第6回 浄霊

コーネリア城を後にする前に、彼等には一箇所立ち寄っておきたい場所があった。
恐らくは、時代の移ろい行く中にあって不可避な他国との小さないざこざから大きな争い、領地外に絶えず現れ続けるモンスター、そして勿論、どう見紛おうとも暴君ではあり得ないあのコーネリア王統治国家下における処刑、そういったものを原因としない、あまりに謎でそしてあまりに悲劇的な死を遂げた姿無き亡霊の所へ。
「王女様が探していた」 ただただその事だけを誰とも構わず呟き続ける哀れな地縛霊。無論、セーラ王女をガーランドから救出した事が直接彼女の悲しみを癒す事には繋がらない。だが、そのセーラ王女自身の言葉を聞かせてあげる事が出来るのなら、王女が「もう見付かったのだ」と、「もういいんだ」という事を彼女に伝えられるのだとしたら或いは…
彼女がどうして死の運命を辿ったのか、彼等には知る由もない。推し測ろうにも、魔物一匹出ない城内のしかも周囲に危険物も無さそうな一画で人一人を死に至らしめるだけの何が起こったのかなんて、想像出来ようもなかった。
それは単に心の蔵が麻痺したか何か、彼女の身体的不良が引き起こしたものであるのかもしれなかった。ここで確率論を述べるのなら、誰もが口を揃えてその可能性について言及し、そしてその真実性を説くのだろう。
しかし仮にそうであったとて、それから幾らの時を経たものか。その間ずっと、成仏もせず、いやもしかしたらそれすらあたわぬのかもしれない中で懸命に王女の命に背くまいとするその思念。それを思えば、死の原因等どうでもいい事だった。傍目には湧き上がる感情を見て取る事が出来なくとも、彼等は内心で慄然していた。
だったら、一分でも、一秒でも早く助け出してやるべきだ。自然と気持ちは急く。だがその想いとは裏腹に、身体は全く急ごうとしてくれなかった。
それもそうだ。彼等は躊躇しているのだ、彼女を助ける事なんて本当に出来るのか? もし助けられなかったとしたら…?
そもそもが部外者である彼等にとって、しかも城の誰一人すら触れようとしないこの件について出来る事はと言えば何かしら推論を立ててそれを実行してみる位なものである。ただ原因が謎であるだけに、彼等に与えられた想像の余地はほぼ無いに等しかった。幾ら光の戦士と言えど浄霊のスペシャリストなんぞこの中にはいない。白魔術士の覚えられる魔法の中にはディアなる対アンデッド用攻撃魔法もあるにはあるが、これは戦闘中にのみ詠唱する事が可能なものだ。自分達に対して敵意を剥き出しにしない存在に対して行使出来るものではない。結局、彼女の亡霊に対して彼等が思い当たった解決策は、セーラ王女に引き合わせてみるというただそれだけだったのだ。
つまり、それですら彼女を成仏させてあげられないとなれば、最早彼等に打つ手立ては無くなるという事になる。亡者の悲しみ――ただ一つの事を単純に繰り返すからこそ余計に肥大して感じられる――に触れながらにして、それを彼等は見捨てなければならなくなるのだ。
だからこそ、四人は躊躇していた。失敗に終わる可能性が濃いのなら、失敗の末に見捨てるのも今黙って城を出て行くのも同じ事。むしろ下手に行動に出る事で亡霊の話が国中に広まり、ちょっとした混乱を引き起こしてしまうかもしれない。だとしたら、もう何も無かった事にして城を後にした方が――
だが、彼等は霊の下へと赴いた。ここで何もせず見放しては旅の間中ずっと、悔悟の念と共に彼女の声が頭の中に木霊しそうだったから。
今、セーラ王女を連れて来るよ。遂に決意した彼等は、その固い意思とは相反するかの如くに優しく柔らかい眼差しで彼女に語りかけた。
すると。

貴方がたが光の戦士……?
あのクリスタルの伝説の?!

瞬間、そこにいる四人全員が我が耳を疑った。これまで、当の王女が誘拐されている最中ですら怨念であるかに「王女様が探していた」と繰り返すばかりだった彼女が突如として、目の前にいる光の戦士達に、明らかにはっきりとした意思を持って語りかけてきたのだ。
どういう事だ。ただでさえ疑問符の連続で整理出来なかった事象がいよいよ混乱の極みを迎えようとしていた。
確かにこいつは今まで王女の命令にとらわれていた。いや、とらわれていたと思っていた。だが、実際こんな自由な発言が出来るんなら、別に何らかの想いに縛られているとか、そういう事情がある訳じゃないという事なのか…?
困惑の中、もう一度話しかけてみる。

貴方がたが光の戦士……?
あのクリスタルの伝説の?!

その言葉を聞き終わるや否や、戦士達は薄っすら笑った表情をその顔に貼り付けて、足早に城を去った。無言であった。


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