過去ログ31へ  過去ログ33へ  最新の雑文へ戻る  過去ログ一覧へ  トップページへ


05/12/08(木) 第311回 携帯電話早打ち

携帯電話でメールを利用する事が殆どない。と言ってもそれは私に友達がいないという事ではなく、何度か言っている事ではあるが私が毎日自宅から100km程離れた地へ遥々と通っているからで、つまり地元に友人知人がいないだけなのだ。
まあ私の友達事情等はどうでもいい事なのだが、とにかく普段あまりメールを使わないといざ使うという段になって時間がかかって仕方がない。メールの利用頻度が低いからと言ってそれが一回のメール作成における文章量の少なさには必ずしも直結はしないんだから厄介なのだ。見ているこっちの手がつりそうになる程のスピードで文字を打ちまくる猛者を見ていると、流石にあれ程にまではならなくてもいいかなあ、とは思うものの、でもメールを打つ時の遅さにはさしもの自分ですら何でもうちょっとばかり早く打てないのかと自分の右親指を歯痒く思う事があるのも事実で、でも月一、二回のメールの為に早打ちなるものの訓練に明け暮れる程無意味な事はない訳で…

なんていう上記の文章全414文字を試しに携帯電話で打ってみたら、たっぷり40分はかかってしまった。まあ文章の内容を無駄にいちいち考えつつではあったが、それでも2〜30分はかかっていたのではあるまいか。
惜しむらくは周囲に携帯電話早打ちの達人たる人間がいないのでこれがどれだけのものなのかの見当がてんでつかないという事である。つーかもしかしたら、そんな状況でありながら414文字もの文章を打つだけ打ってみてしまった事こそが一番の無駄だったんじゃないかと今では…



05/12/09(金) 第312回 「え段」地獄

昨日、携帯電話の早打ちについての話をしていて、実際に素早く打てる人はじゃあどの位の速さで打てるのだろうかという事が至極当然の疑問として浮上した訳だが、流石に世界は広い、インターネットというものはこんな下らない疑問にすら一つの答えを出してくれた。
何と世界には実際に「携帯電話早打ちコンテスト」なるコンテストが実在するという。これは昨年シンガポールにて行われた大会なのだが、その全貌は至って明快だ。題材として提示される文章を、とにかく早く打つ。それだけである。後、細かなルールがあるとすれば予測入力機能を禁止する事位なものか。世界はおろか日本にだって殆どの人間がルールを知らない競技があるであろう中で、こんなに単純明快な大会はそうあるものではない。
さて、その去年開催された大会において題材となった文章というのが、これである。

The razor-toothed piranhas of the genera Serrasalmus and Pygocentrus are the most ferocious freshwater fish in the world. In reality they seldom attack a human.
(日本語訳:カミソリのような歯を持つセラサルムス属とピゴセントロス属のピラニアは、世界で最も凶暴な淡水魚です。実際に人を襲うことはほとんどありません)

全160文字だそうで、んで、その大会の優勝者はこれを43.24秒で打ったらしい。昨日の私の失態とは勿論比べるべくもないが、それでも失礼を承知で比較するなら文字数的には約2.5倍のものを私は、幾ら短く見積もっても昨年大会優勝者の大体30倍近い時間をかけて打ってたんだからその凄さを実感すると言うか、そうでなければそのヘボさを実感すると言うか。

この優勝者の記録は実は大会開催時点における携帯電話早打ちギネス記録を実に20秒近くも更新し見事新記録を樹立した。そこで気になるのは、日本にはどの程度の猛者共がいるんだろうかと、つまりまあ昨日も言った様にこの国にだって見ているこっちの手がつりそうになるスピードで次々と文字を打っていく言わば精鋭達は少なからずいる訳であるのだが、そういった人達の中にギネス級の実力を持つ者は果たしているのだろうかという事なのだが、ちょっと考えるとそれはちょっと無理がありそうか。
片やアルファベット全26文字+数字+記号で構成される英語、片や平仮名(濁音、半濁音含む)71文字+片仮名71文字+漢字+数字+記号で構成される日本語。どちらの方が速く打てるかと言ったら、それはどうしても英語の方になるのだろう。勿論日本語でなく英語を打つにしても、普段打ちなれてないものを打つ訳だからギネス級の記録なんて出る訳はないし。

そう考えると、こういったコンテストっていうのは、一つの言語圏内において行うのが一番いいのかもしれないね。
実際にそういった大会みたいなものが国内で開催されてるのかどうかは分からないけど、こういうのはやってみると面白いと思うよ。例えば「以下の文章を打ち込みなさい」なんて言って、

「トトロ、とっととお外のおとそを飲もうよ」

とかいう「お段」ばかりの甚だうざったい文章を打たされたりするのだ。文章自体に何か意味があるのかという問いは愚問である。そんなものはないのだから。
あ、でも「お段」の文字はボタンを五回押さなくても「あ段」→「お段」に逆回りも出来るから以外と厄介じゃないのかもな。じゃあこれはどうだ。

「ゲレゲレへべれけてってけてー、出てねえ寝てねえ消せてねえ」

繰り返すが、意味があるのかという質問を投げかけるのは愚行と言わざるを得ない。そんなものはないのだから。



05/12/10(土) 第313回 ギネス記録

やった!! 昨日言ってた例の早打ちコンテストで出された課題文を、大会優勝者の記録よりも8秒短いタイムで打ち切ったぞ!! ……パソコンのキーボードでだけどな。

という訳で、一応昨日だって「自分だったら何秒で打てるかなー」ってのをやってみようかとは考えたんだけど、負け確定はおろか記録に肉薄する事も無理だって事は最初から分かってたからね、そこはあっさり引き下がったのである。でもキーボードだったら勝てるんじゃないかなあ、なんて思い立っちゃったもんだから早速やってみたらこれがどうだ、一応勝ったけどさ、思ったより接戦だったじゃないの。「キーボードだったら余裕だなあ」とか思ってた自分が恥ずかしいぞ。

ところで、例の文章を35秒程で打てたという事から、期せずして私がタイピングの際に人差し指だけでタイプしているのではなく、きちんと10本の指によるタイピングを身に付けている事が示せたと思うのだが(勿論、世の中には人差し指だけであの文章をもっと早く打てる奇人もいるのだろうが)、私はかつてこの、パソコン入門者にとっての難関の一つであろう「10本指タイピング」を、わずか一日にしてマスターしたという経緯を持つ。
正真正銘、一日である。厳密に言えば、数時間である。確かに前日までは人差し指2本のみでカタカタとタイプしていた私は、何が切っ掛けだったのだろう、確か「それ止めた方がいいよ」とかいう事を言われたんだろうけど、とにかくそれを機に一念発起して、当時所持していたワープロに入ってた練習ソフトを触っていたらその日の内に10本指タイピングが自分のものになっていたのだ。勿論ながら、それまでは自分が10本指タイピングなんて出来る筈ないと思っていたし、実際出来なかったからこそ人差し指しか使っていなかったのだから、これには自分自身大層驚いたものだ。

と、こういう風に書くと「自慢かよ」と思われる方もいるであろう。いやまあ、実際自慢する気が一切ないのかと言われればそういう訳でもないのだが、でも実はこれ、そう大口を叩ける話でもなかったりする。
というのも、一日で10本指タイピングをマスターしたという事実に気を良くしたか、それ以後殆どタイピングの訓練を行わなかった私は、それから今現在に至るまで目立ってその実力が向上しなかったからだ。うーん、毎日毎日こんなに文章を打ち込んでいるのになあ。



05/12/11(日) 第314回 アバカムの真実

アバカム…君にはほとほと失望したよ。まさかお前がそんな奴だったなんてな。
俺…言ったよな? 「呪文『アバカム』は最後の鍵の上を行くと言えるだろう」って、「最後の鍵なんて目じゃないぞ、分かる人なら分かってくれる」って、「アバカム万歳」って。
俺は、自分の本心を込めてあの言葉をお前に送ったんだ。あの言葉に嘘偽りなんて一かけらもなかった。お前の事を心の底から信じてた、だからああ言ったんだ、そうだろう?
俺…お前は良い奴だと思ってた。でももう終わりだ。お前が本当はそんな奴じゃないって、俺だって信じたいけどさ…でももう駄目なんだ…
お前は…本当に凄い奴だったな。いや! 今だってお前は、他のどんな鍵にも劣らない最強の存在だ。でも何でなんだ? 何でなんだよ!?

何で……っ
お前の名前の由来が…
扉を開けたら中にいた女の子が着替え中で、「あ、ばか〜ん(む)!」なんだよー!!

結局、お前も最後の鍵と同じ、あくどい事の為に生まれてきた存在だったんだな。



05/12/12(月) 第315回 孤独に生きたその人生

これまでのあらすじ
鍵穴のない扉とか、一部の扉を開けられない「最後の鍵」よりも、そういった扉さえ開けられる呪文「アバカム」の方が素晴らしい存在だと思っていた私はある時、その「アバカム」という呪文が不埒な目的の為の使用を念頭において生まれた事実を知り、深く落胆したのであった。


アバカムと袂を分かった俺は、しばし考え事をしていた。
さっきは勢いであんな事言っちゃったけど…あれで本当に良かったのか? アバカムの名前の由来が、とても褒められたもんじゃなかったってのは事実だ。しかもこれはまことしやかに囁かれている噂レベルの話じゃなくて、とある情報筋によればかの堀井雄二氏が自ら言っていたというらしいから、最早言い逃れの出来るものでないれっきとした事実だ。
ただ、事実だからって、その事だけで一方的にあいつを断罪して良かったのか? もしかしたらあいつは、元々そんなつもりじゃなかったのに、身勝手な人間から、ともすれば面白半分でそう名付けられただけだったんじゃないのか?
考えてもみれば、あいつはあらゆる呪文の中にあってもかなり高等なものの部類に入る。一般人がおいそれと覚える訳にはいかないだろうし、例えそれが勇者一行であったとて、それを修得する頃には各種鍵も手に入ってしまってるから、わざわざMPを消費するアバカム自身が何かしら悪用されるっていう事は…実はそんなにないんだよな。

そして俺は、改めて考えたのだ、DQ3を最後に、その立場を完全に最後の鍵に取って代わられる事となったアバカムの事を。
大体にしてあいつは、先に言った修得時期の関係とかがあってDQ2やDQ3の世界に存在していた頃から不遇だったな。あれを有効に活用出来た人間なんて数える程しかいなかったろう。それが今じゃもうまるで忘れられた存在だよ。孤独。あいつの境遇を言い表すこんなに打って付けの言葉は他にないんじゃないか?
なあ、アバカムよ、人間はつくづく利己的な生き物だな。自分に都合の悪い事を周囲から徹底排除する為には如何なる犠牲も厭わない、汚い生き物だな。俺だって人間だけど、でも自分ですら思う事があるよ、人間なんてこの星から消えてしまった方がいいんじゃないかって、いっそ俺も消えてしまいたいって。
アバカム、ごめん、俺が間違ってた。お前は、俺達人間のせいで闇の世界に生きる事を余儀なくされた被害者だったんだよな。出生にまつわる事情なんて関係ない。俺とお前は…

アバカムの奴に謝らなければ、そう思い立った俺は踵を返し、今来た道を戻ろうとした。

と…

「お前…」


続く



05/12/13(火) 第316回 ADVENT FINAL-KEY

これまでのあらすじ
アバカムの事を一方的に断罪したのはあまりにも身勝手の過ぎる行いだった。その事に気付いた俺は、もしかしてもう許してもらえないかもしれなくても、一言あいつに謝りに行こうと決意する。だがその矢先、何者かが俺の目の前に現れると共に、こんなものを書き散らしていていいのかという思いが早くも筆者を苦悩させるのだった。


「お前…」

突然俺の前に姿を現した者…懐かしいと言うには、まだあまりに近しい存在、「最後の鍵」が、そこにいた。
その刹那、俺の頭の中に去来したものは――

思えば、こいつにも辛く当たったもんだ。「お前がいるから、普く勇者一行は罪を犯すのだ」と。
少し考えてもみれば、まったく酷い話だ。俺はこれまで何度となく、こいつに世界を救う旅の一助を担ってもらったと言うのに。こいつの存在があるせいで、不法侵入と盗難とに手を染めるのは事実でこそあるが、こいつが所有者たる人間を操ってそうさせている訳じゃないだろう。あくまでもそれは、いつだってそれは、こいつを手にした人間によってもたらされた結果だったじゃないか。
いや、勿論その事は分かっていたし、分かっていたから、あの時だって確かに最初は鍵を使う人間が悪いという事を念頭に置いて話していた筈だったのに、こいつの欠点を一つ、二つと列挙していく内に、いつしか全ての責任がこいつにある様な気になっていた。全責任をこいつに転嫁していた自分がいたんだ。
あの時の俺は、どうかしてたな。でもだ、そんな一時の迷いを殊更に強く取り上げてだ、この期に及んで言い訳をしようなんて、もう思わないさ。そうだろう? その過ちが生んだ悲劇は決して無視出来ない、断じて小さくもない、これから先の人生、いつまでも心に戒めていかなければ償える筈もないものだ。でも、だからと言って、もう俺達の関係が修復出来ないからと言って、敢えてこれ以上の悲劇を選ぶ必要が何処にあろうか? ああ、今なら言えるというものだ。「すまなかった」と。やっぱり、とてもじゃないが許された所業ではないかもしれないけれど。

俺と最後の鍵は、それからしばらく話し合った。幾度となしに、共に歩んだ旅の思い出を。
俺がお前の事でまず真っ先に思い出すのはあれだな、DQ5の、ブオーン。あいつが手強くてな。当時「戦略」なんてものは全然頭になかった青二才の俺は何度も何度も奴にやられたよ。その末に勝って、お前を手にした時の喜びといったらなあ、今でも鮮明に覚えてるよ。確か…元々はゴロステとかいう盗賊が持ってたんだよな? ゴロステか…そいつもさぞかしお前を利用して悪事を重ねてたんだろう。やっぱ人間はろくな生き物じゃないな。
そう言えばDQ6ではお前より後に牢獄の扉を開けられる「牢獄の鍵」とかいう鍵が手に入ったっけ。ハハハ、最後の鍵の名が聞いて呆れるな、ハハハハハ…

ひとしきり話して、そして分かったんだ。こいつは、アバカムとの仲違いを望んでなんていない。二人が一緒に旅をしたのは本当に短い間だったけれど、まるで周りの全ての存在が、自分とアバカムとの共存を否定する様だけれど。いや、そうして引き裂かれる運命にあったからこそ、もしかすると…
その時俺は思い出した、例え一時であったとしても、アバカムの事を見切って今度はこいつに、「結局アバカムはそれを覚えた一握りの人間にしか使えない奴なんだよな」なんて笑いながら語ろうとしていた事を。
そんな俺を、俺は心の底から恥じた。


続く



05/12/14(水) 第317回 たった一本の楔

これまでのあらすじ
思いがけず最後の鍵との再会を果たした俺はしばらく二人で話す内、最後の鍵のアバカムに対する秘めたる想いを知り、改めてアバカムの奴に謝らなければとの思いを募らせる。そして「こんなのいつ終わるんだ」という人々の無言の批判をひしひしと感じつつ、今日もただ書くのである。


最後の鍵との絆を再び確かなものとした俺は、共に歩み始めた、俺の中にある、この心のモヤモヤを晴らす為に、そして最後の鍵の為にも。
歩く、歩く。アバカムと決別してからただひたすらに歩いてきた道を、今度はしっかと、その先を見据えながら。
その道のりは思いの外、長く険しいものだった。一体俺はどれだけの距離を一人で歩いていたんだろう。幾歩足を踏み出そうとも、いつか見た風景が目の前に広がる事はない。そうだ、「別世界」という言葉の他に、今を形容する事なんて出来ないのではないか、そう思わされる程に――
何を、バカバカしい。今までの人生においてすら誰かとの生涯の別れなんてものを経験した事のない俺が、立て続けに押し寄せた永別と邂逅との前にいささか感傷的になり過ぎたか。一時は、そうも思ったものだ。だがしかし、どれ程に歩いても、どれ程に呼びかけても、アバカムはその姿を見せない。いつだって声をかければ、すぐにでも俺の下に来てくれた奴の事なのに。結局数日をかけて、あいつが俺の目の前に現れてくれる事はなかった。

おかしい、どういう事だ。例えあいつが姿を晦ましたにしても、こうまでも、気配すら感じられないなんて。
もしかしたら…私は思った。DQ4以降、一切その勇姿を見せなくなっていたアバカムの事、考えるに、世間的には最早過去の存在として多くの人々の記憶から消え去っているのだろう。
もしかしたら…そんなアバカムをこの世界に辛うじて繋ぎ止めていたのは、曲がりなりだったとは言え何かとあいつの事を気にかけていた俺自身だったんじゃないのか? 俺が時々はあいつの事を思い出し、決して忘れようとしなかったからこそ、あいつは他の誰からも必要とされないばかりか殆どの人間が自分の存在を知らない世界にあってなお、その存在を保ち続けられていたんじゃないのか? もしそうだとすれば、俺があいつを突き放した事で、この世界への唯一の接点を失ってしまったあいつは…

この時俺は決意した。
今や完全に忘れ去られてしまったその呪文「アバカム」を、己が修得する事によって蘇らせると。


続く



05/12/15(木) 第318回 蘇れ古の呪文

これまでのあらすじ
アバカムがこの世界から姿を消してしまったのは、あいつと、あいつの存在を唯一必要としていた俺との絆が破綻したからなのではないのか。そう確信した俺は、自ら呪文「アバカム」を修得する事によってかつての盟友との再会を試みたのだった。そして物語はクライマックスへと近付いていく……から閲覧者の皆様方におかれてはもう少しだけ辛抱の事。


「今度は俺が『アバカム』を覚えるんだ」

そう決意したその日から、俺の戦いの日々は始まった。アバカムを修得するその日まで、ただただ戦って経験値を得、修練に努めるのである。
ムーンブルグの王女でもない俺がアバカムを修得するに当たって取り得る手段は一つだ。魔法使いの職に就く事、そして鍛錬を積む事。
そうとなれば、後は何をも顧みず戦うのみだ。だがしかし、俺は感付いていた。単に戦ってアバカムを覚えればいいという訳ではないのだろうという事を。
今俺に問われているものは、俺がアバカムを修得したという事実ではなく、ひとえにあいつとの絆だ。あいつを最大限活躍させてやれる状況を作り出す事こそが、「あいつの存在が必要なんだ」と言える世界を作り出す事こそが、あいつをこの世界に呼び戻す鍵となるのだろう。俺は、あいつを最大限活躍させてやれる状況、即ちまだあらゆる鍵を持たない、世界を救う旅に出たその初めの段階でアバカムを修得する必要があった。

雀の涙程にしか手に入らない経験値を、しかし確実に蓄積させていく。

スライムを倒した。
おおがらすを倒した。
いっかくうさぎを倒した。
おおありくいを倒した。
フロッガーも倒した。
じんめんちょうだって倒した。
バブルスライムも容赦しなかった。
まほうつかいなんてどれだけ斬っただろう。
さそりばちの顔はもう見飽きた。
アルミラージももう見たくない。
ホイミスライムはそうでもないが。
キャタピラー出て来るな。
おばけありくい死ね。

一体どれだけ戦ったのか、自分でもよく覚えていない。ただ、そんな日々を送る中で季節は一通り巡った気はする。
そして、一年以上にも及ぶ、戦う為だけに生き抜いた日々の果て、遂に俺はその時を迎える。

レベルが あがった
アバカムを おぼえた


次回、遂に最終回



05/12/16(金) 第319回 休載のお知らせ

本日掲載予定だった日刊連載「愛憎の鍵」の最終話「そして日常へ…」は、
筆者多忙につき休載とさせて戴きます。ご了承下さい。



05/12/18(日) 第320回 そして日常へ…

これまでのあらすじ
俺の一方的で自分勝手な行いから物別れになってしまったアバカムとただただ再会したいが為に、魔法使いの職に就き、長きにわたって鍛錬を積み続け、遂にその念願を果たした俺。二人は一体どうなるのか? 実に一週間にも及んだ大長編も今回が最終回だけど、今日一杯はまだ続くからもう一度だけ、我慢して読め?


俺の目の前に、アバカムが姿を見せた瞬間。

俺は言った。いの一番に言った。

「すまなかった」

一年、言いたかった言葉。俺のあの目に余る行為をたった一言の謝罪で全てなかった事にしてもらおうなんて思ってはいなかったし、こうしてアバカムに逢うまでの長い時を経る間に何度もどういう風に謝ろうかと考えていた。でも駄目だ。いざ面と向き合うと、全然言葉が続かないのだ。そしてより一層身勝手な事には、その一言が伝えられただけで、俺の中に安心感が生まれていた。一年背負い続けてきた苦悩や後悔から、まずは解放されたからだったのだろうか。

そして、アバカムは言った。「もういいよ」と。

この時の俺の心情を、一体どう言葉にすればいいのだろう。恐らく、どんな言葉でも安っぽくなってしまう程、色々な感情の波に全く対応出来ていない俺がそこにはいた。
これでようやく全てが終わったんだ。真の安堵感に包まれた俺は、アバカムに申し出る。また一緒に旅をしよう。そう、俺は君を極限まで役立てる為に、冒険序盤の舞台に居座り続けていたんだから。

しかし、その申し出に対しアバカムは首を横に振った。どうしてだ? やっぱり本当は俺の事なんて許せないのか? だがアバカムはその問いかけにも首を振る。だったら何故!?
アバカムは言った、ゆっくりと、まるで俺を諭してくれるかの様に。
アバカムは、あの時この世界から消えて一人になってから、考えたのだという。自分の存在意義というものを、自分自身の意味というものを。今日までの一年以上に及ぶ時間は、一人して考えるには十分な時間だった。アバカムはいつしか決意したのだそうだ、鍵穴のない扉すら開ける事を可能にしてしまう自分は、やはりいつまでも現世に留まっていてはならない、少なくとも人々の記憶から消えようとしている今となって、ずっとずっとしがみ付いている訳にはいかないんだ、と。
そして続けたのだ。「これでさよなら、だ」

「何て身勝手な、お前がいなくなるつもりでも俺はそれを許さないぞ!」 その感情は、口をついて出る直前でかき消される。本当に身勝手なのはどっちだ、俺だろう。そんな俺が、あいつにそんな言葉を吐けた筈もない。ちら、と見たアバカムの表情は、まるでどうすればいいのか分からず迷っている俺に、優しく「これでおあいこだな」と囁きかけている様だった。

それを見ると、やはり「駄目だ」とは言えない。でも「分かった」とも言えない。とてつもないジレンマに陥る中、今度は最後の鍵が俺に対してこう言ったのだ。「俺もアバカムと一緒に行く」と。
あまりにもその機能や利用目的が似通っている両者だけに、DQ4以降の長きにわたり共存する事すら許されなかった二人の事だ、そうした運命の下にあって生まれた絆たるや俺の想像なんてものは遥かに超えるのだろう。アバカムとは違い、今もって多くの人間から必要とされ続けている存在でありながらお前は、アバカムの為ならば己の身を消す事すら厭わないと言うのだから。
勿論俺は、止めなければと思ったよ。でもだ、最後の鍵の奴が「俺も一緒に」と言った時のアバカムの表情を見てしまったら…もう、俺には何も言えなくなった。ただ一言、「さよなら」と言うのが精一杯だった。

「今までありがとう」 そう言って最後の鍵と共に消え行くアバカム。俺は思わず叫んでたよ。

「お前達を失って俺は…俺はこれからどうすればいいんだ!?」

―――――


アバカムは、消えた、最後の鍵と共に。
悲しい。悲しいよな。でもくよくよしててどうなると言うんだろう。折角この世界に蘇ったにも拘らず、あいつは笑顔で去っていった、最後の鍵だって。だったら、俺も笑わなければ、今すぐには無理かもしれなくても。
そして俺は、再び歩き出す。アバカムと最後の鍵を失って、不法侵入や窃盗といった行為に出る術を失って…それはまるで真人間としての新たな旅を始めるかの様で。
完全に消えてしまう寸前、アバカムは俺に言ってくれた。これから先の人生、俺はあいつの、その言葉をいつも胸に抱いて生きていくんだろう。


――俺はこれからどうすればいいんだい?


――安心しろ、オチなんてなくったっていいんだよ





過去ログ31へ  過去ログ33へ  最新の雑文へ戻る  過去ログ一覧へ  トップページへ

ラシックス