第14回 怪物は夜現る

かくして、舞台は外洋へと移った。一時は旅の続行を断念しなければならなくなるかもしれないという所まで追い詰められていただけあってか、一人の勇敢なドワーフによって開かれた運河を渡る時の一行の表情は一様に晴れやかであった。
が、そんな和やかな雰囲気も数日とせずして終わろうとは、この時の誰が予見していただろう。いよいよもって本番を迎えようかという旅を前に自然と結束を固めた四人の戦士は、間もなく内部分裂の危機に陥る事となるのである。
一体彼等に何があったのか。その一部始終を以下に書き記す。

一行が次の町、運河を越えて間もなく見えるメルモンドの町へ立ち寄った時、彼等は思わず息を呑んだ。凄惨なその光景に目を覆わずにはいられなかった。腐り切った大地。絶望する人々。これまでに見た何処の町よりも悲惨な状況に、瞬間、町へ踏み入る事をためらってしまった程だ。
一体この町に何が起こっているのか。話を聞いてみれば、町人達は口々に言う。

ああ……この町はバンパイアに
襲われているんだ。教会も壊れ、
町はボロボロだよ!

大地が腐ってきている。
アースの洞窟に住むバンパイアの仕業だ。
あいつが土の力を遮っているんだ。
頼む! 退治してくれ!!

一行が現状を把握するのに時間は要さなかった。この町の南方にあるアースの洞窟に棲み付いているというバンパイアが一帯の土の力をせき止め、その影響で大地が腐っていっているのだ。そこに追い討ちをかける様にしたバンパイア自身の町への襲撃。当然、コーネリア城の様に軍備が整っている訳でない一介の町に抵抗する術があった筈もなく、大打撃を被った町は今壊滅の危機に立たされる事となったのだ。
更にここで、彼等自身がその手に持っていながらこれまでその存在意義が驚く程不明であったクリスタルについて興味深い話を耳にする。

もし土のクリスタルに輝きが
戻れば、きっとまた大地に命が
宿るでしょう。

クリスタルに光が戻れば、大地の荒廃が止まる。話を総合すると、鍵になるのはやはりバンパイアという事になろう。つまり奴を倒せば、クリスタルが再び輝き出す。そうすれば、自分達がクリスタルを持っているその意味や、クリスタルという存在そのものの意味を知る事が出来るかもしれない。そしてそれは、大地の復活とバンパイアの撃滅という二つの意味で直接的にメルモンド崩壊の危機を取り去る事をも指す。
正直、面倒臭いしスルーしたかったが彼等は立ち上がった。バンパイアを倒す為に。
その矢先であった。黒魔術師が「そう言えば」と、港町プラボカで出会ったメルモンドから逃げて来たという老人の話を思い出したのは。

わしは西の彼方、メルモンドの町から
逃げてきたのじゃ……あの町は悲惨じゃ。
大地は腐り、夜になると怪物が
襲ってくる……何とかしてやってくれ!!

黒魔術師はこの老人の話を引き合いに出し、そして言った。「今になって思えば、あの老人が言っていた『怪物』というのがバンパイアだったのだろう。だとすればどうだ、このままこの町で宿を取って夜を待てば、バンパイアの奴が自分から出て来てくれるんじゃないのか?」
敢えて彼は「わざわざ南の洞窟まで足を運ばなくても」とまで言いはしなかったが、その提案に「洞窟まで行くの面倒臭いし」というニュアンスが含まれている事は明白であった。が、考えてもみれば、自分達が洞窟に行っている間に町へ現れられてもかなわない訳だから、黒魔術師の提案は理に適っているとも言える。彼等はその日の冒険を早めに切り上げ、来るべきバンパイアとの対決に備える事にした。
して、宿屋へ。

いらっしゃい!
ここにとまると
セーブしまーす
いいかしら?

「はい」

100ギルだよ
いいかな?
どうかな?

「はい」

おやすみー!
…………
…………
………!

チャーラーラーラーチャーラーラーラーチャーーラーーーラーーーー


またきてくださいね!

………あれ?
おかしい。あの老人の話では、夜になればバンパイアが襲ってくる筈だったのに。
「現れなかったな」 戦士が言った。「そりゃ、現れない日もあるだろうさ」 黒魔術師が返した。
陽はまだ登ったばかり。今日は昨日とは違って、その気になれば夜の訪れるまでにアースの洞窟の奥まで潜る事も十分可能だっただろう。だが、彼等はその日一日何をするでもなく町に留まり続け、二晩連続となる宿へ泊まった。何でって、わざわざ洞窟まで行(以下自主規制)
して、宿屋。

いらっしゃい!
ここにとまると
セーブしまーす
いいかしら?

「はい」

100ギルだよ
いいかな?
どうかな?

「はいはい」

おやすみー!
…………
…………
………!

チャーラーラーラーチャーラーラーラーチャーーラーーーラーーーー


またきてくださいね!

………あれあれあれ?
またしても、現れず。バンパイアどころか、ただのモンスターも現れやがらない。
「また現れなかったな」 昨日より幾分か嫌味を込めて戦士が言った。「そりゃ、現れない日はあるだろうさ」 昨日より幾分か早く、黒魔術師が返した。
勿論この日だってその気になればバンパイア退治に出掛けられた筈である中、勿論彼等は町を一歩たりとも出ようとしなかった。何故なら(略)

いらっしゃい!
ここにとまると
セーブしまーす
いいかしら?

100ギルだよ
いいかな?
どうかな?

おやすみー!
…………
…………
………!

………………………………

結局、何日待ってみてもバンパイアは現れなかった。その間、初めに「待つべきだ」言い切った手前引くに引けなくなった黒魔術師とバンパイアが現れなかった事をその度ネチネチと攻める戦士との関係は日が過ぎるに連れ目に見えて悪化、次第にパーティー内全体には険悪な空気が流れていったのだった。そんな空気は終いには彼等を、宿屋の人がチェックインの度にいちいち聞いてくる「100ギルだよ。いいかな? どうかな?」の一言に対してすら「お前俺を馬鹿にしてんのか」と突っ掛かりたくなるまでに変えた。苛立っていたのだ、一向に出て来ようとしないバンパイアにもそうだが、それ以上に見も知らぬ老人の「夜になると怪物が現れる」という言葉を鵜呑みにした自分自身や、明らかに無駄に舞っていく手元のギルに。修行に明け暮れるでもなく、ただただ日々を無為に過ごす己の姿に。
時間とお金だけを失うだけ失い、結局彼等はアースの洞窟へとわざわざ出向かなければならない事となった。戦士が言う。「こんな事だったらメルモンドに着いたその日にでもすぐに出発すれば良かったのにな」 黒魔術師は黒魔術師で、そんな戦士の嫌味に反応もせず、プラボカの老人に対して「あの老いぼれ、ガセなんて吹き込みやがって」等と毒突いている。モンクと白魔術師はと言えば、いつまで経ってもいがみ合う二人に呆れたか、最早フォローしようとする素振りもない。バンパイア討伐を前にして、既にパーティーは内部分裂を起こそうとしていたのだった。

彼等パーティーを襲った未曾有の危機。固く結束を誓い合った筈の四人の絆は、今にも壊れそうになっていた。
そしてその絆は、この後まるで追い討ちをかける様に起こったとある事件によって、遂に崩壊するのである。


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