メネ自身、「地中に埋まっているものを感知し、しかもそれを掘り当てられるチョコボ」という存在をこれまで目にした事は勿論なければ、耳にした事もやはりなかっただろう。もしかして世界で唯一かもしれない存在と出会えた事は、ある意味で彼にとって喜ばしい出来事だった。何せ後々は、自分こそが世界で唯一の存在となろうとしているのだ。その彼にとってチョコは、もし上手く利用する手立てがあるのだとすればこれ以上なき打って付けの存在だったと言える。
メネは考えた、この能力をどうにかして計画に結び付けられないか。「世界征服」と「穴掘り」という排反であるにも甚だしいこの2つの事象、如何なる謎かけも太刀打ちするには及ばないであろう難問に真っ向からぶつかった。
その果てに彼は、行き着いたのだ、「ここほれ!チョコボ」という1つの答えに。それは人間と出会う為に。
前章で述べた通り、チョコの乗り手となる人間と出会う最大の目的はその所持品の強奪ではない。にも拘らず、メネが人間の乗り手を探そうとした理由とは何だったのだろうか。
その最大のポイントは「チョコの乗り手」である事ではなく「人間」である事だった。
説明しよう。今日、このガイアに存在する生命体の内、その大半を占めている種、それは人間である。何かしら国家絡みの、しかも世界的に大きな影響を与える計画を実行しようとする時、もしそこで人々の動向をうかがうのであれば、まずは人間達の動きを第一に考慮すべき社会である。
そんな中にあって、もしも配下に「駒」として動いてくれる「人間」がいたなら、メネはそう考えた。そうであれば計画はより一層順調に進められるだろう、と。
必須要素でこそない。時間がかかり過ぎて計画自体に支障を来しかねない様であれば人間探しは諦めればいいだけの事だ。そしてメネはチョコに対し「元いた群れを見付ける為の資金集めだ」といった感じの文句で「ここほれ!チョコボ」を持ちかけ、その準備へと取り掛かった。チョコにとって見ればメネの言う「元いた群れ」なんてものは最初から存在しない事になるのだが、ただ故郷の場所が場所だけに少なからずギルも必要だろうと思ったのだろうか、敢えてそこを掘り下げたりはしなかった様だ。
また少し余談になるが、「ここほれ!チョコボ」という商売の目的が後々駒となる人間との接触だったのであれば、あの過度と言ってもいい程のサービスに関する疑問も理解出来よう。あれはメネが、乗り手となる人間となるべく友好的に接する為に、また可能な限り円滑にそうなれる様にと予め土壌を固めておいた結果だったのだ。
さて、行わなければならない事は割と単純である。これまでにヴァイス達がかつての国家から根こそぎ盗んだお宝の数々を森に埋める事、そしてチョコの気に入る人間が森を訪れる日を待つ事、それだけだ。そうとなれば話は早い。早速メネは大勢の盗賊団を率いて森にアイテムを埋める作業に着手した。
しかしちょっと待った。確かメネは団員の調和を図る為に、ボスという立場にいながら組織の活動に深く関係する様な事はしてなかったんじゃなかっただろうか。そうでなくとも、元々売り捌いてギルを稼ぐつもりだったお宝達をあろう事か地中に埋めるとあっては、団員からの不満続出は避けられそうにもなさそうである。それでいて、何故メネは突然形振り構わない行動に出たのだろうか。
ここでは、メネが何の為にわざわざヴァイス大盗賊団等という組織のボスにまで成り上がる必要があったのか、その理由を振り返ってみよう。何故そうする必要があったのか、それはメネが多額のギルを要していたからだ。何の為の? 「世界中の情報を自動的に収集出来る状況」を作り上げる、即ちアルテミシオンを買収する為だ。そう、メネがヴァイス大盗賊団のボスとなったその第一の目的は既にして達成されていたのであり、その瞬間から彼の中における盗賊団の存在価値は著しく低下してしまっていたのだ。加えて先にも述べた通りこの「ここほれ!チョコボ」という計画は、必ずしも成功に終わらせなければならないものではない。つまり、計画を実行に移した時点で実際にある程度団員の決裂、分散は起こったのだろうが、メネやモグオはもうそれを気にする事すらなかったのである。せめて「ここほれ!チョコボ」準備要因さえいれば後は事足りたのだ。
ただ、だからと言っても問題はまだあろう。当然だ、チョコには自分が盗賊団と関係している事実を隠していたのだから、ここで何の策もなしに大挙して盗賊団共を森に来させてはならない。
そこでメネは考えた。盗賊団を使っての大幅な作業はチョコの寝静まった夜遅くに執り行う事にしよう、チョコの起きている時間はモグオと二人ででも作業すればいいだろうと。
さて、これでようやく「ここほれ!チョコボ」の準備作業が始まった。後は実際にアイテムを埋め、そして乗り手が来るのを待つだけだ、となる筈だったのだが、ここにおいて遂に計画を大きく揺るがす、ある事態が発生する。
ある時、森を掘り起こしていたら石版らしき物が発見された事にそれは端を発した。それは勿論、後に「チョコグラフ」と名付けられる石版の事だ。その石版がたった1枚限りではなく、作業を進める内に数枚発見されたのである。
その石版にははっきりと風景の様なものが描かれており、どう見ても自然物だとは考えられなかった。これに興味を持ったメネは、一体これが何なのかを考え、そして類推するのである。「これら石版に描かれている風景の場所にはお宝が埋められているのではないか」
他に何のヒントやメッセージがあった訳ではない中で、ただその石版が明らかに人工的に作られたものである事からメネはそう思った。ただ、そこに確たる証拠があったという訳ではないのだろう。後々実際にその真偽を確かめる事にはなったが、現実ならばあまりに都合の良い話であるだけに、メネ自身が直々に確かめに行ったのではなく、単に気になるからと幾らかの団員を「一応」調査に行かせただけだったのかもしれない。
しかし、実際にそこにはあったのだ。一つの宝箱が地中から掘り起こされたのだ。その中身がメネにとって何かしらプラスなり得る物だったのかどうかは不明だが、「石版の示す地にはお宝がある」という仮説が正しいと証明された事は間違いなく彼の計画に大きく影響したであろう。
お宝は実在する、その事実が明らかとなった今、残る石版の指す地からも手当たり次第にお宝を掘り当てる他はない。メネはモグオと共に、世界中を飛び回りながら石版の示す地を、お宝を探した。そして見付けるのだった。将来的にチョコが桃源郷へ帰る為の、チョコ自身が進化し新たなる能力を得る為の宝箱を。
ここにおいてメネはようやく、夢に現れたデブチョコボの言葉によって初めて桃源郷の存在を認識する事になる。もしかしたらチョコから故郷の話として何度か聞いた事もあったかもしれないが、しかし決してそれを信じはしなかった彼がだ。確かに夢の中の話ではあったが、その時隣にいたモグオ、或いは多数のヴァイス達でさえ同じ光景を目にし、同じ言葉を耳にしたのだから最早疑えるものではないと。
メネは困惑した。世界征服を目論む以上、例えそれが何者であろうとも生命体が集う集落をただの一つでも見逃すという事は、計画を根底から揺るがしかねない事態だった。モグネットの支配によって世界四大陸を漏れなく網羅していると思っていたのに、この星にはまだ自分の把握していない地が存在していたのだ。
こうなれば事情は変わった、今までの様にただお宝を見付けていてはならない。そう思ったメネは、これまでをも凌ぐスピードで半ば必死に他の石版を探し、そしてそれらのお宝を次々と掘り当てていった。メネが「チョコボの浅瀬」や「チョコボの空中庭園」の存在を知ったのは恐らくこの時だろう。オズマとの遭遇、及び対決、勝利、「こうりゃくぼん」入手といった冒頭で触れた件もこの時点で起こった事と目される。
そしてその後、世界各地を飛び回ったメネが最終的に行き着いた現実。それは「桃源郷にはチョコボしか立ち入る事が出来ない」という、彼にとっては最悪たるものだった。
自分一人では手出しが出来ない。チョコと共にこの地を訪れる事を余儀なくされたメネはここにおいて、これまで計画を本格的に実行する際の「駒」でしかなかった「人間」に、期せずして桃源郷の入り口を開けさせる大役を担わせる。
勿論、その役目を果たすのは自分自身でもよかっただろう。桃源郷の実態を知る事が現在何をおいても優先させなければならない急務である事を加味すればこそ、そうであるべきの様にも思える。しかしメネはそうしなかった。敢えてまだ見付かるかどうかも怪しい人間にそれを任せようとした。何故か。恐らく彼は、世界各地のお宝を掘り当て、その途中何度かデブチョコボと夢の中で対面していて、デブチョコボに不信感を抱かれていたのではなかろうか。それもそうだろう、チョコの為に用意していた宝箱を、あろう事か一見する限りでは単に石版を掘り出す事すら困難を極めそうなモーグリ風情に次々と開けられているのだ。場合によってはそのモーグリと共に多数のモンスターの姿があったかもしれない。そんな状況にあって、相手が自分を快く思ったとは思えないのだ。少なからず「怪しい存在」として認識されていただろう。夢の中における両者のやり取りを詳細に知る事は出来ないが、実際に桃源郷へ到着した際に行われた双方の会話からすれば、メネは夢の中の時点で既にデブチョコボから邪険に扱われていたと考えられる。
なのにも拘らず、矢継ぎ早に今度はチョコを連れて夢の中のデブチョコボに会うなんて事をしたらどうなるだろう。相手の出方によっては今後桃源郷への侵入を一切断念せざるを得なくなりかねないし、それが切っ掛けでチョコからも不審がられてしまっては、折角準備段階にあった「ここほれ!チョコボ」による「駒」探しも頓挫してしまう。。そう、既にしてデブチョコボに少しばかり目を付けられているメネは、少なくともしばらくの間デブチョコボの目をかいくぐって動かなければならなかったのだ。
チョコの話を聞く限りでは桃源郷に生息するのはチョコボばかりだという。それが事実ならば、奴等が今すぐ自身の計画を脅かす存在になる事はまずないだろう。だからメネはひとまず、まだ不確かな可能性に過ぎない「人間」にその仕事を負わせる事にしたのだ。もし最終的にその「人間」そのものが見付からなかったならば、最終的には多少強引にでも自分とチョコとで桃源郷へ向かえばいいと。
そしてメネは、改めて「ここほれ!チョコボ」の準備に動き出す。
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