まず私は、上記4つの謎以外に、ある点に疑問を持った。
「何故同時期に、凶悪なモーグリがあんなにも出現したのか」という点である。
異常を認められたのがメネのみであったなら、それは「突然変異」と説明すればよかった事だった。次いでそこにモグオが含められたが、それでもまだ「突然変異」と言っても問題無いと判断した。
しかし今回、そこに加えて更に一体、或いは二体のモーグリに異常が確認されたのだ。これでは流石に発生率が高過ぎるのではないだろうか。
霧の影響を受け、人間の間で戦乱が絶えなかったという歴史を持つ霧の大陸の事である。もしこんなにも突然変異、しかもあんな凶悪な種の発生率が高いとしたなら、大陸に霧が流入し始めてからの長い歴史の中で、とっくに文明が滅んでいたとしてもおかしくないのではないか。
しかし、記録を見る限りでは、文明がモーグリによって滅ぼされたという事実は確認出来ない。これは、メネを始めとする異常なモーグリ数体が、過去にも存在していた訳ではなく、現代になって突然発生した事を指しているのではないだろうか。
ただ、過去にもそんなモーグリがいたとして、その彼等は他のモーグリと変わらない平凡な一生を送ったに過ぎないのかもしれないとも考えられるかもしれない。
が、ここで私は今までの妄想を完全に覆しかねない全く別の仮説を立てる事となった。
「もしかしたらメネ、モグオ、モグタロー(、モグジロー)、これらのモーグリは、モーグリではないのでは」
あれだけ凶悪な生命体が同時期の、しかも霧の大陸という狭い範囲に少なくとも三体存在するのだ。もしかしたらこれは、突然変異によって偶発的に発生したものではなく、ある何者かの意思によって意図的に生み出されたものなのではないだろうか。
何故そう思うのか、その根拠は?
確かに「偶然にしてはおかしいから」というのも根拠の一つではあるのだが、実は私がそう思ったのにはそれとは別に理由がある。
まずは以下の文章を見て戴こう。
「召喚獣から伝承がうまれるのではなく
伝承から召喚獣がうまれるのであれば
伝承が人の想いからうまれるのであれば
新たな召喚獣の伝説を、我らが残そう
その召喚獣は人の友であり、人を守る」
「確認できたわけではないが
我らの知らぬ召喚獣が
いるのではないかと思われる
『エスト・ガザ』にて
目撃談があった
伝承にない召喚獣がいるのであれば
我らの説はくずれてしまう
あるいは、我らと異なる種が
いずこかの地にて、我らの知らぬ話を
語りついでいるのかもしれない」
これは、かつての召喚士達が召喚獣の発生についての考えを召喚壁に書いたものである。
さて、ここで彼等が言う「我らの知らぬ召喚獣」とは一体何を指しているのだろうか。これについてはこれ以上の説明がされていないので、これを初めて見た当時の私は少々事情が飲み込めていなかった。そこで少し考えてみる事に。
ゲーム中で確認出来る召喚獣は、プレイヤーが使用出来ないアレクサンダーを含めて十三種類存在する。
次に、初めてその文章を見た当時はおろか、今までろくに目を通そうともしてなかった「召喚壁に描かれている召喚獣達」を調べてみる事に。
一部憶測も含まれてしまうものの、おおよその外見、及びその場所に書かれている文章の内容から、恐らくあそこに描かれている召喚獣は、出入り口から時計回りに回って順にカーバンクル、バハムート、ラムウ、シヴァ、アレクサンダー、イフリート、リヴァイアサン、フェニックス、フェンリル、アトモス、となっていると思われる。
となると、あそこに描かれていないのは三体。列挙すると、オーディン、マディーン、アークの三体となる。
では、当時の召喚士達が認識していなかった召喚獣とは、この内の誰になるのか。
まずオーディンに関して言うと、ダガーが初期状態で使用する事が出来る(消費MPこそしばらくは通常の4倍ではあるが)ので、召喚士達がこぞってこの存在を知らなかったとは考えにくい。…となると、何故オーディンが召喚壁に描かれていないのか、という点が疑問にはなるものの。
続いてマディーン。この召喚獣のそもそもの発生源は、エーコ一人(とモーグリ数匹)を残して死に行く運命にあった召喚士一族達が、彼女の為にと残した新たな伝承である。彼等がマディーンの姿形を知る筈が無い以前に、「新たな伝承を残そう」のくだりは、「我らの知らぬ召喚獣がいるのではないか」のくだりよりも、文章から見て明らかに時期が後なので、やはりこれも除外されるだろう。
となると、残るはアークとなる。このアーク、ゲーム中のウイユヴェール内部で登場するモンスターと同名である事、また、同地でのイベントの内容からすると、テラ文明に存在していた飛空挺の一種である事が分かる。
つまり「アーク」とは、テラの人類がその存在を語り継いだ事によって像が具現化された
召喚獣だと思われるのだ。ならば、当時の召喚士一族がその存在を全く知らなかったのは当然の話となるだろう。
ここでポイントになるのは、「テラの人々の想いが召喚獣を生み出した」という点である。
次に、謎の召喚獣と言えばもう一体、オズマの名を忘れてはならない。
オズマが召喚獣であるかどうかは確実な情報こそないものの、ここは、オズマのいるあの空中庭園奥のスペースを調べた時にジタンが言った「召喚塚みたいだな…」のセリフから、そうであると考えて差し支えは無いと考えられる。
つまり、「オズマレベルの強力な召喚獣も存在する」事が言える事となる。
最後に、召喚士一族がエーコの為にと生み出した「マディーン」について。
召喚壁に書かれている文章を参照する限り、彼等が「人の友であり、人を守る」召喚獣の伝承を創り出した時点で、エーコは既に生まれているか、或いは近い将来誕生する事が分かっていたと考えられるだろう。そしてエーコは、何度聞いても、良く言えば驚愕や尊敬の念、悪く言えば疑いの念が少々付きまとってしまうが六歳である。
つまり、あらゆる可能性を考慮して「伝承を語り始めてから、『マディーン』が誕生するまで」の期間を長く見積もっても、七、八年くらいにしかならない筈である。
これより、「十年程度の短期間でも伝承から召喚獣は生まれ得る」事が示される。
「テラの人々の想いが召喚獣を生み出した」
「オズマレベルの強力な召喚獣も存在する」
「十年程度の短期間でも伝承から召喚獣は生まれ得る」
この三つの事から言える事は何か。私はこれらより、メネを始めとする三体、ないしは四体のモーグリは、「近年になって、テラの人々が語り継いだ事により生まれた、凶悪極まりない召喚獣」なのではないかと考えた。
もし彼等がただのモーグリなのではなく召喚獣であれば、尋常でないスピードを持っている事、類稀なる魔力を湛えている事、無尽蔵の体力を秘めている事、瞬間的に目的地へ移動出来る事…これら全てが現実にあり得るものへと一挙に発展する事となるのだ。
また、モーグリの姿をした召喚獣、返して言えば召喚獣がモーグリの姿をしている、という点については、ゲームをプレイした殆どの方がご存知の通り、「モグ」という例が存在しているので、それも問題にはならない。
また、モグタローが召喚獣であると考える事で、先程挙げた四つの謎の一つ「1.まだあるヘルプメニューの謎」の「何故異なる場所で同時に姿を現せるのか」が説明可能となる。召喚獣というものは実態を伴っていないので、そういう能力が備わっていてもおかしくはない、という事である。
「近年になって」の点については、前述の通り、現在までガイアの文明が無事に存続してきた事から明らか。
では「テラの人々が語り継いだ事により生まれた」というのはどうなのだろうか。確かにテラの人々はアークという召喚獣を生み出している前歴があるので、そうである可能性はある。しかし同時に、単にテラの人間でない他の種族が語り継いでいたから彼等が生まれた、と考える事も当然出来る事になるだろう。
しかし、私が考えるに、そういった別種によるものという可能性は、確かに存在するものの、その可能性の数としては非常に限られていると思われる。
何故か。それは「マディーン」についてもう一度考えてみると分かるのではないだろうか。召喚士一族が召喚壁に書いていた文章には、もし仮説が正しければこれから生まれてくる召喚獣は「人の友であり、人を守る」ものであるとあり、そして実際に、そういう召喚獣が生まれて来た。つまり、どういう思念を持った召喚獣であるか、という半ば具体的な部分まで、きちんと伝承に折り込んでおけば、それはそのまま具現化され得るのだ。
となると、例えばメネについて考えた時に、彼は伝承の段階で、結果としてあれだけの野望を策すに至る程に捻くれた性格を持っているものとされていたのだと考えられるのである。勿論誰の手にも負えなくなる危険性をはらむ力を備えている上で、だ。
大体元より、伝承から召喚獣が生まれる、という仕組みを知っていた人がまず少ないと思われるのに、その上で十分自身にも危険が迫ってきかねない様な召喚獣を生み出そうと考える者が果たしてそうそういるのだろうか、という事である。
その点、ガーランドを始めとするテラの人々は、ガイアに戦乱をもたらす事を目的として、ガイアの生命の魂「霧」を送り込んでいる位なので、メネやモグオの伝承を創り出したとしても不思議ではないだろう。
更にその場合、メネの体力面を始めとする「実力の偏り」の理由についても考える事が出来る。それに関してはまず「FF9 ULTIMANIA」の世界設定から以下の文章を引用しよう。
融合は、対象のクリスタルの循環を完全に奪ったときにはじめて完成する。それは、ガイアクリスタルの輝き(青)がテラクリスタルの輝き(赤)に変わることを意味している。
しかし、いまだテラ界はガイアの青い光につつまれており、ガーランドは、ガイアを一気に滅ぼすといった行動に移ることができないでいる。
徐々に流れを変えなければならないゆえ、ガーランドはクジャを生かした。
ガイアを乱すことをクジャにまかせ、良質なジェノムの生産に取り組んでいたガーランドは、あるとき、500年前と同様の高エネルギー反応を感知した。
上は、ガイアとテラ、二つの星の不完全な融合により、クリスタルによる魂の循環が二つ存在する様になったのだが、テラの循環はガイアのそれよりも優位に立てなかった事から、ガーランドがガイアの魂の循環をせき止める等してガイアの魂の消滅を図った事に関する文章である。
これによれば、確かにガーランドは当然ながらガイアの民を最終的に滅ぼす事を目論んではいるのだが、しかしクリスタルの輝きがまだ青い、つまりまだガイアの方の循環が根強い現時点では、一気に行動に移せない、とある。
そう、ガーランドが(ジタンをガイアに捨てた)クジャを生かしたままにし、それまでの様にガイアを乱させる事にしたのと、メネやモグオといった凶悪な召喚獣をガイアに誕生させる事は同じ意味を持ちながらにして、しかし一度に大量の命を奪ってしまってはならない為に、簡単にそうは出来ない様、メネ達召喚獣には小さくない「落ち度」を最初から付加させていたのではないだろうか。
メネはその魔法を用いれば、多数の生命を同時にターゲットとする事が出来るが、低い体力、即ちHPと、必要以上の冷静さという性格付けを設定しておけば、そう簡単に馬鹿な行動に出る事は無いであろう。
一方モグオは、メネと比べてしまえば短絡的だと言える(呼び出しては何もせずに帰す事を繰り返すとやがてはジタン達に唾を吐きかけるのもそう言える一つの原因であろう)為に、比較的すぐに暴れ出してしまう可能性はあるのだが、所詮彼が秀でているのは体力面に限った事である。つまり物理攻撃でいちいち対象に攻撃を仕掛ける事になる訳なので、例え行動に出たとしても、徐々に流れを変えるというガーランドの思惑に反するまでの事は出来なかっただろう。
逆に言えば、こういった「落ち度」を付加させる事の必要性は、ガーランド達テラの民以外には考えられないからこそ、メネ達はテラの民が生み出したものであると判断する事が出来たのである。
又、そんな落ち度を持つメネ達であっても、もし共に行動を起こすとなるとかなり大規模の被害を一度に生み出す危険性がある事から、恐らく彼等は完全に別々の存在として生み出された存在であると考えられる。
しかしだからと言って彼等同士を敵対関係だとしてしまっては、やはり大きな争いが巻き起こり、それに伴って甚大な被害をもたらしてしまう事は目に見えている為、敵味方を問わず特別な相関関係は織り込まず、独立した三つ(モグジローも召喚獣であると考えるとしても、彼はモグタローと兄弟である為に、一つの伝承から生まれたと考えるのが妥当)の伝承を語ったのだろう。本来なら望まれるものではないが、後々メネとモグオが意気投合し、仲間として行動する事になったのはこれが理由である。
更に同時に、モグタロー(及びモグジロー)は、必ずしもメネとモグオ側に付いている訳ではないという事も言える。
否、「必ずしも」ではなく、恐らくモグタローはメネ側に身を置く存在ではなかっただろう。何故ならば、そもそもメネとモグオが最終的に目的を同じくする様になったのは、まず腰を据えてゆっくりとお互いの実情について語り合う機会、接点があったからに他ならない訳だが、メネとモグタロー、及びモグオとモグタローのそれぞれ双方にはその「接点」が無かったと考えられるからだ。
上述した通り、この点は非常に重要な問題である。そこで、本題に入る前に何故そう考えられるのかを説明しておこう。
「接点」が無い、と書いたが、実際に全く出会う事の無いまま今に至った訳では勿論ない。相手はあの神出鬼没のヘルプメニュー請負人モグタローである。これまで全く出会わなかったとすればそちらの方が不自然極まりないだろう。
重要なのは当然の事ではあるが、お互いに意気投合出来る様な共通項があるかどうかである。
意気投合出来る様な共通項、それはメネとモグオの場合で言えば勿論「悲観すべき現状」の話であった。これに関してモグタローはどうだと言えるか。メネとは違い、ガイア中の多くの生物が彼の事を知っていて、尚且つ深く必要としてくれている事、加えて、モグタローは盗賊団の一味で無いが故に、出会う際はまず自分が盗賊団に身を置いている事を隠している状態で導入しなければならない事、つまり、意気投合した暁にはそれを明かす事になる訳だが、完全に信頼出来る仲間関係にならない限りそれはリスクを伴ってしまうので、「極端に慎重なメネ」は恐らくそう簡単には身分を明かそうとしない点を加味すると、どうやらモグタローと、メネ、モグオとの間に信頼関係が生まれる土壌は存在しないのだ。
これにより、モグタローはメネの味方ではないと言える事になるだろう。
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