さて、次はメネとチョコとの出会いについてとなるが、ここで一つ、チョコを含めてFF9におけるチョコボという種について考えてみなければならない事がある。

「メネΩ」では、デブチョコボが、チョコにもしもの事があったら、という事をモグタローに頼んでいたとあった(本当ならここで「モグタローがチョコの事を見守りつつヘルプの仕事をどうやってこなしていたのか」という謎が浮上するところなのだが、前回当時は全く気付いていなかった。ちなみにこの謎についてはモグタローが召喚獣だという事で解決済み)。では、そもそもデブチョコボがモグタローにチョコの事を頼んだのは何故なのだろうか?
少し考えて、私はこう思った。もしかしたらモグタローは、デブチョコボが関わりを持つ唯一の「桃源郷外部の人物」だったのではないだろうか。あの閉ざされた空間の事である、来客なんてもっての外であろうし。
ではデブチョコボはどの様にしてモグタローと出会ったのか。それは簡単な事だ。デブチョコボか、もしくは周囲のチョコボ達が何らかのヘルプを参照した時に出会ったのだ。

ここで少し話が逸れるが、モグタローが単身で「チョコボでないと入れない筈の」チョコボの桃源郷に足を踏み入れられているという事は、その間の移動は「瞬間移動」という特殊能力で行われている可能性が増してくるかもしれない。ただし彼には実体が無い事が判明したので「実際に移動している説」も生きてはいるのだが。

さて話は戻って、よくよく考えるとここで疑問が発生する。何故デブチョコボは、わざわざ「桃源郷外部の人物」にチョコの事を任せたのだろうか?折角桃源郷にはチョコボがあれだけいるのに、中には「外の世界に出てみたい」と言っている者すらいるのに。普通に考えれば、チョコの事をチョコボに頼めるのならば、わざわざモーグリに、強調して言うなれば「メネの件で明らかな様に桃源郷に住まう事を頑なに拒絶する」モーグリという種族に頼む事は無いのではないだろうか。
なのにデブチョコボはチョコの事をモーグリのモグタローに頼んだ。これは、勿論デブチョコボがモグタローの事を心底信用していたからとも言えるかもしれないが、それ以前に、「彼等は基本的に外へ出て行く事は無い」という事を示しているのではないか。つまり、「外部と接触を断っている」のではないだろうか。
そう、以前の妄想にあったが、FF9のチョコボという種は総じて「人見知り」なのである。ゲーム中で普通に姿を見る事が殆ど無い位なのだから、桃源郷にいるチョコボ達が「外部と接触を断つ」事を目的としてあそこにいると考えてもおかしくはない。
では、どうして彼等はあんなにも頑なになってしまったのだろうか。FF9の世界がFF3の世界と何らかの繋がりを持っている事はゲーム中のあるイベントより明らかだが、そのFF3の事を思い返すと、当時のチョコボ達は普通に人間に接していた筈である。少なくとも見た目普通の一人間に見える主人公達とは何事も無く付き合っていたのだ、確かに。
FF9-FF3間ではかなりの時間が空いていると思われるので、その間にチョコボの性格が大きく変わった、と考えられなくはないかもしれないものの、その他の、特にこれと言ってFF9と繋がりの無いシリーズの事も考えれば、やはりあのチョコボ達の引き篭もり具合は普通ではないのである。
一体何故そうなったのか。

それに当たっては、チョコを除いて、チョコボをゲーム中で見る事の出来る数少ない機会の一つであるダリでの事を考えてみよう。
ゲームにおいてジタン達がダリの村に辿り着いた時、そのダリでは、黒魔道士生産が盛んに行われていたが、流れ作業で進んでいく一連のそれの動力となっていたのはチョコボであった。
チョコボという種は人間を、時には複数乗せて悠々と、しかも長時間走り回れる程に体力面で優れている事が以前から特徴として恐らくよく知られていたであろう事から、ダリでチョコボが動力役として働いていたのはごく普通の事だろう。
大事なのは、恐らくそれが理由で、以前はかなりの数のチョコボがこういった労働を任せられていたと思われる点である。
では、もし彼等チョコボ達が、その現状を芳しく思っていなかったとするならどうだろうか?
繋がりのある無しにかかわらず他シリーズのチョコボの事を考えてみると、例えばFF10では連絡船の動力として『シン』に襲われる危険すらはらんでいるのに健気にも動力として日々走っている。それどころか、より危険性が高く、実際作戦中に甚大な被害を被ったであろう騎兵隊の足としても活躍しているのだ。しかし、FF10での彼等はまだ「必要性」の点で重要な位置にいるのでいいかもしれない。片やFF7ではどうだろうか。あの世界でのチョコボは、ただひとえに人間という愚かな生物の娯楽の為だけに走っているのだ。GPを荒稼ぎしたいだけのチョコボ頭に毎日こき使われているのだ。まあそれに関しては、レーサーとして大成しさえすれば生活は優遇されるかもしれない。しかし人間とは傲慢なもので、たかがレースデビューから数回だけであろうが良い結果が出せなかったものなら、すぐにでも野生へ放り出されてしまうのである。元々野生のチョコボであるならまだしも、一人前に走るまで野生とは比べ物にならない程温い生活を散々送らせておいて、である。
そんな状況にあってさえ健気に人間に従事し続けている彼等である為、FF9のみにおいて突然反旗を翻すとは普通であれば考えにくいが、しかし、FF9には「霧」という重要な要素がある事を忘れてはならない。
そう、「霧」である。生命の根幹である魂がむき出しにされている事で、あらゆる生物を本能的にさせるその「霧」は、例外無くチョコボにも影響をもたらしたのだ。これまで好き勝手に、自分達の都合の為だけにこき使ってきた人間に対して密かに蓄積され続けてきた鬱憤が爆発したのである。
鬱憤が爆発したのが人間であったならば、他国に対して戦争を仕掛けたりと、暴力的な行動に出ているであろう。実際ガイアの歴史においては、幾度も小国が発生しては滅んでいる。しかしそれがチョコボならどうだろうか。走る事にかける体力では人間の比ではないであろうが、残念ながら人間を相手取って十分に戦える力を持っているとは言えない。
そんな彼等が人間に対して出来た反抗とは何だろうか。もしかしたらそれが、現状からの脱却、つまり現在の生活からの逃亡だったのではないだろうか。秘密裏に情報を交換し合った上で同時多発的に逃げ出したのか、或いは徐々にその流れが大陸全体に伝わっていつしか大陸からその姿が消えたのか、それがどうかは分からないが、人間の下からいなくなる事で、反発の念を表したのではないかと思われるのである。
しかし、それだけで人間に対して深く根付いた恨みつらみが晴れよう筈もない。やはり人間にこれまでの報いを受けさせてこそ、初めて本懐は遂げられるものなのだ。
しかし、ろくに戦闘能力に長けた個体のいない現状において、今すぐに報復しようとしたところで返り討ちに遭う事になるのは明らかである。だからと言ってチョコボだけで固まって生活しているのでは、人間に見つかるのは時間の問題であろう。そこで彼等は、人間に対して十分に対抗出来る策を講じる為に、また、その間人間の目から離れる為に、霧の大陸を離れて独自の集落を持ったと考えられる。そう、後にチョコボの桃源郷と呼ばれる事となるあの地である。
そしてここが重要となる。チョコボ達は桃源郷に籠もってから、如何にして人間に対して報復出来るか、その手段を考えていた訳だが、その中で、とある召喚獣の伝承を生み出したのではないかと考えられるのだ。勿論、チョコボ達が最初から伝承と召喚獣の関連性を知っていたとは少々考え難いので、恐らくその伝承は、人間に比べて非力な彼等が「こうあって欲しい」という希望の下、教訓の様な感じで語られていたのだと思われるが。
では、その召喚獣とは一体誰の事か。そこで名が挙がって来るのがデブチョコボなのだ。
やはりデブチョコボとは特異極まりない存在だという事は誰しもが認める事実であろう。それにFF9のデブチョコボには、ある特定の者、しかも複数に渡る者達の夢に現われるという能力を持っているのだ。更に、ギルガメッシュという存在を考えるに、時間的に近めかと考えられるFF5の世界においてデブチョコボは召喚獣として登場している。これらより、FF9のあのデブチョコボは、桃源郷に逃げて来たチョコボ達の望みが生み出した召喚獣だったのでは、と考えて十分に足りるのである。
さて、ここで問題になるのは、デブチョコボの戦闘における実力は如何程のものか、という事になる訳だが、残念ながらその詳細を知る事は出来ない。が、全く推測出来得ない訳ではないのだ。
チョコボの桃源郷には、その体色から考えて、通常のチョコボや、川チョコボを始めとして、様々な種類のチョコボがいたと考えられ、中には空チョコボもいたと思われる。となれば、その空チョコボは空中庭園へ行った経験があると考えられるだろう。或いは、単なる普通の人間であったと見受けられるシド1世すら空中庭園に訪れている事から、別に空チョコボでなかろうが同地に辿り着けた可能性はあるだろう。
それはともかく、空中庭園に行った事があるならば、当然オズマの事に関しても知っていた筈だ。もしかしたら初めてオズマを発見したチョコボは、不用意に近付いてしまったばかりに奴の犠牲になったのかもしれない。勿論その犠牲に関する真偽の程は確かではないが、少なくともオズマの存在を知っていたのであれば、チョコボ達の間で語られる伝承は自然とオズマを超える、もしかすれば遥かに凌駕する様な実力を持つ存在になっていった筈だろう。
この点を考えると、デブチョコボは少なくともオズマを単独で倒せる実力を持っているであろう事が分かる。又、オズマに勝るという事は恐らくHPの値は軽く10000を超えていると思われる事から、前に指摘した通り、モグオはともかくとしてもメネの大敵となる可能性も十分に秘めているという事が言えるのだ。

では、これらのチョコボの背景を踏まえ、話を戻そう。メネとチョコとの出会いについてである。
「メネΩ」においてこれは、メネとチョコ間での意思疎通が可能である事、そしてモーグリという種に対する先入観から、二人はそれ程時間をかける事無く打ち解けた、とあったが、これについては別の考え方が出来るだろう。
「人見知り」だと思われていたのが実は「人間に従事する毎日からの脱却に伴う桃源郷への引き篭もり」だったのだから、彼等チョコボが避けているのは人間からのみだった訳だ。なので、一見モーグリであるメネと打ち解けるのは、メネの方から必要以上に友好的に接しようとしていた以上当然の話だったのである。
さて、「メネΩ」にある通り、二人はそれから森で生活する事になるのだが、ここで一つの考えが浮上する。
チョコを含めチョコボが人間を憎んでいるのであれば、以前にメネとモグオが意気投合した様にして、メネとチョコが目的を同じくする可能性をはらんでいるのではないだろうか、というものだ。もしもそれが現実のものとなるとすれば、この時点でまだメネの知る所に無い、大敵化する可能性のあるデブチョコボを味方に引き入れられ、より一層計画完遂が確固たるものとしてはっきりと見えてくる様になろう。そんな事になれば、「メネΩ」で示されていた人間達に残されているかもしれない未来への二つの可能性の内、一つが消滅する事となり、一層絶望感が増してきてしまう。
しかし、ここで朗報であるが、恐らくそうなる事はないだろう。つまり、メネ、モグオの二人と、デブチョコボを擁しているチョコボ達とが強固な同盟を結ぶ事は恐らく無い。
何故か。一つ言える事としては、まずメネは「近年になって、テラの人々が語り継いだ事により生まれた、凶悪極まりない召喚獣」である。対して、ガイアに霧が送り込まれ始めたのは約1000年前の話。それから今に至るまでの果たして何時、チョコボ達が大脱走を図ったのかは具体的には不明であるが、ゲーム中で人々から「チョコボがいなくなった」とか「昔はチョコボがいたのに」とかいう話を聞く事は無い為、ある程度、少なからず「チョコボのいない生活」が人々に普通として浸透する程度は昔の話であると言える。
これより、メネはチョコボ達のその様な背景を知る由も無かったのだ。つまり、メネにとってみればチョコは、正真正銘単なる普通のはぐれてしまった間抜けなチョコボに過ぎないのである。そして、メネとモグタローが仲間となり得るかどうかの部分でも触れた事だが、味方同士の関係を持つという事は、最終的には自分が盗賊団の一員、しかもボスである事を告げなければならないというリスクを負うという事なので、慎重なメネはその様な行動には出ないと考えられる。
だからこそ、メネとチョコ、延いてはメネとチョコボ達の間に同盟が結ばれる事はあり得ないのである。
もしも同盟が結ばれていたなら、最早計画を遂行するに当たって立ち塞がる大きな壁はほぼ無くなったも同然であったのに、そのチャンスを逃し、展開によっては自身を大きく脅かす事になりかねないデブチョコボを味方に出来なかった事は、後々の展開に非常に大きな影響を与えたと考えられ、かなり興味深い点であろう。


さて、チョコと出会ったメネは程無くしてチョコが例の能力を持っている事を知り、人間の乗り手を獲得する為に「ここほれ!チョコボ」計画を練り上げる。そして計画の準備段階において森に埋まっている石版を発見し、その石版がお宝の埋まっている位置を指し示している事を、更にデブチョコボがチョコの為に用意した石版を掘り返した事で桃源郷の存在を次々と知っていく事となる。
この段階、つまりチョコボの桃源郷の存在を知った段階でメネは、世界征服を成し遂げる為には生命体が集う集落を一つたりとも見逃しておく訳にはいかないという事で、埋まっていた残りの石版を次々と掘り出してはお宝を発見し、桃源郷の位置を特定していく。この部分について「メネΩ」では、チョコを進化させる為の石版が最初から入り江や空中庭園にある前提で話を進めていたのだが、その点に関して改めて考えてみなければならない事が判明した。

説明しよう。ゲーム中で実際にプレイ出来る「ここほれ!チョコボ」の事を思い出して戴ければ分かる事だが、途中にあったメネの助言が無かったとすれば、ジタン達が入り江の存在に気付く事は無かったであろう点を考えると、その入り江に、チョコが最終的に空チョコボへ進化する為の石版が埋められていたとは考え難い事である。ヒントが無ければジタン達がその存在に気付く事が無かったであろうという事は、チョコにとってもそうであると考えられるからだ。チョコボと人間との間にある確執を考えれば、人間にその姿を見られる事はあまりにも好ましくない為、精神的に強くなってもらう為に、との理由でガイアをあちらこちらと走り回らせる事もさせたりはしないだろう。つまり、少なくともチョコの為にデブチョコボが用意した石版は、元々は全て森にあったと考えられるのだ。
勿論それらの石版は、「ここほれ!チョコボ」計画に利用する事が決まった時点ではメネも森に全て埋め直せばいいと思っていた筈である。そして実際その様に動いたと思われるのだが、その作業の途中で「メネΩ」にもあった突然の思わぬ事態が発生した事により、入り江や、果ては空中庭園にまで石版を埋めざるを得なくなったのだ。

突然の思わぬ事態、つまりそれは、とある人物の森への来訪の事だ。
勿論その人物とはジタン…ではなく、言動こそ礼儀正しさを醸し出してはいるが小生意気よろしくて、な少女と、その少女を"姫さま"と呼ばわっていた動く甲冑、ではなくて武装さたくましい男の二人、つまりダガーとスタイナーの事である。
ここでどんなやり取りがあったのか、というのは最早考える必要も無いであろう。メネが気に入らなかっただけでなく、チョコが人間を憎んでいる事も明らかとなった今となっては尚更である。
さて、そうなってくると疑問が浮かんでくるのは明らかだろう。チョコがダガーとスタイナーの事を気に入らなかったのが憎悪感から来る当然のものだとすれば、ジタンの事は一転して気に入った理由が分からなくなってしまう。チョコが「ここほれ!チョコボ」計画に、メネの仲間として加担している状況であれば別だが、それはあり得ない事は既に述べた通りである。
では、何故チョコがジタンを気に入ったのか、それを考えてみよう。
考えられる事としては、二点挙げられる。そのどちらもどうやらジタンがテラの人間であった事が重要なポイントとなってくると思われるのだが、まずその一つは、チョコボが敵視している対象についての事である。即ち、チョコボが憎んでいるのが、直接こき使っていた「ガイアの人間」に限るものだという考えだ。ガイアには多種多様の亜人種も存在する為に、無論チョコボが見た目でその違いを判断出来たとは思えないのだが、動物である事による独特の優れた勘が、既に姿を消して久しい為に実際にこき使っていた訳ではなくともかつてそうしていた者達の遺伝子を受け継ぐガイアの民と、チョコボという存在すら知らない為に、「労働力」という偏見の念すら持たない者達と一応は同じ遺伝子を持つジタンとの雰囲気の違いを察したとすれば、又、その勘が憎悪によってより研ぎ澄まされていたとすれば、ジタンのみを特別扱いする事も十分に考えられるのである。
そしてもう一つは、既に気を許せる存在となっているメネが、チョコはそれを知らないとはいえテラの民の思念が生み出した召喚獣である為に、テラの民であるジタンに何処か共通したものを感じたから、というものである。


結果としてジタンを乗り手役として獲得した後は、ジタンの行動に合わせ、影で埋め逃してしまった石版を埋める作業に取り掛かる。それに伴い、詳細なジタン達の行動を把握する為にメネは尾行を開始。
そして、ジタン達が石版を掘り返すペースを見計らいつつ良きタイミングで入り江へ誘導。一転今度は森に石版を埋め……というこの一連の流れは、「メネΩ」にあった通りであろう。

その果てに、見事ジタン達とチョコは桃源郷へ辿り着く事となるが、ここではある二点について考える必要があるだろう。
一つは、召喚獣メネと、召喚獣デブチョコボとの初めての対面である。メネにとっては先々の非常に大きな壁であり、一方デブチョコボにとっては、デブチョコボ自身がメネの世界征服計画についてどの様な考えを持っていたかは分からないものの、メネはチョコボ達も制圧するべき対象の範疇としているのでやはり敵対関係と言える両者の出会いだ。
しかしここで重要な事は、デブチョコボの方は「メネΩ」にあった通りで、モグタローからの報告によりメネの計画を知る所にあったであろうが、メネに関しては、ここに至るまでの間にデブチョコボが将来自身の存在を脅かすものである事は勿論、召喚獣である事もまだ知っていない、という事である。
ではそのメネは、ゲーム中でも確認出来るデブチョコボとの出会いのシーンにおいて、相手の正体を見破れていたのだろうか。このまま計画が進むとすればいずれは敵として立ちはだかる事明らかなデブチョコボの正体をここで認識しておけるかどうかというのは、以後の計画の推移、或いは結末までをも大きく左右する重要な点であると言えよう。
結論としては、「夢を見せる」という特殊能力を自分の身でもって体感している上で、その聡明さを合わせて考えれば、デブチョコボが召喚獣であるという事はこの対面時において明らかになっていたと考えるのが妥当だろう。そしてもう一方は世界征服計画の存在を知っているデブチョコボである。ゲーム中で確認される二人の会話は、何の事も無い、ともすれば滑稽にも映りかねない光景だった訳だが、実は慎重にお互いの腹の内を探り合いつつのやり取りだったのだ。
しかしその会話の末にメネは、何度も言っているが将来大きな壁となるであろうデブチョコボに対し特に何の対処をするでもなく桃源郷を離れる事になる。それは何故だろうか。
理由は幾つか考えられる。一つは、デブチョコボが召喚獣である事は察していたが、その実力までは不明だった、というものだ。この時点においても依然メネは人間とチョコボとの確執を知らない為、まさかチョコボ達が戦闘向けの存在の伝承を語っていた等とは思わなかったという事である。
次に、デブチョコボの実力までをも知っていたかどうかは別として、もし単独で戦いを挑むとすれば危険を伴うかもしれなくても、モグオと共に、更にそれでも不足ならばオズマをも率いて戦えば、何ら問題ではないと判断したというもの。メネとモグオの二人だけではオズマには勝てなかったかもしれないという事を既に証明しているが、それはモグオの繰り出す物理攻撃がオズマには届かないであろう事から勝率がそれだけ下がっているだけであって、その点はデブチョコボが相手の場合勿論考慮しない為、オズマまで引き連れてくる必要は恐らく無く、又メネもそうと判断したであろう、という事だ。しかし、この考えには、メネの知る所に無いとある穴が存在しているのである。もしも今回の妄想の冒頭にある様な展開が起こったとしたら……そういう事である。
最後に考えられるのは、先と同様に実力をも知っていたかどうかは別として、ジタン達が傍にいる為に、今すぐに何らかの行動に出るのは得策ではない、と判断したというものだ。これは「メネΩ」でも語られていた。しかしこの判断も、もし冒頭のイベントが起こってしまったらと考えると、結果論にはなるが失敗だったと言わざるを得ないだろう。

ここに、何故メネがデブチョコボについて何の対処をする事もなくその場を後にしたかについて三つの理由を挙げたが、そのいずれについても「判断ミス」が付きまとっていると言える事が分かるだろう。
しかも相手が相手である。この判断ミスはもしかしたら戦局を大きく動かすものへと発展する可能性があるのではないだろうか。

そして、ジタン達が桃源郷に辿り着いた場面に関して考える必要のあるもう一点についてだが、これもまた非常に重要な要素たり得るのだ。
チョコが無事に桃源郷へ帰り着けた事は、デブチョコボのみならずそこにいた全てのチョコボ達にとって喜ばしい出来事だったのは確かだ。どうしてかやかましいモーグリが一匹付いて来てはしまったものの、まあそれはいいだろう。ジタンは、チョコが気に入ったという前例がある通りで、テラの人間である為にまだ何でも無いものだったのかもしれない。しかし、ジタンを除く他の人間達はどうなのだろうか。一応ビビ、クイナ、フライヤという、チョコボをこき使っていた人種とは違うパーティでもって訪れる事は出来、それならば問題は無いかもしれないが、そうでない場合はどうなるだろう。これまでで明らかになった背景を思えば、桃源郷に人間が突然訪れる事で非常に緊迫した、一触即発の雰囲気になってしまうと考えるのは易いのだが、しかし、ゲーム中で見る限りでは全く緊迫した様相を見出す事が出来ない。これは何故だろうか。
単に、チョコボ達が胸の内の憎悪を抑えて隠していただけかもしれないのだが、私はこれについて別の考えを持っているのでそれを述べよう。

そもそも、チョコボ達が人間達に憎悪感を募らせたのは何が切っ掛けだったか。勿論、人間が長きに亘ってチョコボ達を良いように利用していたというのが直接の原因ではあったが、不満が爆発した切っ掛けとなったのはそれではなく「霧」である。そう、「霧」が切っ掛けによって鬱積していた不満が爆発し、結果人間の下から逃げ出して桃源郷に引き籠もる事になった訳だ。
しかし考えてみよう。その桃源郷に「霧」は存在していないのである。となれば、本質は温厚なチョコボ達の事、霧とは無縁の生活を送るにつけ、爆発した鬱憤は徐々に収まっていったと考えられないだろうか。果たしてどの程度の期間をもって正常になっていったかは流石に推測し切れないが、デブチョコボが生み出された所をみると、少なくとも数年は霧の影響が残っていたらしい事が言えるだろう。
霧の影響を受けない地で生活する事により次第に冷静さを取り戻したチョコボ達。しかし、自分達の取ってしまった行動は極めて重大なものである。今更人間達の下へ戻っても、これまでと同じ生活が送れるとは限らない。もしかしたら相手は自分達をモンスターと同じ様な目で見、そういった扱いをするかもしれない。そう、最早彼等は戻るに戻れなかったのだ。
人間が自分達を労働力に、私利私欲の為にとこき使っていたのは事実なので、或いはその想いだけは子孫へと受け継いでいたかもしれない。しかし、長い時間を経て、いつしか直接こき使われたチョコボ達がいなくなるに連れ、そういった被害感情は薄まるというのが世の常である。普通であれば憎しみや妬みといった感情とは程遠い所にいるチョコボという種ならば尚更だ。つまり、既に今桃源郷にいるチョコボ達は、「人間への復讐」という指名に何ら意義を感じていなかったのである。だからこそ、桃源郷に人間の姿があっても、人間側がチョコボを敵視していなかった以上、険悪な雰囲気にはならなかった、なり得なかったのだ。
この事実、これはもしかしたら、後のFF5へ向けて人間とチョコボが完全に仲直りし、以前の関係を再構築する事の土台とも言えるのではないだろうか。後必要なのは切っ掛けだけである。そしてその切っ掛けは、両者に共通する敵の出現によって与えられるかもしれないのだ。
…ここに来て、何やら大きな流れが見えてきた様である。


その後の、メネがジタンをあわや持ち帰れなくなる所だった事や、世界に完全なる平和が訪れてしまった事で、メネの計画もいよいよ実行段階に迫ってきている事は「メネΩ」と共通である為、以上が、「テラの民起源説」の登場によって新たに明らかとなった事実となる。


ではここで、時間軸に沿ってこの一連の事態がどの様に推移していったのか、それをまとめようと思う。


800年代(約1000年前)
ガーランドがテラに霧を送り込み始める。
1400年代(約400年前)
人々の心が荒んで、争い事が多発。


チョコボ達が蜂起、桃源郷に隠れ住み始める。

チョコボ達、空中庭園を発見する。同時にオズマの存在も認知。

チョコボ達がデブチョコボを生み出す。
十数年〜数年前
テラの民の伝承によりメネ、モグオ、モグタロー(、モグジロー)がガイアで生み出される。
メネはとあるリンドブルム領近辺のモーグリの集落で生まれたか、もしくは同集落のモーグリ達に拾われ、そこで育てられる事に。

モグオがフィールド上セーブモーグリに抜擢。
モグタローがヘルプメニュー請負人に抜擢。

モグオがヴァイス・マジックヴァイス大盗賊団に入る。
モグタローがデブチョコボからチョコの事を頼まれる。

メネがリンドブルム領に捨てられる。
ヴァイス・マジックヴァイス大盗賊団、メネを拾う。

メネとモグオが出会う。

メネが盗賊団のボスに上り詰める。

メネ、アルテミシオンを買収し、お手紙を盗み見始める。

メネとチョコが出会う。
メネは付近にいるであろう(実際は存在しない)群れを探し始める。

メネ、チョコの特殊能力の存在を知り、チョコの特殊能力を用いた「ここほれ!チョコボ」計画を練り上げ、人間の乗り手獲得に向けて動き出す。

メネ、アイテムを埋めるべく森の地面を掘り返している途中で石版を発見。その石版がお宝の埋まっている位置を指し示している事を知る。

メネの行動を不審に思ったモグタローが、デブチョコボに報告をし始める。

メネがチョコを進化させる為のお宝を掘り出した事により桃源郷の存在を、更に程無くしてその桃源郷にはチョコボ無しでは立ち入る事が出来ない事を知る。
この時点で「ここほれ!チョコボ」計画を若干変更させ、人間の乗り手の獲得は二の次にし、桃源郷到達を第一目標とする。
計画の変更に伴い、多数のアイテムと共に石版も森へ埋め始める。
1800年1月20日
ダガーとスタイナーが森にやって来るが、乗り手となる事無く去る。
その後訪れたジタンの事をチョコが気に入り、メネの計画の乗り手役に抜擢される事に。
この日より、メネがジタン達の尾行を開始する。

ジタン達の行動の裏をかく様に盗賊団が石版を埋めていく。
時間に余裕が無い為に、空中庭園の地面の掘り起こしはオズマが担当。
1800年2月1日
ブラネ死亡。これまで緊迫していた霧の大陸の情勢がメネの思惑とは裏腹に一先ず沈静化の方向へ向かう事に。
1800年2月3日
アルテミシオンがうっかり口を滑らせ、計画が明るみに出そうになる。

メネ、チョコ、ジタン達が桃源郷へ到着する。
メネとデブチョコボの初対面。メネがデブチョコボの正体を知る。それについてメネは、取り敢えず現段階では保留にしておく事に。
1800年3月16日
ゲーム中のエンディングで見られるイーファの樹の暴走が収まる。

ジタンとダガーが再開(FF9終了)。

いよいよメネが計画実行を視野に入れる。


細かい部分や判断材料の無い部分に関しては、若干前後する可能性もあるが、大体はこの様な感じとなる筈である。
ただこれだと、メネが捨てられる前にモグオとモグタローがそれぞれフィールド上セーブモーグリとヘルプメニュー請負人に任命されていたという事になり(その辺りは非常に不確かなので事実関係が前後する可能性はあるのだがそうだとしても)、年齢面等で不思議に感じられてしまう。
つまりこれは、モグオとモグタローの二人に関しては、メネよりも数年程早くに生まれていた、という事を示しているのではないだろうか。だとすれば、二人が生まれてしばらくしてから大役に任命され、モグオが盗賊団入りし、モグタローがチョコの事を頼まれた後でメネが生まれ、そして捨てられた、という事になり、話は通るであろう。


第三章へ  第五章へ  戻る  トップページへ


ラシックス