前回私は、メネの性格がそれだけ捻くれるのには、誕生間も無く両親と離別しているからではないか、と述べた。それは恐らく間違いない。ただし、その委細は不明であった。そんな中今回私は、メネの持っていた魔力こそがその辺りの経緯に関わっていたのでは、と考えたのである。
まずFF9のモーグリは、戦闘能力が基本的には無い。そもそも戦意を持つ個体が圧倒的に少ないという事を、各地のモーグリの話やモグネットでやり取りされる手紙の内容から見て取れる。
さて、かように温厚なモーグリ一族に、生後間も無くにして早くも、誰の手にも負えない様な魔力を秘めた子が産まれてきたらどうなるだろう。ただでさえ最近は霧の影響がより強くなりモンスターが増加している事で、日常を逸脱する異常現象に対し神経質になっていたであろう中でのこの事件。それはもしかしたら周りの者達にとって、「悪魔の子」或いは「呪われた子」に見えてしまったのではないだろうか。
真相がどうであるかなんて分からない。原因すら不明なままだ。しかし、平和な日常を不用意に乱しかねない存在を、ただ見過ごしている事は彼等には出来なかった。そして彼等モーグリ達は、それがどんな意味を持つかを知る由もなく、その子を捨てる決断をする。
もしかしたらその行為こそが、霧による悪しき影響を受けての事だったのかもしれないが、捨てられた子供本人にとって、それがどうであるかなんて事は関係なかった。これが全ての始まりだったのだ。
「悪魔の子」が捨てられた場所、それこそが、盗賊ヴァイスの活動地帯である、霧の下のリンドブルム領だった。
捨てられてから間も無くして、その子はヴァイス大盗賊団に拾われ、「メネ」と名付けられて育てられる事となる。勿論、元々はヴァイス達としても、行く行くはどこかに売り飛ばすつもりか何かだった筈だ。しかし、それが誤算だった。事態は、彼等ヴァイス達が想像すらしなかった方向へと動いていく。
ヴァイス達がモーグリの子供を拾い、その子を育て始めてから幾許かの時が経ち、秘められたる魔力をコントロール出来る様になったメネは、その時ある野望を抱いたのだ。幼き日より盗賊達の中に身を置いていた事で増幅され、彼の心にあまりにも深く根付いた物欲や金銭欲。更には、本当なら幸せであった筈の将来を潰した両親やその周囲のモーグリへの、果ては幸福に浸る生きとし生ける全ての者に対しての憎悪と絶望。そして、何者をも圧倒する魔力という名の力。それらが相乗し、1つになった時、彼はこの世界そのものを、自身の絶対的な力によって征服する事を望んだのである。
世界を、このガイアを、恐怖と混沌で満たす。メネはこの時、はっきりと胸に誓っていたのだ。
以後、メネは少しずつ、しかし着実に自身の計画を進めていく事になるのだが、そのメネがまず最初に行った事。それはヴァイス大盗賊団のボスに上り詰める事だった。
その持ち前の魔力をもってすれば、はっきり言ってザコでしかないこの盗賊達のボスに君臨する事は簡単だ。しかし、最終目標が世界征服であるのならば、自らがこの盗賊団に身を置く事はあまりメリットとして働かないのではないかという疑問が生まれる。つまり、その力があれば単身ででも目標達成は可能なのではないのかと考えられるのに、何故わざわざ盗賊団ボスへの道を選択したのだろうか、という疑問が。
何故メネは、役立たず集団である当該盗賊団を牛耳ろうと考えたのか。これは後述する事になるが、実は彼はこの時、最終目的の達成には欠かせない、「世界中の情報を自動的に収集出来る状況」を作る為の準備として、多額の資金を必要としていたのである。そう、彼はヴァイス達が裏ルートへ流している貴重品の数々やそれによって得たのであろうギルに目を付けたのだ。勿論、多額の資金を得るだけならば今すぐにでも盗賊団を壊滅させてしまえば済む事ではあるが、敢えてそうせずボスという立場につく事で、絶大なる規模を誇るこの盗賊団そのものさえも利用しようと目論んだのである。
メネがヴァイス盗賊団のボスに上り詰めるなんて事は、決起すればそれこそ幾日もかかる様な大計画ではない。しかしメネは驚く程慎重に、ゆっくりと行動に出る。何故か。それはこの盗賊団を征服した後も、団員であるヴァイス達には色々と動いてもらわなくてはならなかったからだ。
考えてみれば何となく分かる事だろう。盗賊団にとってメネという存在はモーグリという種、即ち自分達とは異なる種族であり、そんな異種族が、元々は奴隷扱いだったそんな異種族が、もし力ずくでボスになったとしたら。そんな状況において、その後の団員の一致団結はあり得ない事である。幾らボスの力が強大だろうが、理不尽な征圧の元では誰かしらが反発し、反乱を起こしてしまうものなのだ。つまりメネは、自らが無理に団員をまとめ上げようとする事で結果的に盗賊団の力を分散させてしまうよりは、今ある兵力を最大限利用するべきだと考え、それ故にことの外慎重に動き出したのである。
メネは考えていた。「自分がこの盗賊団のボスとなっても、それまで築かれていた決め事を変えたりするべきではない」と。「目立って動いた所で得られるものなんてない、ただこいつらの反感を買うだけだ。そうじゃなく、敢えて動かない事で、こいつらとの不要なトラブルを最小限に抑えるべきだ」と。
実際、ボスに上り詰めた後にヴァイス達を利用出来ている辺り、やはりメネの人心掌握術は並外れている。もしかしたら、上記のメネの考えは、極めて多数の者達をまとめ上げるにしてはあまりに単純な考えじゃないだろうかと思われる人もいるかもしれないが、それは間違っていると言っておこう。何故なら、ヴァイス達はモンスターである分思考が単純であり、その分だけ複雑に考える必要性が無くなるからだ。また、無論メネもこの他に様々な案を練った事だろうし、大体にして、もし貴方が過去にチョコボの桃源郷へ足を踏み入れた事があるなら、貴方は知らず知らずの内にメネの企てた計画の一端を担っていたという事になるのだ。それをして、メネの考えが単純だとは言えよう筈がないというものだろう。
話を戻す。メネは「以前からあったルールを変えるべきではない」と思っており、恐らくその方針は彼がボスになってからも変わる事がなかっただろう。となると、ここで1つ疑問が浮上する。
それは、ヴァイス達の盗んだアイテム各種が、その次のターンで逃走される前に倒しても手元に戻って来ない理由についてである。これについて私は前回、彼等がアイテムを盗んだ直後に、その脅威的な飛行能力を持つメネが一瞬にしてそのアイテムを回収しているからああいう現象が起きるのだと述べた。だが「以前からのルールを変えない」というメネの方針からすれば、このシステムはメネがボスに君臨した後に取り決めたものではなく、彼が盗賊団に拾われる前から存在していたという事になる。
だとすると、メネがボスとなる以前には、誰か別に「アイテムを回収する」役目を担っていた者が存在していた事になるが、ではそれは一体誰なのだろう。あのメネの飛行能力に匹敵する能力を持つ者等、彼の他に存在し得るのだろうか。
結論から言うと、それは存在する。メネの飛行速度にも引けを取らない移動能力を持つ者は確かにいるのだ。それは一体誰か。思い出してほしい、あの広きフィールド上をいつも忙しそうに駆け回っていた者の事を。その名をモグオというモーグリの事を。フィールド上でジタンが「モーグリのたてぶえ」を吹くや否や、その2、3秒後にはジタンの下へ駆け付けるあのモーグリの事である。世界中、何処で笛を吹こうと必ずや一定時間内にやって来てくれるというあのモグオならば、団員が盗んだアイテムの数々を瞬時に回収する事は可能だと言えるのではないだろうか。
ただ、そうだと考えると新たな謎が表面化してしまう。モグオがヴァイス盗賊団入りしたのにはどんな理由があったのかという事についてだ。メネに関しては幼い頃に盗賊団に拾われている事が分かっているのでいいのだが、モグオの場合はどうやらそういう訳ではない。何故なら、モグオとメネとの間には決定的な相違点が2つ、存在しているからだ。
1つは、「モグオ」という名前にその他のモーグリと共通する特徴点があるという事、つまり「モグ」という文字列がその名に含まれているという事だ。これはモグオがメネとは違い、ヴァイス達に育てられた訳ではない事を意味している。そしてもう1つは、当然ながらメネが世界中のモーグリとは全く関わり合いを持っていない一方でモグオは、少なくとも魔の森に住んでいたモンティ(ジタン達に「モーグリのたてぶえ」をくれたモーグリ)が彼の存在を知っている事から、孤立はしていない事が見て取れる。これもまた、モグオが生まれてからずっと盗賊団内にいた訳ではない事を意味していると言えるだろう。
つまりモグオはいつの頃か、自らの意思で盗賊団に入った事になるのだ。戦いを好まない筈のモーグリが何故、と言った所だが、これについてはこの様に考える事が出来る。果たして彼に何が起こったのか、メネ同様幼少時の暮らしに何か影を落とす出来事があったのか、それは知れないものの、もし彼が、フィールド上を忙しく駆け回って冒険者達の手助けをしているという今の現状を実は喜ばしく思っていないのであったとしたら、あの仕事を実は嫌々ながらもやらざるを得ないのであるとしたら、彼が道を踏み外してしまった背景は見えて来るのではないだろうか。見た目にも過酷そうなそれを見れば、そう考える事も易いのではないだろうか。
事実、モグオはフィールド上のセーブモーグリという仕事をこなす中で内心随分と荒れている様だ。とは言っても、普段の振る舞い自体は至って友好的の一言に尽き、それを感じ取る事は出来ない。が、一度フィールド上で「『モーグリのたてぶえ』を吹いては、何もせずに帰す行為を立て続けに17回繰り返す」とそれは顕在化する。その時モグオは「いたずらに呼び過ぎクポッ、ぶふぇっ!」と、怒りを露わにするどころか恐らく唾を吐き捨てているであろう行動を取るのである。勿論ながらこの件に関する非は完全にこちら側にあるだろうが、基本的に温厚なモーグリが唾を吐く程の不快感を露にしている事を考えると、常日頃から何かしら思う所があってストレスを溜めていたのだと、そしてそれが原因で盗賊という悪事に手を染めてしまったのだと察する事は出来るだろう。
ここまでで、メネが盗賊団に身を置く事になる以前の「アイテム回収」を担当していたのはモグオだったという事実が明らかとなった。となると、メネは盗賊団内で育つ中においてモグオと出会っていた筈だが、ではその「盗賊団の一員として活動するモグオ」の事をメネはどう思っていたのだろうか。
もしかしたら、己と同種の存在であるモグオとて、彼にとって始めの内はその他大勢のヴァイス達と変わらない、「駒」の1つに過ぎなかったかもしれない。ヴァイス等とは違い、無尽蔵の体力を誇るという点で「特別」ではあれ。しかしモグオというモーグリに隠された背景を知るに連れ、彼にとってモグオは名実共に「特別」な存在となっていくのだ。
それもその筈である。モグオの背負っていたその背景は事情こそ自分と著しく異なれど、幸福に甘え、ただ平凡な日常を謳歌する者共を妬む想いは全く同じものだったのだから。生まれてこの方、いつだって孤独の中に生きる事を強制された彼にとって共通した想いを心に秘めるモグオは、いつしか今生で唯一気を許せる存在になっていたと言えるだろう。
また、それはモグオにとっても同じ事である。悠々と各地で暮らすモーグリ達と違い、自分は毎日が過酷な肉体労働の日々。確かにセーブモーグリという仕事に適任の人材は自分以外いないとは言え、願わずして、求めずして、祈らずして、乞わずして手に入れたその屈強な肉体を見る度、彼は燃やしていたのだ、その心の、その芯に、その奥深くに燃え滾りながらも、しかし暗く、黒く淀む憎しみと妬みの炎を。メネがモグオの事を気の許せる存在だと認めた若干後、メネの幼少期の事を知ったモグオが、メネと同じくして彼を唯一認められる存在として位置付ける事は、最早自然な事だったのである。
かくして思い掛けず同志を得る事になったメネはその後、持ち前の人心掌握術、そして魔力を遺憾なく発揮し、またモグオの力も借りてヴァイス盗賊団のボスに上り詰める事となる。生まれてから間も無くして、早々と全てを失ってしまった1匹のモーグリは、ここに極めて多くの「駒」という力を得たのだ。
そして野望は、次なる段階へと進んでいく。
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