク爺さんに譲った。

おおっ! 感謝するぞ若者達、
これこそニトロの火薬じゃ。
これで運河が出来るぞ。
さあ、仕事に出かけるか!

よほど嬉しかったか、消える様にその場を後にしたネリク爺さん。運河は文字通りあっと言う間に完成した。流石はネリク爺さん、仕事が速い。
運河は通った。これで外洋へ漕ぎ出せる。しかし、いざ旅立とうとする一行は、その前に一言だけでもネリク爺さんへ感謝の言葉を伝えようとした時、その違和感に気付いた。洞窟内に、ネリク爺さんの姿がない。とっくに仕事を終えた筈のネリク爺さんが帰って来ない。今日初めて会ったドワーフ族の個体差をただ見るだけで判別する事はまだ出来ないが、それぞれのドワーフの言葉からして今洞窟内にいる内のいずれもネリク爺さんなのではない事は明らかであった。
そして彼等は気付く。仕事へ出かけたのを最後に忽然と姿を消したネリク爺さん。これまで全く手出しの出来なかった岩をも爆破する強力な火薬。年齢が年齢だけに全盛期の面影すら今はないであろう体力。危険極まりない作業。はたまた洞窟から現場までの移動中に現れるモンスター…

ネリク爺さん、己の命に代えてまで運河を掘った貴方の心意気、私はずっと忘れない。


第12回 「気になる」へ  第14回 「怪物は夜現る」へ  戻る  トップページへ


ラシックス