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09/08/08(土) 第281回 非凡な日常

※7/27(月)

日曜日はプレイしなかったので、たっぷりあると思われていた5連休もこれにて終了。だが聖剣4が面白くて面白くて堪らない盛りの私は遂に決めてしまう。「平日にも少しずつでいいから進めていこう」と。無論その決断の根底には「これ以上プレイを遅らせると、お盆休みに入った直後からDQ9を始められない」という決して褒められたものではない理由もあった。しかし平日仕事を終えてからの時間の使い方についてかつて「雑文」でこのようにまで述べていた私を動かしたのは、やはり「そのゲームをプレイしたいから」という思いが極めて強かったからに他ならない。過去FFも、DQも、MGSも、異世界の迷宮ですらも動かすことができなかった平日夜中の私の重い腰を、よもや聖剣伝説4が動かそうとは。この展開を予想できた者はいるまい。何せ今日現在、私にだって信じられないのだ。

して6章。この頃になると大型モンスターも普通にエリアを闊歩していたりする。しかしその大型モンスターさえ、MONOなり周りの小型モンスターなりをぶつけてやればパニック状態に陥ってくれるので、言ってみればただちょっとタフなだけの雑魚、ただちょっと図体がでかくて通行の妨げになるだけの雑魚である。となれば、後は目に入った奴を次から次へと倒していくだけ。結局この日は1時間かそこらだったと思うが、ステージ1とステージ2のあらかたの雑魚を片付けて終わった。


※7/28(火)

そして翌日。ちょっと雑魚を集中的に倒してムチレベルが1つでも上がると、途端に雑魚戦がやり易くなってただでさえ楽しいプレイが余計楽しくなってくるものだから始末に終えない。前日は楽しさの中にもやはり「新章を迎えることのプレッシャー」や「ここでいきなり自分の手に負えないほどの難易度になってしまうのではないかという不安」がありもしたが、それすら幾分かのレベルアップで取り払われているこの日はどこまでも純粋に「プレイしたかったから」聖剣4をプレイしていた。
この日はステージ3と4を攻略。大分敵の攻撃力が上がってきたようにも感じるが、回復アイテムのドロップ率がそこそこなので瀕死の警告音を聞くまでには至らない。最近は敵が落としたアイテムをすぐ取ってしまわずにしばらく置いておいて、少し体力が減ってきたら取りに帰ってくるという回復アイテム貯蓄なんてのも覚えるようになってきた。ねえ、ただ手数を増やせばいいってもんでもないんですよ。こうして結局はより多く回復の機会を与えてることになるんだから。お分かりかな? 群がることでしか力を誇示することのできない君たちに。
ただ世の中は実に上手くできているもので、そんな風に調子付き始めた私を懲らしめる者が現れるのであった。6章ボス、仮面の導師である。まずまとっているバリアを破壊→バリアが無い状態の間に攻撃という流れはすぐに分かったのだが、バリアを張っているにもかかわらず更にそのバリアを庇うような動きをするスナイパーフェイスまでいるこの二段構え防壁のせいで本体へダメージを与えるまでに随分と時間がかかる。加えて全5階層になっている塔というステージ構成が厄介で、何かと言えば下の階へ落とされて復帰までにこれまた時間がかかる。一方向こうさんはいくらエルディが離れた位置にいようが一切お構いなしで攻撃を仕掛けてくる卑怯さ加減。そ、それが仮にも聖剣の使い手だった男のすることかっ…
言うまでもなく、時間がかかればかかるほど状況はジリ貧。戦闘開始時に持っていた天使の聖杯(倒れても一度HP&MP全快で復活)もいつの間にか無くなり、私は2章振りに死の息吹がすぐそこにまで迫っていることを感じたのであった。戦いは終盤。次第にバトルステージを塔の上層へと移し最後に辿り着いた屋上でのせめぎ合い。敵のバリアを簡単に破壊できるウンディーネやサラマンダーのパチンコ玉も尽きかけていた。なぜか中に回復アイテムがよく入っているMONO「いせきの柱」ももうない。MPも無くなった。もうあと残るのは自分のHPだけとなり、次第に「また初めからチビチビと奴のHPを削ることになるのだけは勘弁してくれー」などと弱気になったりしながら、しかし塔の屋上で力なくくずおれたのは私ではなく、仮面男だった。仮面の導師、初見撃破! 内心では「そろそろボス2連戦なんて展開もあるのでは…」と思っていたが、直後にリザルト画面が表示されて一安心。ふー。

こうして史上初の平日2日またぎの聖剣4攻略は終わった。しかしボス戦で聖杯&ステージ上に設置されている回復アイテムをほぼ全て使い切っての勝利。4、5、6章と死亡数0のクリアを連発していた私に、とうとう暗雲が立ち込めようとしていた。


進行状況:6日目



09/08/09(日) 第282回 勝者なき戦い

※7/30(木)

まだまだ平日だが負けじとプレイ。嗚呼、私は今聖剣伝説4にハマっています。ハマっているのです。
7章。私の実力の方は次第に頭打ちになっていく一方で敵は当然のように強くなっていくので、長らく優位に立っていた雑魚戦でもピンチに陥ったりするようになってきた。前章クリア時に手に入れたアイテムドロップ率上昇エンブレム「トレジャーハンター」を装備しているのにまるで敵が回復アイテムを落としてくれないことも手伝って、あろうことか4章振りにゲームオーバーになってしまう事態まで起きてしまった。「限界」 瞬間、私の脳裏にその単語がよぎったことは言うまでもない。これまで、最も好調だった4、5、6章を含め、常に「いつ限界が訪れるのか」という不安の中で戦ってきたのだ。それがもし今なのだとしたら。これがまだ前半とかならある程度諦めもついたかもしれないが、なまじクリアが目前になっているだけあってそれを避けたいという思いは強かった。というかこの時の私は、DQ9を開始するために要していた「聖剣4クリア」という免罪符を手に入れるためにただクリアを目指していたのではなく、純粋にこの先ストーリーがどう展開するのかを知りたかったから諦めたくなかったのだ。
もっとも結論から言うと、事態はそこまで深刻な訳でもなかった。HP回復手段がアイテムのみに限られる序盤の戦いを慎重に切り抜け、フィーレベルが3になって「ヒールライト」を使えるようになればそれも終わり。なぜなら回復魔法が使用可能になることで、それまでほぼ無用だったMP回復アイテムも間接的にHP回復アイテム化してくれる訳で、単純に計算してもHP回復アイテムのドロップ率が倍になってくれるからだ。
ひとまず状況が安定して安堵したが、7章の敵はまだ他にもいた。ステージ2に入るとワッツらの援軍が到着し、このまま一気呵成に進軍するぞという雰囲気で展開としては盛り上がるのだが、どうにもこの、援軍が揃いも揃って使えないのだ。見る感じでは、必死に敵に斬りかかろうとしているのは分かる。だがいかんせん非力。正直何の手助けにもなっていないと言わざるを得ない。そして大将も大将でこれまた使えない。ワッツの操縦する戦車はステージ上にある幾つかの防壁を破壊する役なのだが、ちょっと先行して雑魚を蹴散らしながら防壁の前まで辿り着き、そこで後ろから来ているはずの戦車を待ってもいつになろうと来る気配がないのだ。フィーはフィーで「ワッツを助けよう」みたいなことを言うから仕方なく今来た道を戻ってみると、倒し逃したたった1体の敵に足止めされて前へ進めなくなっていたりする。いやいやいや、あんたあの威勢はどうしたよ。つーか、一人で前へ進めないなら始めからそう言ってくれ? あんたが「お前は先に行け」とか言ったからその言葉の通りに先に行って待ってたってのに。いちいち進行方向にいる敵を排除してあげなければならないなんて、これじゃあ何だ、まるで「おもり」をしているようではないか。戦車の風格台無しだぞ。それだったらまだ、攻撃自体は役立たずでも、ムチで掴んだ敵をぶつけてパニック状態にさせられる「動くMONO」扱いとも言えるあんたの部下達の方が使えるんじゃないの。
敵は身内にあり。ワッツによって予想以上の足止めを食らった私はステージ2をクリアしたところまででその日のプレイを終えた。


※7/31(金)

翌日。ワッツの扱いにも慣れてしまえば、この日の無双っ振りは前章を思い返すよう。いや、敵の数量を考えたら前章顔負けだったかもしれない。それが証拠にこの7章では、初めてムチレベルが最大レベルの4にまで到達した。それまでムチレベルは3が最高だと思い込んでいたから驚いたものである。そしてそれ以上に、これまでムチで掴んでもまるでビクともしなかった大型モンスターが自在に掴めたり、回せたり、投げ飛ばしたりできるようになったことが驚きだった。これまでは周囲のMONO、或いは敵頼みだった大型モンスターの筆頭リュケイオスが、ああ、何とムチで掴んで後は○ボタンを連打しさえしていれば無傷で勝ててしまう。もっともさすがにそこまでせこい勝ち方はしなかったけれど。
ここで、ムチレベル、フィーレベルが共に4になった私は雑魚敵との戦いに見切りを付け、さっさとボスの所まで行くようプレイスタイルを変更した。レベル的には最高の状態。これでなおボスに負けるようなら、それはエルディの成長不足ではなく、私の技術不足によるもの。つまり、私の技術レベルさえ適正以上なら、敢えてこれ以上パラメータを伸ばさなくともボスには勝てるはずだと確信したのだ。
そして現れたボス、タナトスゴーレムジェネラル戦。ここで私は、「戦略なんてどうでもいいからとにかく今ある過去最高のHP、MPを駆使してひたすら殴りかかる」という作戦とも言えないごり押し作戦を展開した。当然のように回復魔法の乱用で見る見る減っていくMP。過去最大であったにもかかわらず過去最速と思しきペースでMPが尽きてしまったとき、ようやく私は「やっぱ力技じゃ無理だな」と悟ったのであった。
が、「ツキ」というものは恐ろしい。MPが底を尽き、更に瀕死状態になってピコンピコンと警告が鳴り響く中、もう成す術もなく奴から逃げ続けていると、私は何もしていないのに突然奴のHPが激減したのだ。どうやら偶然にもエルディがタナトスゴーレムジェネラルを上手いこと誘導し、ステージ上の何らかのトラップに奴を引っ掛けたらしい。辺りに響く悶絶したタナトスゴーレムジェネラルの声。見れば奴のHPも、これまでのごり押しが奏したか残りわずかになっている。これはもう賭けるしかない。
私は走った。とにかく走った。もう一度奴を罠にかければ恐らく勝てる。でもどういった類のギミックが動いた結果ああなったのかが分からなかったから、どこをどう動けばさっきと同じことができるのか皆目見当が付かない。私は走った。またしても偶然に、奴が同じ轍を踏んでくれることに賭けて。
そして響いたタナトスゴーレムジェネラルの声。奴は負けた、あろうことか自爆という最期で。どういう決着だったかプレイヤーには知られることのないまま、画面の外で一人寂しく散ったのであった。

これでも一応初見撃破。だがもう一度タナトスゴーレムジェネラルと戦えと言われて、次も勝てる自信は私にはない。


進行状況:7日目



09/08/10(月) 第283回 君よラスボスであれ

※7/31(金)

休日は土曜日と日曜日ではなく、金曜日の夜から日曜日の夕方前までだという意見に同意する人は多いだろう。金曜日は平日だが仕事や学校が終わってしまえば自由そのものであり、逆に日曜日は休日だが夜になるとまた明日から始まる平日の日々に気分が落ち込み、むしろ平日そのものより辛かったりするからである。だから休日とは、定義上では土曜日の午前0時から始まるものだが実際上は数時間ずれて訪れるのであり、人が最も開放的な気分になれるのも土曜日ではなく実は金曜日の夜なのだと、私はそう思うのである。
さて、7章をクリアした私はその金曜日の夜まっただ中にいた。この一週間、平日夜にちまちまと進めてきたがやはり本音を言えば休日に時間を気にせず伸び伸びとプレイしたいのであり、そのチャンスが5日振りに訪れた訳だ。しかも時間は人が最も開放的になる時。これを逃す手はない。私は、前章ボスの酷い顛末に一抹の不安を覚えながらも、返す刀で最終章の扉を開けた。
最終章。実を言うと、これを始める段階で私は「果たしてクリアできるのだろうか」という不安感をあまり抱いていなかった。それは一つには、7章を曲がりなりにも死亡数1回に抑えられた経緯から、厳しくても何度か死ねばラスボスにだって勝てるだろうと踏んでいたから。もちろんこれは「いきなり最後だけいたずらに難しくなることは多分ないであろう」という期待がまずあっての話なのだが。そしてもう一つ、「もう最後なんだから最悪これまでの章の倍以上の時間をかけて入念にレベルアップさせておけば負けないだろう」と思っていたから。繰り返すが金曜日の夜である。私はこの時点で、ステージを行き来しつつマップを切り替えつつ土曜一杯パラメータを上げ続けて、日曜日に満を持してラスボスの下へ向かうくらいでもいいのではないかぐらいに思っていた。時間があるというのは恐ろしい。もし本当にそんなことをすれば、日曜日の夜に「この貴重な休みに一体何をしていたんだ」と後悔することになるのは明らかだろうに。

ともあれそうして始まった最終決戦。だがその立ち上がり、ステージ1の初めのマップで早くも1度目のゲームオーバーを喫す。こ、これが最終章の洗礼っ……だが私は慌てない。少しやってみた感じでは無理強い、深追いさえしなければそうそうすぐ死ぬという訳でもなさそうなことが分かった。となれば必要以上に慎重にならざるを得ないのも「ヒールライト」を使えるようになるまでである。私は、苦手としているタナトスクラン系モンスターの巣窟を避け(そもそもこいつらはパラメータ上昇用メダルを落としてくれない、気がする)、より簡単に倒せるゴーレム系モンスターばかりを狙ってちまちまとしたレベル上げを敢行した。
ゴーレムを見付け、ゴーレムを倒し、あらかた掃除し終わったらマップを切り替えて再配置。そしてまたゴーレムを倒すという地味で地道な作業を1時間かそこら続けた頃だっただろうか、ようやくムチレベルとフィーレベルが3に。どうも、何となく、最終章の敵はメダルをあまり落としてくれないか、落としてくれても上昇量が1とか2とかのしょぼい物ばかりのような気がする。相手にする敵数が多い分、パラメータの上昇ペースを抑えるよう補正がかかっているのだろうか。それともそれは勘違いで、ただ自分の戦い方が下手なだけだからなのだろうか。よくは分からないが、とにかくこの分だとレベル4になるまで粘ろうとした場合相当の忍耐が必要になりそうである。ここでしばし悩んだが、まだ先も長そうだ。それに一応今のところは目立って苦戦しているという訳でもなかったので、ひとまず先の方の様子を見てみることにした。無理そうなら、また戻ってくればいいのだし。
そうしてタナトスの庭を後にし、ようやく冥王城内部へと踏み込んだ私。大広間を抜け、更に蜂の巣の間を抜けたところでセーブ。ふむ、やはり「ヒールライト」があればそれなりにやっていけるなあ。最終章にして未だ「絶望」の見えてこない状況に士気は上がる一方だった。が、「後はムチレベルが4になってくれれば、じゃあ一気にボスのところまで乗り込んでやりますか」と、大まかな攻略方針が定まったその時、事件は起こったのである。
続くステージ、タナトス大空洞でそれは起こった。初めの部屋に入るや否や、床が割れたと思ったらエルディが下へ落ちて行った。それも尋常じゃないくらい落ちて行った。一体ビルの何階に相当する高さから落ちたのだろうかというほどの光景を目の当たりにして、10か20はいただろうかという雑魚敵が次々とスルーされていくのを見て、私の中で何かが吹っ切れたのであった。「ああ、もういいや」と、そう思ったのである。
何が「もういい」のか。即ちこうだ。ここまでのステージで少しでも強くなっておくためにと律儀にほぼ全ての雑魚を相手してきたのに、ここに来てそれが覆されてしまった。随分な数のモンスターを無視することになってしまった。「全アイテムコンプリートを目指していたのにある時特定のアイテムが入手不可能になってしまっていることが判明したプレイヤーの心情」と言うと分かり易いだろうか。ある種の完全制覇欲が削がれてしまったのである。大体に、私はRPGにおけるラスト近辺のプレイがそれまでと比べてかなり雑になる傾向がそもそもあった。ラスト手前までのダンジョンでは全ての雑魚戦をきちんと戦っていたのに、ラストダンジョンになると道中のバトルからは全て逃げてラスボス一直線になるとか。それまでは常に「その時点で最強の武器防具を揃えたらその時点で次へ進む」という方針を貫いていたのに、ラストダンジョン手前の装備品がちょっとお高めとなるとすぐに「別に買わなくてもいいか」となっちゃったりするとか。それが、この「雑魚敵強制スルー」と合わさることで表出したのだ。「もういいか。もういいよね」「レベル上げしようがしまいがボスに勝っちゃえば終わるんだし」 もう道中の敵を全て無視してボスの下へ辿り着こうと決めた私は実に速く、そりゃもう、これまでの牛歩戦術っ振りは一体何だったのかと思うくらい速く、ほどなくしてそれは登場することとなった。
タナトスストラウド。聖剣4ラスボス候補の一角が満を持して最終章に再登場。実を言うと、4章時点では確かにラスボス候補筆頭であったストラウドはこの時点でそうではなくなっていたのだが、そんな実情は構わず私は祈っていた。どうかこいつが最後であってくれ。展開次第ではあり得ない話でもないだろう。だからどうかエンディングに突入してしまってくれ。
しかしその思いは、ものの1分で打ち砕かられることとなる。たった1分かそこらで、タナトスストラウドを倒せてしまったのである。とてつもない緊張感と共に始まった戦いなのに、これには面食らった。いやあ、まさかストラウドさんの周りをグルグル回りながら、相手が攻撃を外した隙に殴り付けるだけでほぼ無傷のまま勝てるとは思わなかったんです。ええ。
かつてないほど惨めに倒れたストラウド。私はこのとき思っていた。もしこいつがラスボスであってくれたら、「初見1分で倒された哀れなラスボス」と称し今後ことある毎にネタとして引き合いに出すのになあと。だが次の瞬間、見る見る巨大化しいわゆる第2形態への移行的な進化を遂げる目の前の惨めな人。ああ、あってはならないことが。これまでずっと危惧していた「セーブを挟まないボス連戦」が遂にここにきて現実のものとなってしまったのだ。
進化したタナトスストラウドは、さきほどまでの人間形態時の面影を全く残さないほど、強くなっていらっしゃった。というか、攻撃が全然通らない。私が奴に食らわせられたダメージは、戦闘開始直後いつものように気持ち良さそうに「お前を倒して」云々「私が世界の」云々と喋っている隙に与えたもののみで、その後の攻撃はことごとく弾かれてしまう。今思えばこれは、何らかの仕掛け、攻撃を通すための何らかの手順が存在することが明らかな状況なのだが、不覚にもこの時私はそのことに気付けなかった。なまじ初めに幾らかダメージを与えられていたことがめくらましになっていたか。「とにかく早くラスボスを倒して、この緊張感から解き放たれたい」と焦る気持ちが自分を冷静にさせなかったこともあったかもしれない。
ひたすら無為に切り込んで次第に悪化していく戦況。そのうち死にそうになって、バトルステージを逃げ回っていたところでようやく周囲の「夜のとう」から奴に力が流れ込んでいると気付いたときには、既にもう遅かった。タナトスストラウド戦敗北。最終章2度目のゲームオーバーであり、ボス戦に限れば実に3章のワイバーン戦以来のゲームオーバーであった。

2連戦2戦目のゲームオーバーというのは、普通なら私をしばらく気落ちさせるには十分な出来事である。だがこの時、むしろ私の士気は下がるどころか上がっていた。その理由は3つ。最後の最後でタナトスストラウドへのダメージの与え方を掴めたということ。史上初の2連戦ということは、こいつがラスボスである可能性が高まったということ。そして、2連戦とは言うものの、第1形態は苦もなく倒せるので事実上連戦扱いではないと考えられること。
ありがとうストラウド。君がヘタレでいてくれたお陰で、いよいよこのゲームのクリアが見えてきました。


進行状況:8日目



09/08/11(火) 第284回 そして伝説は始まった

※8/1(土)

遂に迎えた運命の日。私はまず、午前中一杯をレベル上げに費やそうと考えていた。現状でもタナトスストラウドに対して勝算はあったが、残り体力が少なくなってきてから奴がどう発狂したものか分からない。それに2連戦2連戦とは言っているが、これが3連戦でないという保証はどこにもない。やはりパラメータは高ければ高いほどいいのである。
だが、そんな私の計画はのっけから頓挫する。最終セーブデータの蜂の巣の間から前のフロアへ戻れない。これは正直なところ予想外だった。ステージが切り替わるときに後ろの扉が閉まるとか、「もう後には戻れませんよ」的な演出は一切なかったからだ。と言うか実際閉まり切っているという訳ではないようで、帰ろうとすると「こっちじゃない。先へ進もう」といったセリフと共に押し戻されてしまう。いやいや、あんた何勝手に私の気持ちを代弁してくれちゃってんの。こっちは戻ってレベル上げしたいんだって。あんたの為に言ってんだよ。
説得も無理そうだったので仕方なく先へ進むことにする。しかし先の経験からも分かるようにこの先は落下落下で進む一方通行のエリアばかり。ということはマップ切り替えによるこすいレベル上げができないということ。うーん、観念するしかないのか。どうしようもないので私は、それでも前日に比べればよっぽど周りの雑魚の相手をしながら、しかしムチレベルが4になることはないまま、改めてタナトスストラウドの下へ辿り着いたのであった。
タナトスストラウド再戦。第1形態は楽勝。ちょっとした操作ミスで若干ダメージを食らってしまったのも悔しいくらい。そして第2形態。戦い方さえ分かってしまえば、ことは驚くほど順調に進んだ。殴っててダメージが通らなくなったら、エリア内に4個所ある「夜のとう」の内から奴が力を得ているものを探してそれを破壊し、また本体にダメージを与えるということの繰り返し。しかも「夜のとう」破壊直後は何故だか知らんがパニック状態になってくれるというサービスチャンス付き。「俺には無限の力が流れ込んでるから無敵だ無敵だー」と思ってたのが突然絶たれちゃったもんだからちょっと慌てちゃったのかなー。ともかくストラウドのヘタレが故に、2度目の挑戦で勝利を収めることとなった。よーし倒した。これでエンディング。誰が何と言おうとこれでエンディング。だってそうでしょう。2連戦だったんだから。ほら、ストラウドさんが消えていきます。そしたらお馴染みのリザルト画面が…リザルト画面がこう……
現れなかった。まだ先はあるのであった。まあね、薄々感付いてはいましたけれどもね。だってマップを見ると奥にまだ扉があるの見えてたもん。それにさあ、ストラウド君よりよっぽどラスボスの座にふさわしい奴が、まだいるもんねえ。

今度こそ本当に最後の戦いへ、私は踏み出した。もっとも、扉をくぐったすぐ後に真のラスボス戦が待っていると思っていた私の予想に反し、次に待っていたのは雑魚敵ひしめく普通のステージだったのだが。しかしこれは私にとっては全て好都合なステージ構成だったと言える。何故ならここから更にパラメータを上げられる余地がある。そして恐らく、ラスボス前にもう一度セーブポイントが存在する可能性が高い。そして展開は、正に私の思惑通りに進んだ。続くねじれの間で遂にムチレベルが4になりこれにてラスボス戦の準備が万端に。そして次の大回廊を抜けたところでセーブポイント。この道中、これまでのストーリーで出会ってきた重要人物の声が聞こえてくるという演出も手伝い、私はここで確信していた。この後に待ち受ける者が、正真正銘のラスボスに違いないと。
冥王城最深部、こだまの間。そこにいたのはやはりリチア(アニス)。確信はより確かとなった。ここが最後だ。過去一番に緊張している私の目に、次映ったものはしかし、あまりにも意外な光景であった。

リチア「ほーら、私を捕まえてごらんなさーい」
エルディ「待てよー、こいつぅー」
リチア「ウフフウフフ」
エルディ「アハハアハハ」

あのイベントを短い言葉で表現してみるとこんな感じだが、概ねこれで間違ってはいまい。気付けば私は、今や懐かしい序章においてリチアのペットのラビ(プックだっけ)と追いかけっこをしたあの森で、今度はリチアと追いかけっこをしていた。あの時と違うのは、今リチアはやけに紫色をしているということと、追いかけている最中ことある毎にタナトスクラン・フロストアサシンやらタナトスクラン・ブラッドアサシンが行く手を遮るということ。あと、何故だかそのタナトスクランは一撃で倒すことができ、しかも気前よく回復アイテムやら各種メダルやらを落としてくれるものだからただアハハウフフしながらも割といいレベル上げができちゃうということ。初めは戸惑いっ放しだった私も、これまでのちまちまっ振りが嘘のようなメダルの大乱獲に、いつしか心躍っていたのではないかと思う。待てよう、リチアー。ウヘヘウヘヘ。
そんなことより、この展開は何だ。これがラスボス戦と言うのならこんなに斬新なラスボスもないだろうと思ったが、どうやらそうではなかったようで、一通り追いかけ回し終わるとリチアは「もっと苦しみたいのなら望み通りにしてやろう」みたいなセリフを吐いて、エルディとフィーと私を現実の世界に引き戻した。そうしていよいよ本当のラスボス、メデューサ戦の火蓋が切られるのだった。
メデューサは本体の左右に赤青のブラッドサーペント、フロストサーペントを従えている3パーツ構成。私が苦手とするタイプの敵だ。1体を相手にするだけでもいっぱいいっぱいなのに、複数のパーツがそれぞれ独立して繰り出してくる攻撃を逐次避けつつ、隙を見て攻撃なんて高等技術は私にはないからである。だが、メインパーツ1に対してサブパーツ2という構成は、同時にある事実も浮き彫りにする。それは、アクションゲームの王道を行くなら、そしてこれまでのボス戦の傾向を見るなら、恐らくこいつは「まずサブパーツを倒し、それが復活するまでの間に本体にダメージを与える」という手順で倒す相手なのだということだ。そして、そのサブパーツ2体の名前や色。これはどちらかと言えば初心者に近いプレイヤーに対して、パーツ破壊のための手段を与えているヒントの一種なのだろうと思うが、腐ってもゲーマーの私には、少し露骨な記号だったと言える。バトル開始から間もなく、私はラスボスたるメデューサの攻略法、攻略手順を正確に見極めていた。
しかしやはり、奴もラスボス。そればかりではなく初見。勝手の掴み切れていない私に聖剣4最大級の攻撃力を持つ技の数々でもって大ダメージを見舞ってくる。だが私は私で策があった。バトル序盤でどこからともなく落ちてきたはちみつドリンクを温存しておき、この章では遂に手に入ることのなかった天使の聖杯の機能を擬似的に持たせることで体力を倍加し、後は何とか奴のHPを削り切ってしまおうというものだ。実際ラスボスとは言うがメデューサのHPはいたずらに高いという訳ではなく(難易度HARDとかULTIMATEだとまた違うのかな)、荒削りな作戦でも押し切れそうな気がしたのである。
攻撃手順は分かっているので私の動きに迷いはない。2体のサーペントはそれぞれサラマンダーとウンディーネを当ててパニックにさせたところを叩く。そのうち精霊の魂が尽きたら後は周囲のMONOを当てて同じくパニック状態にさせ、そして叩く。ただ、今思えばここに判断ミスがあった。基本的にオートターゲット機能を持っているパチンコ攻撃と、操作に慣れてきてなおてんででたらめな方向に投げ飛ばしちゃうこともあるムチ操作とでは、パチンコ攻撃の方がより確実かつ素早くサーペントをパニックにさせられるのだから、これは敵の体力も減ってきて攻撃が熾烈化してからの攻防のために温存しておくべきだったのだ。そんなことも構わず、何だったら「そこいらの結晶石から精霊の魂を補充できたりするんじゃないかなあ」ぐらいの楽観的浅見でサラマンダーを打ちウンディーネを打ち…それこそ奴の攻撃が激しくなり始めたところで底が尽きてしまうと、「今度は私のターンだ」と言わんばかりの猛攻で見る間に劣勢に追い込まれてしまった。
うーむ、これは今しかない。ここまで温存し続けた最後の切り札、虎の子のはちみつドリンクを使うときがきた。奴のHPはもう2割を切っている。ここで体力を全快すればもう勝ちは見えたも同然。私は意気揚々とそこに置いてあるはちみつドリンクを……そこに置いて……そこに…

コント
コント(conte)とは、笑いを目的とする寸劇のことを指す。
フランス語の「conte」(短い物語・童話・寸劇)が語源となっている。
日本においては、20世紀半ばより演芸とされる分野の中で演じられるものが多い。
(出典:Wikipedia)

はちみつドリンクなんて初めからなかったのだ。さもなければ幻影が見えていたか。そうでもなければ戦いに集中するあまり知らず知らずの内に取ってしまったか、時間消滅したかということになるが、まさかそんなことが。ないないない。そんな初歩的なミスな訳がない。あれは初めから無かったのです。
死ぬかもしれない。途端に現実が襲ってきた。ここまできて負けてしまうのか? やはりラスボスを初見撃破だなんて、どだい無理な話だったのか? 夢のまた夢だったのか? 嫌だ。それだけは。それだけは避けないと。何としても勝たないと。だって、次また勝てるかどうかも分からない戦いに挑むための前置きとして、またあのアハハウフフをやらなきゃならんなんて面倒臭くてかなわんじゃないかーー!
そこから発揮した集中力は実に目を見張るものだったのではないだろうか。食らう攻撃によっては即死かというHPで果敢に攻め込み、しかし無理はせず引く時は引き、巧妙に奴の攻撃を避け続けて両脇のサーペントを倒し、本体へにじり寄って剣撃を食らわせる。これを2セット、ほぼ無傷でやったと記憶している。大体これまでは死に物狂いで放った決死の一撃が偶然ヒットして打開、みたいな「画にならない」クリアが常だった私が、最後の最後で見せた最も華麗なボス撃破。そうしてメデューサ戦は終わったのであった。
そして現れたリザルト画面。あー、終わったーっ。その瞬間の安堵感はわざわざここに書くまでもない。
しかし、終わってみれば最終章死亡2回。ラスボス初見撃破。これは私にとっては輝かしい成績だったのではないかと思う。決してタナトスストラウドより弱いという訳ではなかった(多分改めてやったらタナトスストラウドの方が楽に倒せる)にもかかわらず、1度も勝ちをもぎ取れなかったラスボスメデューサ。やはり彼女の最大のミスは、私にその攻略法、そしてそれを実行に移すために必要なアイテムなどを瞬時に悟られてしまったことだろう。両脇のサーペントがただ「サーペント」という名前であったなら。その色がオーソドックスな緑やもしくは斑模様であったなら。或いは彼女にも勝機はあった。次にお目にかかるのが、また1000年後ということになるのかどうかは知らないが、その時が来るとしたら、今度は今回の反省を踏まえて、しかるべき体裁で表舞台に立つよう、私は彼女に進言したい。

かくして聖剣伝説4、一周目のプレイは終わった。次に私には、二周目を難易度HARDでプレイするという選択肢が与えられている。いや二周目でなくとも、チャレンジアリーナをやるという選択肢もある。でも私は、少なくともしばらくは聖剣伝説4から離れようと思っている。何故か。忘れてはならないのだ。そもそも私は、次にDQ9をプレイするために聖剣4のクリアを決意したに過ぎなかったことを。そして、やや先走って購入したNintendoDSとDQ9のソフトがタイミングよく正にこの日届けられたということを。
「ハマったハマった」という割には随分あっさりと終わるようだが、でも最後にこのことは声を大にして言っておこう。

聖剣伝説4は神ゲーです。

そしてもう一つ。

上記の言葉に当方は一切の責任を持ちません。


進行状況:9日目



09/10/03(土) 第285回 生みの苦しみ

さあ困った。どうしよう。
無論、これをご覧の貴方には、私がいきなり何に困らされているのかお分かりだろう。主人公命名である。
思い返せば、私にとってのDQとは主人公の名前に悩まされることの歴史であった。初めてプレイしたDQはFCの1で、これは友人と共同でプレイすることになった関係でその友人の名前を付けていたのだが、今思えばすでにここに「名付けの放棄」の片鱗が見えていたとも言える。その後のシリーズは全て1人でプレイしたが(別に泣くところではない)、ゲームの主人公に自分の名前を付けるのがどうしても恥ずかしく感じられてしまう私は、しかしその頃にはもう自身のネーミングセンスの無さを痛感してもいたから、例えば2では仲間2人の名前が変えられる裏技を知ってはいてもわざわざ大変な作業を増やすこともないとそれを行使することはなかったし、3とか5とか、ちょっとでも主人公にゆかりのありそうな名前があるとなれば、特に深く考えることもなくただ安直に「ろと」「トンヌラ」などと名付けていたのだ。6、7では珍しくデフォルト名が付いていたから実に有難いと思ったものだが8にてそれもまたなくなり、その8での苦悩についてはかつてここに書いていたからまあ今更ぶり返さないけれどもともかくそのような経緯があり、今再びここにその壁との再会となったのである。
壁。5年振りに私の前に立ちはだかったその壁は、実に強大な存在となって帰って来てくれた。そう、今回プレイ前にプレイヤーが設定しなければならないのは名前だけではない。本作にはキャラクターメイキングシステムが採用されているからだ。即ち主人公の目、髪、そしてそれらの色や背格好に至るまでさまざまなパーツをカスタマイズすることができる。私は年甲斐もなく戦慄した。無論、それ自体が目新しい訳ではないキャラクターメイキングにではなく、下手をしたらいつまで経ってもDQ9が始まらないかもしれないことに。
これではダメだ。こんなことでは。思い出すんだ。今この手にDQ9が渡るまでの、あの紆余曲折の道のりを。ここに辿り着くまでに味わった、苦難苦渋の連続を。国民的RPGの最新作プレイ開始日を盆休み9連休に合わせられたのは、偶然の賜物ではないだろう。これは起きるべくして起きた。合うべくして合った。忘れるな。連休中にDQ9を始められるよう、半ば急かされてプレイされることになった聖剣伝説4のことを。結果として私の中で神ゲーとなったあれを、心ゆくまま気の向くままにのんびりプレイすることができなくなってしまったあの悲劇を。今ここで、たかがキャラクターメイキングなどで1日2日と時間を潰してしまうようでは、聖剣4が浮かばれない。
という訳で、決めた。何のことはない。相手がWiiとかならまだしも、今回はDSである。容量的にもそんなに幅は持たせられないはずで、実際やることはカスタマイズではなく幾つかのパーツについて幾つかの選択肢の中から気に入ったものを選ぶだけ。数分後には、私の分身にしてはよくできた顔立ちの、でも少しだけ頼りなさそうな男が誕生することになったのだった。問題の名前もまあ、いつもの私に比べればかなり収まりのいい感じだと思う。勿論ここでは、私にしか通用しない名前を使って皆様に無用な混乱を与えないよう、という名目のもと、恥ずかしいのでわざわざ書かない。

DQ9最大の難関は過ぎ去った。後は黙々とプレイしていれば、見込みでは4〜50時間後くらいにエンディングが見られるだろう。
だが私は知っていた。遠からぬ未来、今ようやく乗り越えた壁が今度は3枚一挙にやってくる運命を。


進行状況:0日目



09/10/12(月) 第286回 認定

プレイ開始初日、物語の盛り上がりは早くも本作のピークを迎えた。

今回の主人公は天使である。空の向こうの天使界から人間達を見守る彼らの命は「守護天使」として人間界に降り立ち、困っている者の手助けをし、悩んでいる者の道を拓き、時には死してなお現世に捉われる者の無念を払い人々の感謝の想いの結晶体「星のオーラ」を集めること。そうして集められた星のオーラは天使界にそびえる世界樹に捧げられ、世界樹がオーラで満ち溢れたとき、その樹には女神の果実が実るとされる。天使達は、天使界に代々語り継がれる「世界樹に女神の果実が実るとき、神の国への道は開かれ、天使たちは永遠の救いを得る」との伝えを信じ、今日も弱きを助け、弱きを救い、より人間に感謝される存在となるべく邁進しているのだ。もっとも、天使として生まれた者がおしなべて守護天使に任命されるのではない。守護天使を目指す天使はそれぞれ特定の師匠の下に付き、師からの教え、修行を通してその心得を学んでいき、それを乗り越えて人間達を任せるに足る素質を身に付けられたと認められ初めて星のオーラを集める任に就けるのだ。言わばそれでようやく一人前。我々人間で言うところの社会人に当たる身分となる訳だ。
さて、そうした経緯の末、遂に主人公は師匠イザヤールから守護天使として働くことを許可された。往々に守護天使は一人が一つの集落を担当として受け持つが、彼は今日までイザヤールが守ってきたウォルロという名の村を任されることとなる。今日から「ウォルロ村の守護天使」として、村が感謝の心で満たされるよう尽力していくのだ。
守護初日。主人公、つまり私はまだよく知りもしない村の情報を集めるため、まずは一通りの人間から話を聞くことにした。とは言ってもこちらは天使。人間にはその姿は見えず、基本的には彼らの会話などから個人個人の背景を推し測るところから始めていく。しかし人間も様々。自身の悩みを開けっ広げに口外する者がいる一方で決して恨み辛みを外に出さず内に溜め込むタイプの者もいたりする。そうした人々にも平等に救いを与える為には、時に、心の隅では悪いことと思いながらも、その人の個人的空間・時間にずかずかと踏み込まざるを得ないこともある。即ち、民家に無断で立ち入ったり、決して他人には聞かせられないであろう独白を盗み聞きしたりといった行為のことである。だが誤解してはならないのは、決してそうしたことをやりたくてやっている訳ではないということ。無論胸は痛む。胸は痛むが、延いてはそれがその人自身の救いに繋がり、それが同時に自分達天使の救いにも繋がるのなら、それは目をつぶらなければならない現実でもある。そう自分に言い聞かせ、私はまるで舐め回すかのように村の隅々までを隈なく探索した。道端、家の中は勿論のこと、家の裏、井戸の中、はたまた誰のものとも知らぬ部屋のタンスの中まで。そうする内、私はある一つの事実に気が付くのだった。おかしい、タルや壷を割ることができない。
私が己の愚かな間違いに気付いたのは、まさにその「おかしい」と思ったすぐ後のことだった。割れないのではない。割らないのだ。天使は幽霊などとは違って実体を持ってはいるからその気になれば手を出すことはできた。だが彼は敢えて割ろうとはしないのだ。何故なら、割ってしまうということは自身の存在を村人に示すようなものだから。天使が、故人を除く人間にその存在を知られることはご法度である。彼は師の教えを忠実に守り、守護天使の名に恥じない天使であるよう努めていたのである。
逆に、恥じなければならないのは私であった。いつの世にあっても他人の空間を蹂躙し他人の財産を強奪し思うがままに私腹を肥やしてきたDQの主人公達を見る中で、当然それは許されてしかるべき行為なのだと思ってしまっていたことを、彼に気付かされたからだ。ある天使は言うのだった。「なぜ自分達天使が愚かな人間なんかを守らなければならないのか」と。市井の人間である私はだがしかし思ったものだ。それはさすがに言い過ぎなのではないかと。確かに我々は至らないところだらけ欠陥だらけの生き物ではあるが、しかし天使達との間に絶対的な隔たりや格差が存在するとは思わないなと。それは、過去少なくとも5度、人間が世界を救ったという歴史からくる1つの自信であった。だのに、その信念を揺らがせ、心無い天使の言葉がその実もっとも真に迫ったものだと証明したのは、誰でもない私自身だったのだ。画面の中の主人公が、物言わずとも雄弁に語る天使の偉大さと人間の浅はかさ。例え天使の身だとしても、姿が見られない以上器物を破損してもそれが「天使の仕業」と悟られることはほぼあり得ないのだから別に壊したっていいだろうと考えてしまった私の心のいかに汚れ切っていたことか。決して誘惑がなかった訳ではなかろうに、タルや壷の中身を改めたい衝動を遂に最後まで抑え切った彼を見て、私はもう涙の出る思いだった。そして誓うのである。自分も生まれ変わろう。もっと真っ当に生きよう。あんなにも心の奇麗な天使に見守ってもらっていると知って、一体どうしてこれまでの人生の過ちを悔い改めずにいられるだろうか。
だが運命とは、神とは無慈悲なものだ。こんなにも真摯になって守護天使の任に就いている彼へ、大きな試練を与えようというのだから。
主人公がウォルロ村でひとしきりのお勤めを終え一旦天使界に戻ると、何やら周囲が慌ただしい。話を聞けば、いよいよ世界樹に果実が実りそうだというのである。長老の命を受け、今しがた持ち帰った星のオーラを世界樹に捧げる主人公。すると遂に、オーラで満ちた世界樹が黄金に輝く女神の果実を実らせた。これが全ての天使達の悲願。何百年と続いた使命を全うした瞬間。しかし感慨に浸るが早いか、空の彼方からお迎えはやってきた。言い伝えによれば、自分達を神の国へと導いてくれる天の箱舟が現れたのだ。伝説は本当だった。いやが上にも高鳴る鼓動。神よ、今あなたの御許に参ります…
だがその時。
突如として雷撃走る。雷は箱舟を襲い、箱舟は目の前でバラバラになって地上へ落ちた。そして事態を飲み込む時間すら与えられぬ内に禍々しい光が下界から天使界を貫き、まるで世界の終わりを思わせる激震に襲われる中、不意に足をすくわれた主人公は天界から下界へ落ち……
目を覚ました時、彼はウォルロ村にいた。しかしそれは、この村の人々を守るための天使としてではなく、頭の光輪を失くし、背中の翼を失くし、人の目にも触れるようになった見た目には一介の人間として。彼は奇しくも、本当なら自分が救いの手を差し伸べていくはずだった人々から逆に助けられることとなったのであった。そして間もなく、彼は非情な現実を目の当たりにする。昨日は天使として回った村を、今度は人として回る。すると、思いのほか自身に対しての風当たりが強いことに気付くのであった。ある者は彼をその格好だけで旅芸人などと称し、またある者は話しかけると露骨に訝しげな表情を浮かべる。中にはさっさと村を出て行ってほしいと言わんばかりの拒否反応を示す者までいる始末。だがしかしそれもそのはず。村人からしてみれば彼は、突然空から降ってきた奇抜な格好をしている得体の知れない人間なのだ。よっぽど好奇心旺盛か物好きな人でもなければ、冷たく当たったり避けたりするのも無理はないというものだ。だが彼の頑張りと彼の真摯さを知っている私は、それがまたもや人間という生き物の下劣さを物語っているように感じられてならなかった。いや、私だけではない。これには少なからず当人にも思うところがあったのではないか。たった一日ではあれ、心から彼らのことを考えて行動したのにそんなこととは露知らずこんな風に扱われるようでは全くもって浮かばれない。それどころかあまりの身勝手さに腹立たしさすら覚えてくる。純粋だった彼の心は次第に荒んだ。こんなことなら守護天使になんてならなければよかった。やはり人間なんて守る価値のない下等生物だったんだ。これまでの人生を全て否定されたように感じた彼はその時、この世の全てに失望していたことであろう。彼はおもむろに民家へ踏み入ると、片っ端からタルと壷を割って回ったのであった。

おめでとう。これで君もDQシリーズ主人公の仲間入りだ。


進行状況:1日目



09/11/22(日) 第287回 DQ9はプレイヤーに強制的制限プレイを強いる不親切なゲーム

2日目。遂にサンディ御大が華々しいデビューを飾る。
実を言うと、この手のキャラクターが今作に登場することを私は前情報として知っていた。このことは、先入観なしで初対面したときのとてつもない衝撃を味わうチャンスが失われたと残念に思う一方、ある意味では「これで良かった」と思わせる一面もあった。何故ならば、何も知らないまま御大登場のシーンを見せつけられてしまっては、あまりの飛ばしっぷりにやや引いてしまう可能性があったからである。さらっと言いはしたが、「DQで引く」ということがもしあるとすればそれは相当のことだ。「FFで引く」のならまだしも(何も私はFF10-2のことを槍玉に挙げている訳ではない)、「DQで引く」なんてことは絶対にあってはならない。あれだけ保守に徹してきた長年のシリーズがその既成概念を派手に打ち破って、しかもそれが大幅に悪い方向へ転んだ光景を目の当たりにしたそのとき、いよいよ私は「世代交代だな」という言葉を残し今作をもってDQシリーズから卒業してしまったかもしれないのだ。それを考えれば、御大の存在を事前に知り心の準備ができていたことはむしろ良かった。私はすんでの所でDQファン群からの脱落を免れたのであった。

さて、ルイーダを救出して舞台が次の町セントシュタイン城へ移ると、お待ちかねのルイーダの酒場が開放になった。さあここからが大変だ。私はこれから、都合3人分のキャラクター作成に勤しまなくてはならないのだ。主人公1人作るのにあれだけ頭を悩ませたと言うのに。
しかし今回ばかりは、名前だの容姿だのと下らないことに時間を使っている場合ではない。職業を決めなければならないのだから。そう、今回の仲間システムはほぼDQ3に準拠したものになっていて、登録するキャラクターの初期職業を選べるようになっているのだ。
戦士、武闘家、盗賊、魔法使い、僧侶、旅芸人……ここの選択は即ち今日以降のDQ9一周目の難易度選択である。当然バランス調整がされているものとは言えどうしても個々の使いやすさ、使いにくさは特徴として出てきてしまう以上、使いやすい職業を選べばこの先の旅は楽になるし、使いにくい職業を選んでしまえば最悪攻略不能な事態に陥ることもないとは言えない。ここで「まさかいくら何でもそんな」などと思った人にはFF1白魔術師×4プレイでもお勧めしておくことにしよう。また、パーティー人数1つ取ってもただ闇雲に手数が多ければいいというものとも限らない。ロマサガ1などでは6人編成よりも4人くらいでいた方がやりやすかったりすることもあるように、少人数の方が小回りが利いて有利になる場合もあるのだ。
ただ、実際どうしようかということを決める前に、私は感じていた。確かに仕組み的にはDQ3に近い職業システムということになっているが、実際のところ今回はDQ3と比べるとかなり自由度に欠けている気がするなと。何故だろう。選択肢が少ないから? いやあ、DQ3だって確か勇者と賢者以外で7種類だったはずでそうは変わらない。それにその減った1種類というのも当時の商人に相当する補助系とも言い難い職業でそもそも私のプレイスタイルにおける選択肢に含まれていない。そうするとあれか、シリーズを通してお馴染みになった顔ぶれを見て今や「商人、盗賊、遊び人みたいなのは端からいらない」と決めてかかってしまうことが選択肢の少なさを実感させているのだろうか。うーん、DQ3の初プレイはFCでやったクチだが、当時からそこらは眼中になかったと思うけどなあ。
あれこれ考える内に、私は1つの答えに行き着いた。諸悪の根源は主人公にあると。つまり、強制的に初期職業が決められてしまっている主人公の存在が、プレイヤーに若干の縛りを与えているのではないかと。勿論反論はあるだろう。何故ならば先ほどから何度も引き合いに出しているDQ3も主人公の初期職業は勇者で固定だからだ。だがポカパマズさんの息子と辺境の村の守護天使にはある1つの決定的な違いがあった。それはカンダタの色違いのご子息が「勇者」であったのに対し、今目の前にいる男は「旅芸人」であるということ。勇者と旅芸人。安定して生計を立てるのが難しそうな職業だという点では似たようなものとも言えるこの両者だが、魔物と戦う旅路の中での「戦力」という観点で言えばこの二者には絶対的な隔たりがある。あちらさんは勇者。力任せの攻撃ができて呪文も使える攻守ともにバランスの取れた存在だというのは例え未プレイだろうが容易に想像が付き、だからこそ残りの編成は僧侶を1人でも入れていれば後は何を選んでも概ね安泰だろうと見通しが付く。だがしかしこちらは旅芸人。私もできれば人を色眼鏡で見たくはないものだが、しかし残念ながら戦闘術にかけて戦士や武闘家に劣るのは明白。呪文はそもそも使えるようになるかどうかが怪しい。職業を一覧にして見たとき、明らかにかつての「遊び人」に当たる位置付けだと分かるのも気になる所で、今はまだ他と比べても遜色ない戦いっ振りを見せてくれてはいるがレベルが上がるに連れ次第にプレイヤーの命令を無視して一発ギャグを披露するようになることも予想される。初め、主人公の初期職業が旅芸人だと分かったときは「なかなか珍しい展開だなー」くらいの感覚でしか捉えていなかったが、こうした「お遊び的キャラ」が既に確定で1人いるというのは思った以上の制約であることを痛感した。何しろ、これから作ろうとしている3キャラクターの内の1人でも「お遊び的キャラ」にしてしまうと、それだけでパーティーの半分が「お遊び的キャラ」になってしまうのだ。旅芸人が遊び人と同等であると仮定すると、単純に考えてパーティー全体の戦力は半分。記憶によればDQ9は攻略サイトなどの存在を考慮したバランスになっているらしいので、今回も自力プレイがモットーの私にはそれが致命傷になり得る可能性が十分にある。詰まる所私は「仲間の職業を自由に決められる」という触れ込みの中で、しかし既に「魔法使い」と「僧侶」と、あと「戦士と武闘家のどちらか」という編成を義務付けられていたのであった。
かくしてパーティー編成終了。僧侶と魔法使いと武闘家が加わった。今後ダーマの神殿に到着し次第主人公を戦士に転職させ、戦武魔僧の黄金パーティーを完成させる計画である。ちなみに危惧されていた名前の方は、気に入っているドラマの登場人物名から1つ、ファンタジーの世界観でも通用する日本人名を2つ付けた。これがなかなかどうして、いい感じにはまってくれる。自画自賛かもしれないが。しかし新参の3人全員に対して現実によくある名前を付けたことで、1人特異な響きの名前の主人公が「普通の人間ではなく天使である」雰囲気を出すようになったのは、全く狙ったつもりではなかったが気に入っている。

さて、メンバーも固まり、ひとまずレベル上げをしつつ周囲のマップを散策していたら油断してシュタイン湖へ足を踏み入れてしまい僧侶のMPが切れかかっていたにもかかわらずそのまま謎の黒騎士戦へ突入してしまったことに焦りながらも事前に購入していた大量の薬草に助けられ辛くも初の全滅を逃れた所で、ようやくDQ9も本格的スタートと言った所か。プレイ2日目も終わるという段になってやっと本番という現実に、「ああ、今回も結構時間がかかりそうかなあ」などと思っていたが、そんな私の心情を知ってか知らずかサンディ御大はこう言い放つのであった。

「アンタそこいらのザコと戦いすぎ。もっとサクサクプレイしろよなウゼー」(意訳)

きっ、貴様っ……人が気にしていることを…
頭の中に、いつかのトロデ王の言葉を思い出しつつ、成長しない自分への不甲斐無さに少し失望しながら、私はDSの電源を切った。


進行状況:2日目



09/12/20(日) 第288回 景気回復の兆し

恐ろしいことに、ここ2回のプレイ日記が一部の「妄想」を文量換算で上回る。1日で一息に書いた訳ではなくて暇があるときに少しずつ書き溜めていったものだとはいえこのことは、その気になりさえすれば3年振りの「妄想」新作を2、3週間程度で用意できなくはないということを意味しているような気はするが何のことはない、それは思い違いである。まあでも、日記自体はもっとあっさりめにしよう。でないといつまで経っても終わらん。

さて、不況不況と十数年か言われ続け、でもここ2、3年は本気で危機感を覚えるくらいの情勢になってきた感のある今日この頃。私も先日支給された賞与がそもそも減り気味だった前回よりもさらに減っていたことにショックを受けつつも、「賞与」という形式で受け取れるだけまだましなのだろうかなどと思っていたのだが、その「一億総不況」の日本にあってテレビゲーム業界のそれもDQシリーズというごくごく一部の世界だけはそんな世相もどこ吹く風といった感じだったそうで、ああ確かに2日で230万本出荷しただか売っただかしたってニュースを聞いたな、DQさんだけはまだまだ元気というか底力みたいなものがあるな、と他人事のように感じていた。他人事。それもそうである。ご多分にもれずその「DQ9景気」の一端を担った私であるが、それで潤ったのはあくまでDQ9を開発、発売したスクウェア・エニックスを初めとする業界の内側の人達なのであって、どんなに販売本数が記録的であろうがそれは利用者、消費者たる我々にとって少なくとも現段階では無縁の特需なのだから。そう、我々は、この程の売上が次回以降の作品の品質を底上げしてくれて初めて間接的にその恩恵を受けられるのであって、今はまだまだ直接何がどうこうするといった段階ではないのだ。いや、ないのだ、と、思っていた。
その認識にどうやら間違いがあることに気付いたのは、実はプレイ初日、ウォルロ村近辺で1匹のスライムと戦っていたときのことだった。今回も作品中最弱モンスターとして冒険者達に狩られ続ける運命のスライムを我が剣の錆にしてくれると、このようなメッセージが表示されたのである。

スライムを やっつけた!
4ゴールドを 手に入れた!

一見いつもの勝利メッセージに見える。しかし過去シリーズの経験者であればこれがどれだけ異常な内容か、よく分かるはずである。即ち、スライム1匹が4ゴールドも持っている。
スライムごときを倒して得られるお金はせいぜい1ゴールドか、多くて2ゴールドというのがこれまでの慣例であった。なのに今作ではその記録を易々と塗り替えての4ゴールド。バブル。その瞬間私の頭にその言葉が浮かんだ。だって、スライムという、DQモンスター界では永遠の下っ端であり、万年落ちこぼれの代名詞であり、時に「自分よりもっと弱い存在がいればいいのに」と夢を見つつも現状から脱却する努力を怠るダメ人間であり、容姿の愛くるしさただそれだけで誰からももてはやされるあまり一丁前にゲームの主役を張ってみたりしちゃううぬぼれ屋なんぞが、他の時代の同類と比べ平均して3倍ちょっとのお金を持っているというのだ。これがどれだけ凄いのかということは、あなたの財布の中に普段入っているお金がおおよそ3倍程度になって、しかもそれが普通の感覚になっていると考えれば分かり易いだろう。あ、いや、何もあなたがこの日本における一番の下っ端だと言っている訳ではなくて。
ともかく、バブルは現実世界のDQ9周辺のみならず、このDQ9の世界の中にも訪れているらしいことが分かった。さすがにどいつもこいつも従来シリーズの3倍近くお金を落としていってくれるという訳ではないが、しかし全体的に所持ゴールドが多めになっている傾向があるのは確かだった。これまで散々「DQは物価に対して戦闘ごとの収入が少な過ぎる」と言われ続け、新装備が登場する度にそれを買い揃えないと気が済まない性分の私を長年に渡って苦しませ続け、前作でついにそのポリシーを曲げさせた世界に今、新時代が到来したのである。

ところで、金が溜まり易くなっているということは装備品調達のための資金稼ぎに最も時間を費やしがちな私のプレイにおいてプレイ時間の大幅短縮が狙えるという非常に大きな意味を持つが、その割にこの日も御大から「戦い過ぎ」だの「テンポが悪い」だのと罵られているような気がするのは無論思い違いである。
あと、プレイ日記と言いつつ肝心のシナリオのことにほぼ触れようとしないのは、そろそろプレイ当時のことなんて忘れかけてきているから、というのも当然思い違いである。


進行状況:3日目



10/01/17(日) 第289回 抗えない男

エリザは言うのだった。夫たる彼は自身の研究にかかりきりで自分のことなんて気にもしてくれず、そのために命をも落としたというのに。しかし彼女は、最愛の人を失ったことに自責の念を抱き続ける夫を想って言うのだった。

「私の最後の頼みを聞いてください。彼をお願いします」
→はい
 いいえ

私も昔ほど純粋な人間ではなくなったから、この手の問いかけを見るとつい「いいえ」と答えたくなってしまう。だがそれはこれまでに極めて多くの人々の願いを聞いてきた経験が喚起させる意地悪い思いであった。つまり私は知っているのだ。ここでどんなに冷たく突っぱねたとしても、多分彼女は食い下がってくるだろうし、それを何度繰り返しても結局最後には「はい」と答える羽目になるのだということを。今でも振り返れば思い出す。旅にお供させてくれと勇者の子孫に願い出たラダトーム王女。俺の子分にしてやると息巻いたラインハット第一王子。己の願いを押し通すためなら天候を操ることすらいとわなかった故レヌール王の暴挙などは今でも鮮明に覚えている。そして今、また一人の若者が私を試そうとしているのだ。だから私は、最近この手の質問に出くわすとつい意地悪な返答をしてみたくなってしまう。
だが。その瞬間私の頭の中でもう一つの記憶が呼び覚まされる。モンストルの戦士アモス。ルーメンのチビィ。DQにおいて数少ない「選択を誤ることによって取り返しのつかない結果をもたらす」この2大イベントにおいて何とその両方で過ちを犯してしまった過去が私を悩ませる。「いいえ」と答えても構わないと思う、問題はないと思うが、でも万が一そのたった一度の発言でまたしても救われない結果に終わってしまったら? それによって、クリア不能に陥るまでのことはないとしても、彼女の夫が後追い自殺してしまうとかいうあまりにも後味の悪い結末を迎えてしまったら? 少しでもそういう可能性があると思ってしまうと、もう私には「いいえ」などというふざけた発言はできなくなってしまうのであった。頼まれれば、引き受ける。期待されれば、応える。そうすることでもしかしたら悪意ある人からは「何でも言うことを聞いてくれる都合のいい人間」と思われるかもしれないとしても、ただ何も考えずに動いてさえいれば少なくとも見た目には最も気持ち良い結果となるのなら、私は喜んで「いい人」として生きることを選ぼう。

ああ、私は何と弱い人間だろうか。やたら一本道一本道と言われる日本のRPGの、その決められたレール通りにしか歩けない現実を直視しながら、私はその無力感をこの日お目見えとなったメタルスライムにぶつけるのだった。
このやろ、このやろ。


進行状況:4日目



10/01/24(日) 第290回 クズ人間更生プログラム

驚いた。今日遂に旅の便利呪文「ルーラ」を覚えたのだが、その消費MPが0と表示されていたのだ。
これまではちゃんと呪文らしく消費MPが設定されていたはずなのに。DQ6くらいから露骨に「プレイヤーのための便利機能」化して消費MP1になったりはしても最低限呪文としての体裁は保っていたはずなのに。遂に無条件で使えるようになっちゃったか。私はこの事実に、DQ8でベホイミの消費MPがたった3になっていたことを知ったときと似た悲しさを覚えた。とかく近年のゲームは難易度が易し過ぎると言われるが、その例に漏れずDQもライトプレイヤーの方へ基準を置いているのだということに、20年来のファンは複雑な思いを抱いたのである。
つーか、そんな一プレイヤーの身勝手な失望は正直どうでもいいんだが、「キメラのつばさ」の利点がこれで正真正銘完全になくなったことについてはさすがに一声上げなければならない気がする。本作の「キメラのつばさ」は25Gだが、もはやルーラを唱えられなくなる危険性が皆無となった今、こんな物を25Gも出して買うなんてバカのすることではないか。まさか本作の「キメラのつばさ」は、ゲーム開始からルーラ習得までの短期間(今回、ルーラはイベント進行上このタイミングで覚えることになっている)にのみ的を絞って使うアイテムということになっているとでも言うのだろうか。私は、こんな時代になってもなお乱獲の限りを尽くされるキメラに心の底から同情した。そのうち人間には罰が当たるだろうな。一応本作のルーラは一般人には覚えられない訳で、その意味では世間的な「つばさ」需要はあるということになっているんだろうからまだいいが、これが次回作になっても唱え放題とかいうことなら、もう擁護はできんしな。DQ1からずっと沈黙し続けていたキメラ達が満を持して大反乱を起こしたとしても、人間側に加勢してやれるとは限らないからそこのところ覚えておけよ。

閑話休題。結局祈ってみただけでは天使の姿には戻れなかったので今度はオープニングムービーで下界に散らばっていった7つの女神の果実を集めに行くというドラゴンボール的展開になったところでいよいよお待ちかねのダーマ神殿が登場した。が、DQ6からの慣例によりどうもすぐに転職させてはもらえない模様。旅芸人主人公の旅はもうちょっとだけ続くんじゃ。
という訳で手っ取り早くイベントを進める。ここのイベントのボス、ジャダーマはこれまでのボスに比べると多少骨があったように思えたが、それでも死者0で突破した。何か途中でバギが暴走したとかあったけど、バギ如きが暴走しちゃうとか。ねえ。そんな低レベルな呪文一つ満足に制御させられないようじゃあ、まだまだ我々には敵いませんな。ま、元々戦闘向きでもなんでもなかった一介の人間が突然身に余る力を得たってことは考慮しなければならないのかもしれないけれど、仮にそのことを差し引いて考えたとしても、その暴れ狂った竜巻にできるのは「呪文の暴走」なんていう過去シリーズには無かった新概念で初見の旅人をうろたえさせることくらいだろう。え、うろたえちゃったの。
さて、ダーマ神殿が機能を復活させたところで早速主人公は旅芸人を卒業し、当初の予定通り戦士の道を歩むこととなった。ああよかった。これでようやくふざけた態度の人間がいなくなってくれた。ああいうのがいると周りの人間も迷惑被るんだよねー。士気が下がると言うか。それに、景気が上向き傾向にある(前々回参照)とは言ってもまだまだ経済情勢的にはお寒い状況が続くこの世の中、働き口があるということだけでも恵まれているのかなとは思いつつ、それでも旅芸人なんぞに雇われてしまった三人の戦士達のことを思うともう胸が痛くて堪らなかったものだ。でもまあ、そんな駄目オーナーの主人公君も今日から生まれ変わったつもりで頑張っていくということだから、皆には彼を許してやってほしい。今一度チャンスを与えてやってほしい。皆それぞれに言いたいことはあるかと思うけど、ここはひとつ、今日から旅が本格的に始まるんだと思って、ね。もうプレイ5日目なんですけどね。
という訳で、我々の新しい旅が始まった。まず初めにすることは、転職してレベルが1になった誰かさんのレベルを幾つか上げること。おいおいおい、この期に及んで変な手間取らせるなよー、とつい口にしそうにはなったが、寛大な心を持っている私はこれを許した。もっとも初めから戦士でいてさえくれれば発生しなかったはずの作業をただ黙って受け入れたのは、私の心が人一倍広かったことの他にもう一つ大きな理由がある。前日のプレイでメタルスライムの出現地を発見していたことだ。
シリーズとしては初めてシンボルエンカウント方式を採用した本作、実のところ戸惑いは結構あったが(戦いたくなければひたすら戦闘を避けられるだけにどこまで敵を無視していいのかの線引きに悩むという点で)、こうした「目的の敵とだけ出会いたい」という場面においてはこんなに素晴らしいシステムもないものだなあと感じたものである。何しろ、会う敵会う敵がどいつもこいつもメタルスライム。拳を交える機会の全てが1000超の経験値獲得チャンス。まあ実際やってみるとそのメタルスライムシンボル自体が他の敵シンボルに比べて出現しにくかったりはするのだが、それでも従来シリーズに比べればよっぽど効率良くレベルが上げられる(ような気がする)。詰まるところ私は今、レベル上げをすることに対してさほど大きな抵抗感を持っていなかったのだ。むしろ1度か2度くらいなら積極的にレベル上げをしたいとさえ思っていた。ふん、主人公も運が良かったな。世が世なら主人公と言えど容赦なく斬り捨てているところだ。

ところで、ダーマ神殿にいる人の話だと上級職への道もいくつかあるということなんだけれども、3人はその辺りどうだろう。希望があれば上級職解禁のクエストを受けてみようと思うけど。え? 転職したらレベルが1に? いやいや、そんなの気にすることないって。大体レベルが1とは言っても上級職のレベル1だからねえ。今になってようやくまともな基本職に就いた半ニートクズ人間とは訳が違うんだから。むしろそのクズ人間にレベル上げの時間を割いてあげてる今、一緒になってレベルを上げちゃうって手もあるよ。うん。


進行状況:5日目


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